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怖れを解く
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和之の手は、震えていた。
情けないことだ、と笑うこともできる。だが、そうするようなつまらない人間であるつもりは、亮平にはなかった。
隣を歩く和之の左の指に、自分の右の指をあてがって、絡める。
一度ふっと力を抜いてから、きゅっと力を込めて、するりと抜く。
「へっ」
和之が間抜けな顔をした。かわいい顔も台無しだ。
亮平は口角をゆるくして、ささやくように教えてやった。
「呪(まじな)いだ。願掛け、験担ぎ、迷信でもいい。……信じる限り裏切らない、つよい呪い」
なおも、あほ面をさらす和之を小突いて、笑う。
「母さんがよくやってくれた」
「へえ」
ふうん、と和之は続けた。興味がないとか、呆れたとかではなく、動揺の現れだろう。
「さあ、ついた」
一旦ほぐれかけた緊張や不安も、目の前にしてみれば、また襲って来る。
自分の部屋を睨め付けている和之の目をそっと塞いで、告げてやる。
「いるのは何人だ? 1人だろう? 火事場の力とは言え、相手にはお前が1人で逃れられるほどには力はないし、余裕もないじゃないか。おれもお前も非力な部類だが、どうにかできないレベルじゃない。……むしろ、仕返しだってできる」
「ん……」
目を塞ぐ手をそっとのかして、和之が頷いた。
「ありがと、ごめん」
「じゃあ、開けようか」
和之がゆっくりとした動作で、けれども力を持って鍵を開ける。
ノブを捻って、押しひらく。ーーもう手は、震えていなかった。
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