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Happy remainder two weeks happy
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「やったねこう太、友達が増えるよ」
「おい、やめろ」
(1)
「うちの子に友達がいないんだ…」
友人達との忘年会。
今まで相談してみたかったけれど、こんなこと言ってもいいものかと中々言いだせなかった。
だけど、話題が途切れた時に思い切って切り出してみた。
「いじめられてるとか?」
心配そうに尋ねてくれたのは、赤茶色の髪で同じ色合いの縁の太いメガネをかけて若い格好をしているせいか、同い年なのに若く見える保村(ホムラ)。
興信所所長という肩書きなんだが、いい年して「探偵…いや、ディクティブと呼べ!ディクティブ保村!!」とか叫んでしまう暑苦しい性格だ。
「地味にしてても目立ちそうな容姿だもんな」
興味なさそうにタバコをふかしたのは、真っ黒な髪で目つきが悪い華田。
顔も青白くてヘビースモーカーで見るからに不健康そうな奴なんだが、個人診療所の医者である。
高校からの付き合いで、今でも時間が合えば月に一回は飲みに行っている。
特に、年の近い子供のいる保村と華田は家族ぐるみで会ったりしているみたいだ。
余談だけど、こう太との生活が始まってすぐくらいに、二人に息子と再会したと報告したら、
「本物か身辺調査するか?俺探偵だし」
「本物かDNA鑑定してやるか?俺医者だし」
と言われ俺がブチギレたことがある。
まぁ、亡き恋人のことで腐っていた時期に世話になったから頭があがらないんだけど。
「外人、って呼ばれて遠巻きにされているみたいでよ。それ以外いじめとかはない、って本人も学校も言っているんだけど・・・」
「まぁ、来年三月に引っ越すんだろ?今いないほうが別れが辛くないかもな」
「でもなぁー、また次の学校でもできなかったら困る」
「本人が困ってなきゃいいんじゃね?」
「父ちゃんは心配なんだよぉぉ」
テーブルに突っ伏す俺を、華田が虫を見るような目で鬱陶しそうに睨みつける。
そんな華田に苦笑しながら保村が俺の頭をベシベシ叩いて「なるようになるって」と慰めてくれた。
「次行く学校決まった?」
「氷青小に決まると思う。マンションもその区域に…」
「来んな」
「えぇぇぇぇ?」
華田が俺の言葉を遮って冷たく言い放った。
心底嫌そうに灰皿にタバコを押し付けるとビールを注文する。
「華田の子達、氷青小に通ってるんだよ」
またタバコに火をつけてそっぽをむく華田に代わり、保村が笑いながら教えてくれた。
マジか、と華田を見ると何も言わないあたり本当のことなんだろう。
「ていうか、あれだよな?石川んとこと華田の次男坊、同い年だよな?」
「言うなし」
「そうだっけか。もし、同じクラスになれたらよろしくです。華田くんのお父さん」
「テメェと保護者会一緒になるなら今度は俺が転校させる」
こう言う奴なんだよなー。
華田は割と口が悪いんだが、医者の腕前はすごくいいから診療所はわりかし流行っている。
患者に対してもこんな調子なのか、一度見に行ってみたいが健康なので病院にいく機会がない。
「俺、ちぃせぇ頃しか会ったことないんだけど、華田の次男ってどんな感じ?」
「華田のクローン」
「ぶ!!!!!!」
手を叩いて大笑いしながら、口の悪くて目つきの悪い小学生を想像する。
その姿が目の前にいる男の縮小コピーだったので、笑いが止まらなかった。
言われた華田本人は怒るか、毒を吐くかと思ったけれど苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「華田、否定しないの」
「できねぇよ。最近髪型以外そっくりで、遺伝子こぇぇって、嫁と話してるんだ」
それを聞いて今度は保村も笑った。
たしか先月も華田の長男がカミさんそっくりになってきたとかで、同じセリフを言っていたのを思い出した。
ひとしきり俺達が笑ってから、華田が呆れたようにため息をついた。
「仕方ねぇな、お膳立てしてやるよ」
「え?」
「クリスマス近いしな。クリスマスパーティの体で俺んちに家族ぐるみで食事会に招待してやる。感謝しろ」
そう言って、相変わらず淡々とした感じでタバコを吸っている華田が、これぞお父さんという感じで輝いてみえた。
というよりも、家族ぐるみで、とかは自分にとって無縁のものだったのでちょっと感動している。
「は、華田くんのお父さん…ありがとう…」
「お前次それ言ったらテメェの頭を灰皿変わりにするからな」
俺を見る目が本気だった。
「えー、いーなー」
「保村も来るんだよ。息子はともかく、嫁連れてこい。うちの嫁と娘が会いたがってるんだ」
「おぉあの、パイオツカイデーの嫁か!!」
「お前次それ言ったら社会的に抹殺するからな」
*
小学校から終わりのチャイムが鳴り響く。
校門からゾロゾロと子供達がやってきて、母親達がそれを迎えている。
俺は近づけないからちょっと離れた電信柱の裏にてこう太を待つ。
こう太は大抵急いで走ってやってくるので、その場所でこう太を長く待つことはなかった。
待たせちゃいけないと思っているのか、それとも早く会いたいと思ってくれているのか。
後者だったらいいなぁ。
「何ニヤついているの?また通報されるよ?」
「お、おぉ!こう太おかえり」
「ただいま」
その日あったことを喋りながら家路につく。
こう太の機嫌が良い時は手を繋いでくれる(悪い時は朝俺が何かしでかしたか、お昼に苦手なしいたけが出た時だ)
今日は良いみたいで、すんなり繋いでくれる。
「土曜日の夕方、父ちゃんの友達の家でクリスマスパーティやるからな。家族で来てね、だって」
昨日の夜決定したことを、朝は忙しくて言えなかったから今伝える。
すると面白いくらいにこう太は驚いていた。
「ボクも行くの?」
「だって俺の家族だもん」
こう太の瞳がキラキラしている。
顔には「何それ」「楽しみ」と書いてあって思わず笑ってしまう。
そんな年相応の子供っぽいところが見れると、可愛いなぁと思う。
俺がニヤニヤしているのに気づくと、慌てて赤い顔のままツンとそっぽを向いてしまった。
「それにしても、クリスマスかぁ。えーっと、サンタさんっていると思う?」
「信じていませんから、安心してください」
敬語の時は機嫌が悪いか、激しく照れている時だ。
「そっか。じゃぁ演出とかいらないな。クリスマスプレゼント何が欲しい?」
もし信じていたら、サンタ服と髭買わなきゃなぁと思っていた。
トナカイは無理だから、鹿を調達しなければ。
「信じてないから良いですよ。何もいりません」
「遠慮するなよ」
「特に欲しいものありませんから。だから、何もいりません」
別に拗ねていたり機嫌が悪いという感じではなくて、興味がないという口ぶりだった。
理代子の家で何かあったかなぁと思うがあえて聞かなかった。
「…そっか、そっか。わかった、父ちゃんわかった」
「…何か考えてるでしょ」
「うん。こう太の『いらない』とか『するな』は、芸人の『押すなよ』『押すなよ』と一緒だと思っているから」
「ちょっと何言ってるかわからないです」
あと少しで家に着くという時だ。
にゃー、と可愛らしい声が聞こえて振り向くと白毛に黒いブチのある猫が塀の上からこちらを見下ろしていた。
「お、猫だ。チッチッチ」
塀に近づいて手を差し出すと人懐っこい子なのか、頭を撫でさせてくれた。
よく見ると赤い首輪をしているのでどこかの家の飼い猫なんだろう。
可愛がる俺とは反対にこう太は一歩後ろに下がってこちらを見ていた。
「あれ、猫嫌い?」
「見るのはいいんだけど…。猫アレルギーっていうのがあるらしくて、近づくと痒くなるんだ」
そう言ってこう太は寂しそうに笑っていた。
こう太の言葉に、そう言えば亡き恋人も猫アレルギー持ちであったのを思い出した。
俺が不用意に触ってしまったせいで、家に帰るまで手を繋いでくれることはなかった。
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