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What's a Beautiful day's
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幾度目かの夜が過ぎて、幾度目かの朝が来る。
毎日はただ単純にやってきて、単純に終わりを迎える。
これを四十年近く続けているのだ。
だというのに。
「父さん、起きて。朝だよ」
息子の声とバタバタと動き回る音が耳に入り、目が覚める。
覚めるといっても、意識が覚醒しただけであって瞼は開くのを拒否していた。
つまり、まだまだ眠いわけであって。
「二度寝しないで!あぁ、もうまたパンツ一丁で寝て…。風邪引いたらどうするの?飲んで帰ってもちゃんと着替えて!」
呆れた口調で言って眉をしかめているのを、見ているわけじゃないのにありありと想像できる。
そのうち、また意識が沈みこみそうになる。
「もう、起きる!」
「うぉぉ!」
急に視界が真っ白になり、何事だと慌てて飛び起きる。
しかしなんてことはない、ただカーテンが開けられただけだ。
「おはよう父さん」
「…おはよぉ」
「ボクもう学校行くからね。朝ごはん食べて片付けといて」
淡々とした口調でそう言うと、ツンと澄ました顔で部屋を出て行く。
頭はまだついていけなくて、無意識に後頭部をガリガリ引っ掻く。
正直まだ眠いからもう一度寝ようかとも思ったが、
『今すぐ寝ても起こされるだけだよなぁ』
そう思いながらダラダラ立ち上がると、近くに放り投げていたスェットに着替えて息子のあとを追いかけた。
ちょうど玄関先で靴を履いているところだったので、忘れ物ないかー?と声をかけると、ふ、と顔を上げてこちらに向き直った。
「洗濯機かけてあるから、干しておいてね」
「おう」
「二度寝してもいいけど、洗濯物干してからだからね。今日はジム行くの?」
「あー、気が向いたらな」
「行くなら、ストライプのタオル乾いてるからそれ持って行ってね。それで、あのボロボロのタオルは捨てようね」
「えー、まだ使えるぞ」
「あんなタオル外で使ってるの恥ずかしいよ。大体父さんは…」
「わかった、わかった!」
お小言が始まりだしたので、「遅刻するぞ」と無理やり遮って学校へ行かせる。
不満そうな顔をしていたが、ランドセルを背負い込むと「いってきます」とドアノブに手をかけた。
「こう太」
なに?と振り返ったので、そのままへの字のこう太の唇に自分の唇を重ねた。
チュッ、なんてまぁ可愛い音がして笑いたくなる。
本当は長くしていたかったが、遅刻させるわけにもいかないのですぐに離す。
突然のことにびっくりして固まっているこう太が可愛くて、綺麗に撫で付けた前髪をかきあげておでこにもキスしてやる。
「気をつけてな。いってらしゃい」
俺がそう言って頭をグリグリなでると、ようやく理解が追いついたのか顔が真っ赤に染まったかと思うと両手で顔を覆ってしまった。
「あ、朝から何するのさ…」
「んー?そういや父ちゃん、昨日こう太とちゅーしてないなぁと思って」
「ば、バカ!」
ニヤニヤ笑う俺に、ぷいと顔を向けてドアを開ける。
いってきます、と素っ気なく言って出ていこうとするのを俺は手を振って見送る。
よぉし、また二度寝するか、と思っているとドアがまた少しだけ開いた。
忘れ物か?と尋ねると先ほどと同じくらい真っ赤な顔で小さく呟く。
「さっきのは昨日の分で、きょ、今日の分は帰ってきてからするんだよね?」
「え?」
「ななななななんでもない!!いってきます!!」
勢いよくドアを閉めたかと思うと、バタバタと大きな足音がすごい速さで遠ざかっていった。
「…今日はジムやめとくかなぁ」
今の自分を鏡で見たらとんでもなく気持ち悪い笑みを浮かべているだろう。
日常なんていつも単純にやってきては、単純に終わっていく。
それを飽きることなく四十年近く繰り返してきた。
だというのに、毎日はこんなにも愛おしい。
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