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A Happy New Year!OK, let's battle!!
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「二週間くらい前に会ったばっかりなのに、もう垓くんに会えるなんて嬉しい…!」
「…ほんとすいません」
(1)
パーティから数えて、約二週間くらい。
年が明けて、ボクは初めてお父さんと新年を迎えた。
だというのに。
「へっきしっ!!」
お父さんが風邪をひいた。
最初はちょっと咳がひどいなーと思ったくらいだったのが、気がついたら頭が痛い、熱でフラフラすると言って寝込んでしまった。
元旦に近くの神社のイベントで、書き初め大会が開かれた。
そこにお父さんはゲストで呼ばれたんだ。
袴にサラシを巻いただけの格好でずっといたからだ、と本人は言っているけど。
原因はどう考えてもパンツ一丁でウロウロしているからです。
正月早々寝込んでしまった父さんを見て、今年一年が色々と心配になる。
「パンツ一丁はやめろ、って何度も言ったのに…」
「スミマセン、あー参った…」
「熱が高いなぁ。体温計買ってこないと」
額に手をあてると、かなり熱くてちょっと焦る。
その手にお父さんの大きな掌が重ねられる。
手もボヤボヤと熱い。
「こう太の手冷たくて気持ちいい…」
「そりゃこんだけ熱あったら…。とりあえず、病院行きましょう。ボク、用意するから」
「ヤダ」
ボクは思わずへ?と変な声が出た。
父さんはぐるん、とボクに背中を向けると布団に潜り込んだ。
「病院嫌いだもん」
「だもん、じゃないですよ!何子供みたいなこと言ってるんですか!!ホラ、起きて!!」
「熱が高いから無理ー歩けなーい」
…この親父は!!
布団を引き剥がしたり布団の上からはたいたりしても、父さんは亀のように完全防御で出てこようとしない。
「垓くんのお父さんの働くとこみたいって言ってたから、良い機会じゃないですか!!」
「そりゃ元気な時ならな!絶対アイツ優しく診察してくんねぇよ!!それに多分、正月だから診療所やってませんー!!ザマミロー」
…このタコ親父が!!
説教してやろうかと思ったが、相手は病人なんだ。
落ち着けと自分に言い聞かせる。
「…じゃ、大きな病院ならやってるんじゃないかな。タクシー呼んであげるから」
ボクの家には電話帳はない。
大抵の必要な番号はお父さんのスマホに入っている。
そのスマホを探しに、リビングにいったり和室中を探すけど見つからない。
「ないなぁ」
視界の端に、父さんがスマホを見せながら蒲団から顔を出してるのが見えた。
バッと振り向くと、同じくらいの早さで蒲団にまた潜り込む父さん。
「…こんのクソ親父!!」
さすがに温厚なボクもキレた。
布団に馬乗りになると、布団の上から殴ったり叩いてやった。
しかし、痩せっぽちのボクが乗ったところでクマのような父さんには屁でもない。
「心配しているんじゃないか!!」
「だから!その気持ちだけで嬉しいんだって!!」
「インフルだったらどうするの!?しかも鳥!!」
「コケー!!」
しばらく不毛な口論が続く。
だけど、父さんの意思は固くて。
何でこう言う時ばっかり「まぁ、いいか」が出ないんだろう。
先に折れたのはボクで、布団から飛び降りる。
「もう知らない…!鳥インフルでも豚インフルでも勝手になったらいいんだ!!」
冷たい声でいい放っても父さんは出てこなかった。
ボクはダウンジャケットを着込むと、出かける準備をする。
「体温計とか買ってきますからね!ちゃんと寝ててくださいね!!」
嫌味なくらいドアを力いっぱい閉めてやった。
全く、どっちが子供かわかりゃしない。
*
ドラッグストアで体温計やら色々買い込んでから、ボクは駐車場の隅にきた。
手にはキッズケータイ、そしてディスプレイには垓くんの名前と電話番号。
ボクのケータイにはネットを見る機能がない、通話専用ケータイだ。
だから、病院を調べたりタクシーを調べたりが難しい。
でも、何かあったら、でこの間華田家と保村家の連絡先を教えて貰った。
それとは別に、垓くんのスマホの番号も。
「…迷惑だよなぁ」
垓くんのお父さんの連絡先も入っているけど、正直、直接あのお父さんに話す勇気がでない。
だから、垓くん経由で話せばいいかと考えるんだけど…。
「いきなり電話していいのかなぁ…」
ウロウロとケータイを持ったまま歩き回る。
何かあったら言えとは言われたことあるけど、あれは学校のことだろうしなぁ…。
でも、お医者さんの知り合いは他にいないし。
救急車を呼ぶレベルじゃないし…。
ボクは困り果てて立ち尽くす。
「くしゅん!」
不意に冷たい風で鼻がムズッとした。
…いい加減寒くなってきたし、父さんをこのままにして風邪が長引かれても困る。
本当にインフルエンザだったら大変だ。
ボクは喋る内容を何度も繰り返してから通話ボタンを押した。
もし出なかったら家電、もし出なかったら家電、と考えながら。
『どうしたのこう太?』
三回くらいコール音がしてから垓くんが電話に出てくれた。
途端、緊張で頭が真っ白になる。
「あ、明けましておめでとう!今、電話大丈夫ですか?」
『おめでとう。大丈夫だよ』
「あ、あの、いきなりごめんね。えっと…」
『うん』
垓くんの声が優しい。
何度も練習した言葉がスムーズに出てこなくて自分が嫌になる。
「あの、垓くんのお父さんって今日お休みですか?」
『うちの父さん?元日は休みだったけど、今日から仕事始めだよ。今はいないんだ』
「お正月なのにお仕事なんだ」
お正月からお仕事なんて、お医者さんは大変だなぁ。
飲みたいからって、神社のイベントを断ろうとしたお父さんに見習わせたい(ボクが無理矢理行かせた)
『どうしたの?お腹でも痛いの?』
心配そうな垓くんの言葉に違う違うと慌てて否定する。
「うちのお父さんが、風邪ひいちゃったみたいで…。垓くんのお父さんの病院、行きたくないし、どうせ正月だから休みだって言うから本当に休みなのかなって。…も、もし良かったらお父さんに診にきて貰えないかなって…」
『はぁ…どうせ、パンイチでお酒飲んでたから風邪ひいたんでしょ』
何で知ってるんだろう。
『ちょっと待ってて。お母さんなら家にいるから、相談してみる。こう太、今外?』
「うん、今体温計買った帰りで…」
『やっぱり。車の音すると思ったら…。寒いからお店の中にいて。僕からかけ直すから。いいね?』
有無を言わさない感じで言われると、電話が切られた。
ボクなんかと違ってテキパキしている垓くんは、やっぱりスゴいなぁと感動しながら言われた通り店内に戻った。
十分くらいしたら、垓くんから電話がかかってきた。
「垓くん、こう太です」
『残念、おばちゃんでした』
垓くんのお母さんの明るい声が聞こえてきて、慌てて新年の挨拶をする。
『風邪引いたって?あの親父。どうせ、裸でウロウロしてたんでしょ』
なんで皆わかるんだろう。
『今、うちのお父さんに電話したんだけど、十二時半に午前の診療が終わるから、お昼休みに行くって。だから、十三時くらいにそっちに着くって』
「すみません、本当にご迷惑おかけします」
『こう太くんが謝ることじゃないから。お父さんには武器の使用を許可してあるし』
ちょっと言ってる意味がわからないけど、ありがとうございましたとお礼を言う。
と言うか、三十分で行ける距離だっていうのに、うちの父さんは病院を拒否したのか…。
『こう太くんも、感染しないように帰ったらうがいと手洗いを忘れずにね』
「はい、本当にありがとうございます」
『あと、ちょっと待ってて…』
一瞬声が遠くなった。
『もしもしー』
可愛い声が聞こえてきて、璃子ちゃんだとすぐにわかる。
『こうたくん、あけましておめでとー』
「璃子ちゃん、あけましておめでとう」
『また、ふわふわ、さわらせてください』
「うん、いいよ」
璃子ちゃんが嬉しそうに笑ったのが電話越しに聞こえた。
それを聞いたらボクも嬉しくなってくる。
最後に、垓くんに代わった。
『あ、僕も父さんと一緒に行くから』
「本当!?垓くんに会えるの嬉しいなぁ」
『フフフ。お母さんのお節持っていくね』
何度も垓くんにお礼を言ってから電話を切る。
今の時間は十一時過ぎたところ。
帰ったら片付けなきゃ、とボクは急いで家に向かった。
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