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ボクは今困っている
こんな気持ちは知らない
金曜日の夕方に初めて本当のお父さんに会った。
土曜日は買い物をしたり、家から学校までの道のりを確認した。
日曜日はひたすら家の掃除をした。
この三日間でわかったことは、このお父さんというのはとんでもなくだらしない人だということだ。
ゴミをちゃんと捨てない、服を脱ぎ散らかす、物を片付けない、たまに全裸で部屋をウロウロしている。
そして、すっごく適当な人だ。
何かあっても「まぁ、いっか。ガハハハハ!」で終わってしまう。
理代子おばさんが厳しい人だったからか、お父さんの大雑把な様子がすごく落ち着かない。
イライラしてしまうこともあるんだけれど…。
「こう太は働き者で偉いなぁ」
「頭いいなぁお前は」
「ハハハ、可愛い可愛い」
ちょっと何かしただけで、父さんは大げさに褒めてくれる。
あの大きな手で頭をグリグリと撫でてくれたり、引き寄せられて膝の上に座らせられたかと思ったら後ろから抱きしめられたりと、なんていうかちょっと困る。
本当はイライラをぶつけて嫌われたいのに、お父さんが褒めてくれるとそんな気持ちが無くなってしまう。
すごく嬉しいなんて、こんな気持ち初めてだ。
だけど、こんなのは今だけだと自分に言い聞かせる。
今は久しぶりに会ったばっかりだから可愛がってくれているんだと思う。
でも、そのうち面倒くさくなっていくんだ。
そしてボクのことが邪魔になるけど、もうおばさんに頼めないから今度こそ施設に行くことになるんだ。
それが何時になるかはわからないけれど、もし時間が経てば経つほどきっと辛くなる。
父さんが優しくしてくれればくれるほどきっと苦しくなる。
だから、ボクはお父さんに嫌われるんだ。
*
月曜の朝はすごくいい天気だった。
玄関を開けると冷たい風が流れてきて、無意識に寒いと呟いてしまう。
「あぁ、まだ十月なんだけどなぁ。これから冬になるから、来月になったらコタツ探しにいくか」
「はい」
「忘れ物ないか?」
「大丈夫です。…それより、一昨日学校まで行ったから、今日から一人で行けます」
鍵をジャージのポケットにいれた父さんはボクの言葉にキョトンとしていた。
父さんの家は学区外になっているので、電車とバスを乗り継がないといけない。
土曜の時点で道順を確認したけれど、別に難しくなかった。
「でも一回しか行ってないし、休みの日だから、平日とは違うだろ」
「一回行けば十分です」
「えー」
「…それに、父さんの格好パジャマじゃないですか」
父さんの格好は赤いラインが入った白いジャージに、濃いピンク色に漫画のキャラが書かれた七分袖のトレーナー、足元は秋だというのにビーチサンダルだ。
正直、電車に乗って出かけるような格好じゃないと思う。
「一緒に並んで歩きたくありません」
そうイヤミな感じに言ってやる。それから父さんの顔を見ることなく走り出す。
うん、嫌な感じだ。
きっと、父さんも嫌な子だと思っただろうな。
学校はそんなに好きじゃない。
この金色の髪の毛と青い目のせいで、ずーっと外人外人と言われてきた。
殴られたり蹴られたいとかそんなイジメにあっているわけじゃないけれど、みんなボクに必要以上に近づかない。
ボクもそれでいいと思っているから別に平気だけど。
理代子おばさんの子供で、美夜ちゃんという女の子がいる。
この美夜ちゃんは、クラスは違うけど同じ学年だからもしかするとボクが本当のお父さんに引き取られたことを、クラスの子に話しているかもしれない。
ボクの本当のお父さんがあんな人だというのが知られると、ちょっと嫌だな…。
*
そして昼休み、ボクは図書室に向かう。
あんな人、と思ってしまったけどボクはお父さんのことをよく知らないことに気づいた。
何も知らないのに、あんな人っていうのは悪いことだと思ったので、調べてみようとおもった。
最近売れてきた、ということだから何かしらインターネットでわかると思う。
図書室にはインターネットができるパソコンが二台ある。
図書館の先生に使い方を教わってから、検索、というのをやってみる。
『でも、石川はともかくコウスケってどんな字なんだろう』
とりあえず、いしかわこうすけと平仮名で調べてみる。
すると、ページの一番上に『書道家 石川飛嶽―公式サイト―』というホームページがあった。
その説明文に【書道家 石川飛嶽(本名:石川孝助 いしかわこうすけ)】と書いてある。
「石川飛ぶ…?」
難しい漢字で読めないけれど、多分ここに詳しく書かれていると思ったので、マウスを動かした。
画面が変わり、いきなり真っ黒な画面になった。
壊した!?と思っていると、白い文字が浮かび上がる。
『石川飛嶽 墨龍の世界』
「???」
画面が今度は真っ白になって、紙の形になると漢字が縦書きでスラスラ書かれていく。
紙が斜めになると、その漢字達が一文字一文字紙からはがれていって、ぐるぐる回ってちょうちょの形を作る。
ちょうちょが飛んでいく先には、漢字で作られたヒゲの長いおじいさん。
そのおじいさんが見上げる先には、雲の中から降りてくる真っ黒な龍。
真っ黒な龍が画面一杯になると、ようやくHOME画面と呼ばれるページになった。
いきなりのことにボクは呆然としてしまった。
何なんだろう、これ、アニメ?
とりあえず左のボタンからドンドンみていく。
最初のボタンの先に、お父さんの紹介ページがあった。青い着物を着て笑っている写真。
そのページに、飛嶽の読み方があった。
『飛嶽(トビタケ)』という名前の由来は詳しく書いてあるみたいだけど、漢字が難しくて読めなかった。
それから、作品と書いてあるボタンがあったから、クリックする。
文字と絵の下に、実際に書いている様子の動画があった。
音はでないけれど、大きな筆で大きな紙に漢字を書いている。
この三日間で見たことのない真剣な顔だった。
そして最後に作品が完成して、子供のように笑顔ではしゃいでるお父さん。
ボクは昼休みが終わるまでその動画をずっと見ていた。
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