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四月に入った。
今日は小学校の始業式で、転校初日だ。
通学路の途中に、お父さんの言っていた桜の綺麗な公園があった。
桜は満開よりもちょっとだけ前の八分咲きくらいだけど、すごく綺麗だった。
でも、最近風が強いので花びらがどんどん散ってしまう。
「早めにお花見したいね」
とお父さんの方を振り向いたら、パチリと音がした。
「おぉ、意外と撮れるもんだな」
お父さんはデジカメの画面をのぞきながら感慨深そうに呟いた。
古い型のデジカメは、開かずの間と化していた押入れの奥にしまわれていた。
一体いつ持ってきたんだろうと呆れていると、デジカメの画面を見せてくれる。
桜をバックにボクは変な顔をしているように見える。
「…消そうよ」
「やだよ。こんな可愛く写ってるのに」
「可愛くない」
父さんはボクの髪についた花びらを取りながらニヤニヤしていた。
デジカメをスーツのポケット(勝負服ではない)にしまうと、新しい小学校へ急いだ。
小学校の前では垓くんが待っていてくれた。
「職員室知らないでしょ。案内するよ」
「ありがとう、垓くん」
「それとね、僕とこう太同じクラスだよ」
「本当!!うわー、嬉しいなぁ…垓くんと一緒だぁ!」
ボクが思わずはしゃぐと、垓くんはボクの手をひいて案内してくれる。
それがすごく嬉しくて、ちょっと恥ずかしいけどボクも手を握り返す。
だから、垓くんがお父さんの方を向いて鼻で笑ったのも、お父さんがそれにイラっとしたのにも気がつかなかった。
垓くんと一緒のクラス、というだけでその日1日嬉しかった。
お父さんが新しい担任の先生に挨拶していたり、始業式で校長先生に他の転校生と一緒に紹介されたり、クラスのみんなに紹介された時も、嬉しさに胸いっぱいで上の空だった。
明日から一緒だと思うと、その日は中々眠れないくらいに。
「…いってきます」
「お前、眠そうだな。送っていこうか」
「いい…大丈夫」
お父さんが心配そうにしているのを制して、目をこすりながら家をあとにする。
玄関をしめてからあくびを一つ。
ボーッとしながら歩きだすと、七瀬さん家の玄関が開いた。
じゃあ一緒に下までいこうかな、と様子を伺っていると。
「学校、遅れないようにね」
「へいへい。兄ちゃんも気をつけてな」
トレーナーにジャージ姿の聖斗さんは身を乗り出すと、七瀬さんの唇にチュッとキスをした。
いきなりのことに驚いたけど、眠気のせいかそこまで動揺はしなかった。
七瀬さんはというと、いきなりのことに顔を真っ赤にして聖斗さんを軽く突き飛ばした。
「…いってきます」
「いってらっしゃーい♪兄ちゃん、だいしゅき~♪」
「うるさいよ」
ドアを閉めて、全くとか怒ったようにブツブツ言っているけど、どこか嬉しそうな七瀬さん。
そんな七瀬さんに後ろから声をかけた。
「おはようございます」
「こ!こここう太くん!!えぇ!?」
七瀬さんの血の気がひいた音が聞こえた気がした。
途中まで一緒だということで並んで歩く。
七瀬さんはどよんと落ち込んで足取り重そうに歩くので、なんだか心配になる。
「…どの辺から見てた?」
絞るような声で尋ねてきた。
「遅れないようにねって言ったら、聖斗さんが兄ちゃんも気をつけてね、って言って…」
「…全部じゃないかぁ…!」
七瀬さんは絶望したみたいに青い顔をして顔を覆った。
「ちゅーしてましたね」
「…はい」
「よくするんですか?」
「よくっていうか…ホラ、家族ってキスするよね!挨拶的な感じで!!」
そう言われて、父さんにキスされたことを思い出す。
確かに父さんも喜んだりテンション高いとボクにキスしてくる。
なので、そうですねと頷いたというのに七瀬さんの顔色は良くならない。
「ごめん…」
「え?」
「こう太くん、今日学校終わったらおやつ食べに来なよ…」
先週くらいから、ちょくちょく七瀬さんにおやつを食べにこないかと誘われる。
パティシエも勉強したいと作ってくれるおやつはすごく美味しくて、美味しいものは全部小麦粉でできているんじゃないかと思うくらいバリエーションが豊富だ。
「美味しいバニラアイスを聖斗が買ってきたから、ホットケーキを焼こうと思うんだ。焼きたてにそれをのっけて…。メイプルシロップも蜂蜜もあるし、ジャムも美味しいものを手に入れたから…」
「行きます!お邪魔します!」
ボクが元気よくそう叫ぶと、やっと七瀬さんは笑ってくれた。
七瀬さんは前に、「小麦粉は誘惑的だ」と言っていた。
ダメだと思っていても、誘惑されて手をだして、メロメロになってしまう。
「困っちゃうよね」と苦笑いしながら、クレープを出してくれた。
マリアちゃんもお菓子作りが好きと言っていたから、今度言ってみよう。
七瀬さん家にお邪魔すると、朝みた時よりはいくらか元気そうに見えた。
すでにボールにホットケーキの元が作られていたので、あとは焼くだけみたいだった。
手伝うと言ったけれど、座っててと優しく言われたので大人しく座ってまっていた。
甘い匂いがしてきてワクワクしてくる。
だけど、座っているとどうしようもなく眠くなってくる。
学校にいた時も危なかったけど、このままだと食べる前に眠ってしまいそうだ。
それだけは嫌だ。
「ごめんね、お待たせ」
しばらくうとうとしていると、いつの間にかたくさんのホットケーキがお皿の上に乗せられて目の前にあった。
夢のような光景に眠気が吹き飛ぶ。
「食べようか」
「いただきます!」
たぶんボクは目を輝かせていると思う。
あったかいホットケーキの熱でバニラアイスが溶けてすごく美味しい。顔が思わずにやけてしまう。
七瀬さんはそんなボクを見て優しく笑ってくれた。
「あのね…こう太くん」
フォークを持つ手をとめて、七瀬さんが神妙な顔で名前を呼んだ。
ボクも食べる手をとめて大人しく聞こうとすると、慌てて「食べながら聞いて」と手を振った。
「えっと…朝見たこと誰かに言った?」
「朝…?」
「うん、その、ボクと聖斗がキスしていたの…」
そう言われて初めて朝のことを思い出した。
正直、おやつのことで頭がいっぱいだったから忘れていた。
だから素直に、言ってませんと答えた。
「その…僕と聖斗は、他の人よりも兄弟としては仲が良いと思うんだ。それに、弟は結構お調子者だから、外で抱きついてきたり、人気がなかったらキスしてきたり…」
恥ずかしそうに話すのが何だか可愛いなぁと思う。
だけど、七瀬さんの穏やかで優しい口調にまた眠くなってくる。
「気持ち悪いかもしれないんだけれど、今日きつく言い聞かせるから、その、それでももし、そういうところ見せちゃったらその…ごめんなさい」
平気ですよ、とか、気にしないで、と言いたかったんだけど眠くて目を開けていられない。
体が斜めっていって、そのまま横になりたいくらい眠い。
すると、横から体を抱き抱えられて、ハッと目が覚める。
七瀬さんが心配そうにボクを見つめていた。
「こう太くん眠い?」
「…すみません」
「いいよいいよ。学校で疲れちゃったんだね」
いえ、垓くんに会えるのが嬉しくて昨日眠れなかったんですとは恥ずかしくて言えなかった。
「良かったらお昼寝していきなよ」
「いえ…帰ってお夕飯作らない…と」
「僕がおかず作って持たせてあげるよ。だから、ね」
七瀬さんの声が優しくて、抱きしめてくれる腕が心地よくて、ボクはそのまま眠ってしまった。
*
ガタン、という音がして目を覚ます。
見慣れない部屋の様子に最初何があったか思い出せなかったけど、写真立てを目にして慌てて飛び起きる。
「…寝ちゃった」
目覚まし時計を目にすると、18時半を少し過ぎたくらいだ。
お父さんには七瀬さん家にいると行ってあるから心配とかしてないだろうけど、七瀬さんの言葉に甘えすぎの自分が恥ずかしくなる。
でも、寝かせてくれたおかげで頭はスッキリした。
「お礼を言って帰らないと」
ベットの上を綺麗に直すと部屋を後にする。
廊下にでると、リビングから話し声が聞こえてきた。
あぁ、聖斗さん帰ってきたんだと思ってリビングと廊下を仕切る扉に手をかけようとした。
「…こう太くん寝てるんだから!!」
「寝ているんだからいいじゃん」
聖斗さんはソファーに座る七瀬さんの上に乗るように近づくと、またキスをした。
嫌がって体を押す七瀬さんの手首を掴むと、ソファーに押し付ける。
そうして、何度も角度を変えるようにキスをしていた。
朝みた時にはなんとも思わなかったけど、スッキリした頭の今、ボクは衝撃的な光景に固まってしまった。
「ダメだってば…!こう太くんにきつく言い聞かせるねって言ったばっかりなのに!!」
七瀬さんが泣きそうな声でそう言うと、聖斗さんはむっとした顔になる。
「こう太こう太って、兄ちゃんの弟はオレだろ?最近こう太ばっかり構ってずるい」
「だって…可愛いんだもん」
「オレも構ってよ。オレ、兄ちゃんに構ってもらわないと寂しくて泣いちゃうよ?兎は寂しいと爆散しちゃうんだよ?」
「ば…バカ!」
聖斗さんはそういうと、首すじに顔をうずめる。
そうして、七瀬さんのシャツの中に手を入れ始めてめくりあげる。
七瀬さんの白いお腹が見えて、ボクの方がドキドキしてしまう。
慌てて七瀬さんが聖斗さんを引き剥がそうとする。
「兄ちゃんの一番はオレじゃないの?オレの一番は兄ちゃんなのに…」
「コラ…」
「オレだけを見てよ、ね?オレが兄ちゃんの一番近くにいるんだよ」
聖斗さんのカッコイイ声にボクの方も何だかドキドキしてしまう。
聖斗さんは真剣な眼差しでそう言ってから、また七瀬さんとキスをする。
七瀬さんも困ったような顔をしているんだけど、そのうちうっとりとしたような顔になってきて、聖斗さんと恋人つなぎみたいに手を握る。
こ…恋人なのかな?でも兄弟って言ってたよね…。
「兄ちゃん、愛してるよ」
…アカン、これアカン奴だ。
一旦、離れて寝ていた部屋に戻って考えようと引き返そうとして。
足を滑らせて転んだ。
バタンと大きな音がしたので、二人もボクが起きたことに気づいたと思う。
ドアの開く気配がしたけど、起き上がれない。
どうしていいかわからなくて、とりあえず寝たふりをした。
*
ボクはソファーに座ったまま、何も見ていないことをアピールするのにずっと顔を覆っていた。
七瀬さんはというと、死にそうな顔のまま隣に座って頭を抱える。
「だからダメって言っただろ!!」と半泣きで怒られた聖斗さんは床の上に正座させられていた。
「えーっと、どの辺から見たん?」
「…何も見ていません」
「オレと兄ちゃんがチュッチュペロペロしてるくらい?」
「お前もう黙れよ!!」
七瀬さんが泣きながら叫んだ。
仕方ねぇなぁと聖斗さんはため息をついてから立ち上がると、ボクの手を掴んで顔から離す。
二重で切れ長の瞳で高い鼻、薄い唇のカッコイイ顔がドンドン近づいてきた。
ふわりと柑橘系のいい匂いがするなと思ったら。
聖斗さんにキスされた。
された瞬間、頭がパーンとなった。
「…これでお前も同罪な」
「ななななな何するなんですか!!」
「へへー♪お前がなんか言ったら、オレもお前がオレとチュッチュしたって言いふらすかんな」
誰が言うもんか!
慌てて唇が痛くなるくらいに服の裾で唇を拭く。
そんなボクを見て聖斗さんはヘラヘラ笑う。
「あ、これだと兄ちゃんと間接キスか。ね、兄ちゃん」
そう言って七瀬さんの方を振り向くと。
「お前、マジ、何してんの?」
聞いたこともないくらいに冷たい声と視線で、聖斗さんを睨みつけていた。
優しい七瀬さんからでているなんて信じられないオーラに聖斗さんはもとより、ボクも恐怖に震える。
「に…兄ちゃん?」
「お前、小学生に何したのかって聞いてんだよ?なぁ?」
「うわー!ごめんなさいごめんなさい!」
目の前で繰り広げられる光景に、ボクは部屋の隅で震えているしかなかった。
七瀬さんはびっくりするくらいおかずを作ってもたせてくれた。
何度もお礼を言うも、七瀬さんは落ち込んでいた。
「…本当に弟がごめん…」
「あの、元気だしてください!良かったら、また遊びに来てもいいですか!?あ、ボクのうちにも遊びに来てください!!」
必死にそうお願いすると、ようやく七瀬さんが弱弱しく笑ってくれた。
「家まで送ろうか…?」
「大丈夫です!お邪魔しました!」
最後にもう一度お礼を言ってから、リビングを後にする。
一人になってから、また唇をゴシゴシこする。
別に七瀬さんとの間接キスが嫌というわけではないけど、男同士、しかもお隣さんの聖斗さんに直接されたということがショックだった。
初めてなのに、と思ったがふと思い出す。
…お父さんとキスしたよな。唇同士で。
あれは。嫌じゃなかった。
ショックでもなかったし。
なんでだろう、わからないや。
「…家族だからかなぁ」
*
「こう太帰った?」
「…帰ったよ!」
「もぉ、機嫌治してくれよー。悪かったってばー」
「うるさいなぁー。こう太くんにあんなことするなんて…バーカ!」
「だって、最近こう太ばっかり可愛がって…。オレの兄ちゃんなのに…。弟は寂しいんだかんな!」
「…良いお兄さんは本日売り切れました」
「うわん!」
「だから今は、『望月聖斗の恋人の七瀬』しかありません」
「へぇ…?」
「お求めになりませんか?」
チュッ
「にぃ…七瀬!大好き!愛してる!破産するくらい買い込む!」
「なんだよそれ。僕も聖斗が大好きだよ…」
「…まだ、ボク近くにいるんだけどなぁ…」
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