アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
入学式と始業式
-
ほとんど、始業式のような気もするけど。
亮平は気苦しい制服に身を包んで、指定された席に座っていた。
今朝は目論見通り和之より早く起きて、なんとかべたついた肌をもとに戻せた。
非常事態だったとはいえ、生徒間の泊まり込みなどは禁止であるから一応は人目を忍んで部屋を出た。
時間差でばらけて行くいう案も出たが、和之が「一人であいつとあったら怖い」と縋るから却下されもした。
連れ立って会場まで来たが、運がいいのか、問題を先延ばしにしているだけだが、日谷とかいう野郎に会うことはなく。
つーか、寮から直で来たけど、なんか、点呼とかないんだな……多すぎて一々できないのか。緩いな。
校長やらというのの話は、一様にして長い。亮平としては長くてもいいから、どうにか中身のある話をしてほしい、というところだ。
校長の高校時代がどう、ああ、と言われてもなんとも言えない。
亮平は一応、校長のほうを見て「聴いているふう」をとっていたが、入学式に参加するエスカレータ生というのはほとんど聞いていない。
寝ているか、話しているか、そもそもいない。
入学式と言われても、エスカレータだからなにも変わらない……つまらない、というような気持ちはわからなくもないが。
一応、話してはいても、一見静かに見えるのは流石、というところか。
亮平は入学式、また続いての全校での始業式を生徒の観察で過ごそうと決めた。
全体の傾向を見てから、振る舞いを決めよう。話を聞くよりかは、余程有意義だろう。
それからは校長を見つつも、生徒をちらちらと見ていたのだが。
始業式半ばとなった時、生徒会長が出てきた。
やたら立っている髪と肩で風を切りながら、我の強そうな長身の男がステージに上がってきた。
「あー」
と出した声も、いかにも気が強そうだ。
「知っている者が多いと思うが、生徒会長を務める矢尾 憲政だ」
まず、敬語でないところにおののく。亮平は身の振り方を考えあぐねていた。
生徒たちは、なんというか、亮平の常識にはいない部類の人間たちだった。
説明の途中に隠れてキスしてみたり、なんか体を寄せてみたり、生徒会長登場のくだりなんかは、一瞬妙にざわついて、今、大抵の生徒が熱い視線を向けている。
亮平の斜め前の生徒は、隣の生徒に「今目があった。きゃっ」というような旨を繰り返し伝えている。
これは、学校ぐるみでおかしい。学校を間違えたらしい。
和之の襲われた事件も……あるいは……。ふと、和之のほうをちらと見ると、涙目と目があった。
思わずさっと目を離す。
生徒会長が話のまとめに入ったころだった。
「それでは、新1年生。君たちの中には、小学校から一緒に上がってきた者と、慣れない環境に戸惑う編入生といて、しばらくはお互い苦労するかもしれない。だが、それは毎年のことで君たちもまた、今の3年、2年のように乗り越えられるだろう。早く馴染んで、一度しかない高校1年を楽しんでほしい」
なかなか、それらしいまとめだった。新1年がざわめいた。
がしかし、会長が口を開こうとするとさあっと静まり返る。
「新2年生は、先生方から再三中弛みの年だと言われているのではないかな? 実際、少しで慣れ親しんだこの滝上を離れるというこの時期、無気力になりやすい、と代々言われている。そのところを是非、奮起して意欲的に過ごしてほしい」
ざわめき。そして、沈黙。
訓練でもされたのかと思うほど、洗練されている。
ともかくも、亮平は会長は良識人と見えて、心底安堵していた。
「さあ、最後は新3年生。卒業の年だ。最も長い者で12年……ああ、留年した竹内と神田は13年だったかな?」
3年でどっ、と笑いが起きる。
「長年暮らしてきたここは離れがたいし、将来に不安もあるだろう。ここで築いた関係が壊れそうで、怯えているものもあるかもしれない。しかし、人生の大半を過ごしたここは、いつか離れなければならない場所だ。最後の1年。気を張って、力を合わせて、後悔しない1年にしよう」
これで生徒会長からの挨拶を終わります、という司会の声とともに会長が頭を下げた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 8