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夜の訪問
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目が覚めた。
亮平はむくりと身を起こして、目をこすった。備え付けの時計は零時を指している。
寝心地が良すぎて、逆に寝心地は悪いベッドのせいで、起きたのだろうか? 環境が違うせい?
そんな繊細だった覚えはないのだが……と、亮平はそこで、物音に気付いた。
あの入る時戸惑った豪奢な扉から音がする。
寝室の扉の鍵を部屋を出て、廊下に通じる扉の前まで来た。
「誰だ?」
と言うより先に。
「開けてくれ! 頼む」
だから誰だよ、と眉をひそめる亮平。それから、あ、と気づいて、扉を開けた。
「あっ……開いたっ」
開けると同時に転がり込んで、ついでに扉の鍵まで締めてくれたのは、今日ちょっと知り合った上木 和之だった。
昼間に見た、好奇心旺盛そうながらも、理知の光をやどした瞳は、瞳孔が開き、怯えきっている。
服も、はだけている。
「どうしたんだ? 」
「どうしたもこうしたもない……」
手足は細かく震えているようだった。亮平は和之をソファ(備え付け)まで誘導すると、座らせる。
簡易キッチンでコップに水を注いで、くれてやった。
和之が受け取って、おもむろに口に運ぶ。
「どうしたんだ?」
一息ついて、乱れた服をなおしはじめたところでもう一度、同じ問いかけをした。
「襲われて……」
「おそう? 誰に?」
「同室の……日谷って、言ったかな、そいつに」
「どうして?」
「分からない。なんか寝てたらいじられてた」
「いじられてた?」
亮平は首をかしげた。てっきり同室の人間がとち狂っている奴で、寝ぼけ眼に暴力でも振るったのかと思ったが。
いじる、というなら、なにか違うらしい。
和之は今度の質問には答えなかった。
「亮平って、人付き合い下手だろ」
代わりに小さく笑って、そんなことを
言ってきた。
「まぁ」
「まぁ、って。なんかあったって怯えてるやつに、ふつう、質問責めにしたりしないよなあ」
「ごめん」
亮平は居心地悪げに頭をかいた。そもそも、人を自分の家に上げることもないような、付き合いの少ない人間だった。
当然、ほぼ全ての人間が他人か知り合いに収まる。
和之がふうっ、と息をついた。口を開く。
「いじられてたっていうのはな。その……」
亮平はさっきと同じように、しばらく首をひねっていたが、和之が足をすり合わせてもじもじしているのに気づいて、やめた。
「まさか……上木、女だったのか?」
亮平は改めてまじまじと和之を見た。丸い目に、こぶりの鼻、口。愛嬌のある顔だ。
背も小さい。割には、筋肉が付いているが。
なんとかどうにか、女だと言われて納得できないこともないような気がしないでもない。
唸っていると、和之がソファに拳を振り下ろした。
「ちげえわ!」
亮平はわかりやすく、ならばなぜ、という顔をした。
「だからわかんねって……やめろって言ってもやめないし、なんか、そいつ、たってたし」
「たって……?」
和之が、ソファの上で自分の膝に顔を埋めた。
「知らんわ」
黙る亮平。なんと言うべきか、さっぱり見当もつかない。
「つか」
和之が口を開いた。
「なんでパンツしか履いてねえの?」
「寝てたから……」
「は? 寝る時それなの?」
「まあ」
しょうがないことではあった。寝ている時に、飴である体が、まかり間違って少しでも溶けてみれば、面白い具合に服が脱げなくなる。
溶けてくっついた服を脱ぐのは手間が折れるし、最悪どこかが取れる。
その点、裸ならば、シーツかベッドにひっつくだけだから、まだとりやすい。
パンツだけは履いているのは、単に、パンツならすぐ脱げなくてもまあ、どうにかなるからだ。
というよりか、もしパンツを履かずに寝て、足と足がくっつこうものなら目も当てられない。他の部分より、剥がす時痛いし、なおるまでまともに歩けないし。
「へえ」
和之は、ふうん、っといった調子で頷いた。自分で聞いたくせに、とは思ったが亮平は言わないことにした。
「とりあえず、もう寝れば。ベッド、使っていいよ」
鍵あるし、と亮平は付け足した。
「いいの?」
「ベッドの質が良すぎて、逆に寝にくい。そのソファでいい」
和之は少し迷った様子だったが、最終的にはおとなしく寝室に入った。
間を置いてから、かちゃり、と音がする。
亮平はそれを聞いてから、ソファに倒れこんだ。
状況が未だに掴めない。
とりあえず、結果からみて和之を部屋に入れたことは正解だっただろう。
だけど、知り合いだとわかっただけで、途端に鍵を開けてしまったのは、確実に寝ぼけていた。
起きたばかりで、肌がべたついていて、甘い匂いもきつかった。
ひょっとして、ただの人間でないことに気づかれかねない行いだった。
「明日は、早く起きないとな……」
和之より早く。出ないと、本格的に飴人間だと、亜人だとばれかねない。
タイマーのセット時間を早くしようとして、スマホも目覚まし時計も寝室だと気づいた。
気合いか……と絶望的な心地になってから、寝た。
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