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昔からひたすら眠るとどうでもいい夢をよく見る。
起承転結のある物語ぽかったり、昔の思い出だったりしたら夢として美しいだろうに。
自由人の俺の夢はやっぱり、なんの脈略もない唐突な不可解なもので。
今見てる夢には、死んでしまった恋人が出てきた。
恋人との昔あった思い出話なら、それはそれは美しい夢になるだろう。
だけど。
夢の中で、俺はなんか隣にいそうなでっかい珍獣だった。
そこに、アルプスの少女みたいな恋人が走ってきたかと思ったら、俺のお腹に飛び乗って目を輝かせた。
『そう!アナタ、トト「起きろタコ」
わき腹に重い蹴りが的確に入る。
「ぐはぁ!!」
突然のことに、布団から飛び起きると、舐めくさったような声が浴びせられる。
「お加減いかがですかぁ〜石川さぁ〜ん?」
ヤンキー座りをしながら、亡者どもを見下す鬼のような目で俺を睨みつける華田がそこにいた。
眉間にこれでもかと言うくらいにシワが寄ってる。
威圧感が半端なく、俺より小さいのに負のオーラで俺を圧迫しているようだった。
あれ?俺、病気だなんて連絡してないし、こう太だって…。
「はははは華田!?何でうちにいるんだ!?」
「いやー、卑しい私めなんかをワザワザお呼びつけになられるとは…いやはやお偉くなりましたなぁ石川先生ぇ」
「こう太ー!?こう太ちょっ…こう太ぁ!!」
そういえば、子供らがお互いのスマホの連絡先を交換していたことを、その時になって初めて思い出した。
慌ててこう太を呼び寄せようと声を張り上げていると、隣の和室から声が聞こえる。
「すごい…、こんなに貰っていいの?」
「うん。栗きんとんなんか、お母さん作りすぎたからさ」
「ありがとう!嬉しいなぁ、甘いもの好きなんだ…!」
「知ってるよ。ケーキ嬉しそうに食べてたもんね」
「…知ってたんだ」
楽しそうに会話する息子達の声。
まさに、極楽と地獄かというくらいの開きがある。
「あ、熱が高い?きっと風邪ですね。じゃちょっと開腹手術しましょうか」
「やめろー!!こぇぇ!!何でメス持ってきてんだよ!?どこのモグリの医者だ!?」
「大統領に武器の使用を許可されているんでね」
「ハリウッド映画か!?クローンの襲来か!!」
攻防を繰り広げる親父達を無視して、息子達はキャッキャウフフとお昼の用意をし始めた。
*
診察は五分もしないで終わった。
ちょっと聴診器で胸の音を聞いて、喉が腫れているか診たくらいだ。
「報酬はスイス銀行に振り込んどけ」
娘の遊び道具としてメスそっくりに特注したらしい粘土べらを頭に投げつけられる。
コーンという良い音がして、痛てぇとぼやくも無視された。
薬だ、と白い袋が顔に投げつけられて、もう気分はいろいろと最悪だった。
診察が終わってからも十分くらいネチネチと華田に絡まれる。
「どーーせ、全裸で踊ってたんだろ、バーカ」
「全裸じゃありませんー。こう太からのプレゼントのパンツ履いてましたー。見る?」
「見るかバーカ。バーカ、バーカ、ぶぅあーか!!」
「それが病人に対する医者の言葉か!!」
「テメェを診てやったのは誰だ?お・い・しゃ・さ・まの俺だろ?あぁ?」
「お父さん、お餅いくつ?」
「二個。感謝しろ、俺を治療神様として崇め奉れ!媚びろ!!」
ヒートアップしてくると華田は中二病というのを発症すると保村から聞いたことがある。
子供が産まれてヒートアップした結果、長男の名前やら次男の名前が大変なことになりそうだったらしい(若干その影響が影司や垓という名に現れている)。
相変わらず見下しながら俺を蹴り続ける。
ちくしょう、風邪で体がだるくなきゃ反撃できるのに。
和室と居間をしきる引き戸を開けて、こう太達を見るも、こう太達はこっちをまるっと無視して金魚をみている。
その間にオーブンで雑煮にいれる餅を焼いていた。
大騒ぎで何度かこう太にヘルプと叫ぶも、スルーされる。
「金魚可愛いね」
「えへへ、ボクが近づくと寄ってくるんだよ」
「名前はつけたの?」
ちなみに、金ちゃんと玉ちゃんはどうだと提案したら、華麗にスルーされた。
「赤いのが飛(トビ)さんで、黒いのが嶽(タケ)さん」
いつ知ったのか、こう太は金魚に俺の雅号を付けた。
ちょっと照れた感じで名前を提案してきたので俺がビックリしていると、次の瞬間からはニコニコしながら金魚を呼んでいた。
そんな顔を見てしまったら、嫌とかダメとか言えないじゃんか。
「へぇー、金ちゃんとかじゃないんだ」
垓は俺と同じ考えみたいだ。
もちろん、こう太の声を華田もしっかり聞いていた。
俺の雅号ももちろん知っている。
「愛されてんなぁ!」
「なんで蹴んだよ!!」
華田の言葉と行動がチグハグで、早く帰れと俺は絶叫する。
こんなに大騒ぎしているというのに、恐ろしいくらい子供達は意に介さない。
何も聞こえていませんとばかりに、相変わらず金魚をみてニコニコしている。
「いいなぁ、魚飼いたいなぁ」
「垓くんちはペットいないの?」
「……お父さんが蛇飼ってる」
「爬虫類とかないわー…」
俺が思わず引いてしまうと、顔面に蹴りが飛んできた。
そこからWHOのマークが何故蛇なのかから始まる怒涛の華田の爬虫類講座が始まったが、幸いと言っていいのか電気オーブンが餅が焼けたことを音で告げる。
「お父さん遊んでないで、お餅焼けたよ。ご飯食べないと、午後の診療に間に合わないよ」
「父さんも。お粥作ったから、食べて薬飲んで、さっさと寝て」
…どっちが大人なのかわかりゃしない。
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