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曜日の感覚が無くなっていて、気づいたら土曜日になっていた。
なんかここ最近の記憶が曖昧で、こう太とキスした所で記憶が終わっている。
とりあえずこう太が普通通り接してくれてるから、酷いことはしていないはずだ。
土曜日ということで、書道教室に顔を出しに行く。
指導なんてほとんどしていないで、生徒さんとお喋りするかお茶飲んでいるかなんだけど。
こう太に行ってきますと言って外に出ると、同じくらいのタイミングでお隣さんのドアが開いた。
「じゃあ、ちょっと見てくるだけですぐ帰るから」
「サークルぐらい入ったら?折角のサークル説明会なのに」
「そんなん入ったら、ますます兄ちゃんと一緒にいれないじゃんか」
そう言うと金金頭は綾凪くんの唇にキスをした。
どう見ても、外国でよくある家族間の挨拶的なキスというよりは、恋人同士のキスのそれである。
二人の光景を見て、先日のこう太の様子を思い出す。
「いってきまーす♪」
バタンとドアを閉めてから、金金頭はそこではじめてオレに気づく。
「うわ、嫌なもん見ちまった」というあからさまに嫌そうな顔に俺もプツンとなる。
「お前かー!!やっぱりお前のせいかー!!」
「ななな、何じゃーい!?」
いきなり叫んだ俺に慌ててエレベーターに逃げる金金頭。
その後を追いかけて俺も走り出す。
エレベーターの閉めるボタンをガチャガチャ押して降りようとしているのを、無理矢理こじ開けて中に入る。
「何だよ、朝っぱらからハッスルすんなし!!」
「…お前、俺の息子に何かしただろ…!」
金金頭は俺から目をそらすと、ひょっとこ口で口笛なんか吹いてしらばっくれる。
その様子が「私知っています」と言っていることはどう見ても明らかで。
肩を揺さぶって吐かせようとするも、金金頭は「ワタシ、ニホンゴ、ワカラナイ」といきなり片言で話し出す。
「綾凪くんに聞いても良いんだぞオラ?壁際にジリジリ追い詰めて聞くぞ、あ?」
「や!やなこった!!あーもうわかったよ!!」
金金頭は俺の手を払いのけると、観念したようにため息をつく。
「…オレと兄ちゃんがチューしてイチャイチャしてるところを見られた」
「はぇ?」
「で…口止め料払った(金銭的なものではない)」
チューしてイチャイチャって、こいつら兄弟って言っていたよな。
んで、やっぱりさっきのは挨拶のキスってわけじゃなさそうだ。
っていうか、お前ら俺にもこう太にも見られるってどんだけ迂闊だよ。
俺が呆れていると、金金頭はむっとした顔で逆ギレしてきた。
「んだよ、チューくらい良いだろ?どうせお宅もチュッチュチュッチュしてんだろ?」
「ブっ!!するか!人聞きの悪いこと言うな!!」
いや、最近チュッチュしましたけど。
俺の言葉に金金頭は不思議そうな顔をしていた。
意外だとでも言うように。
「してないんだ。何でよ?」
「何でって、そりゃ親子だからだよ」
「息子という名の性的オモチャだと思ってた」
「お前俺を何だと思っていやがる!!」
「野獣」
その通りだよ!!
「何だよ、こう太に『新婚さんみたい(ハート)』って言われて喜んでたくせに」
「フゴッ!」
変な鼻息が出た。
あの日確かにこいつは同じ店内にいたけど、まさか聞いていて、しかも俺が喜んでいるところをいつ見ていたというんだ。
明らかにうろたえている俺を見て、金金頭がニヤニヤしながら俺を見上げている。
「あれれー?おじさん何で赤くなってるのー?」
「なってねぇよ!!」
悪魔みたいな笑い顔で目を細めると、俺の肩をポンポンと叩く。
「おっさん、ちょっと顔貸してくれや」
*
リンチの予感のするセリフを金金頭…聖斗に吐かれたが、彼に連れて行かれたのはハンバーガーチェーン店だった。
俺は書道教室にいるアシスタントにいけないかもと連絡を入れてから、トレーを持ってショップの二階にあがる。
窓際のカウンター席にいる聖斗も何やらスマホをいじっていた。
「っていうか、お前学校じゃねぇのか?」
「んー?今日は部活やサークルの勧誘説明会みたいなもんだから、別に絶対行く必要ねぇんだよ。友達の付き合いで話聞きにいくだけだったから、元から乗り気じゃなかったし」
「大学ってどこよ」
「氷青大の経営学部」
思わず麦茶を吹き出しそうになる。
…学部こそ違えど、俺の後輩だった。
そんな俺の様子を気にすることなく、聖斗は不味そうにハンバーガーをかじっていた。
「不味そうに食うのなお前」
「マズイよ。兄ちゃんのハンバーグ食っちまうと、チェーン店のハンバーガーなんて何でもマズイ」
じゃあ何で此処にしたんだよと突っ込んでやる。
まぁ、学生なんて今も昔も金が無いからな、と自分の学生時代を思い返す。
俺も保村も貧乏学生で、医大に通っていた金持っている華田ん家に入り浸っていた気がする。
「…それにしても、お前綾凪くんのことホント好きな」
「好きだよ。大好き」
「お前らって、そういう関係なの?」
「そういうって?キスしたりデートしたりベットに押し倒してアンアン言わせる関係のこと?」
日中の、しかも中学生とかもいる所でなんつー発言を…。
俺は聖斗の頭を小突いてやった。
聖斗は頭を抑えながら不満そうに唇を尖らせる。
「んだよ!おっさんが聞きたいのはそういうことだろうが!?」
「場所を考えんかボケ頭!」
「うるせーなー」
ブツブツと文句を垂れながらコーラをすする聖斗。
俺もポテトをかじりながら、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「お前ら、兄弟なんだよな。でも、苗字違うから義兄弟かなんかか?」
「三国志かーっての。ちげぇよ、親が離婚したとかでもなくて、腹違いの兄ちゃんなんだよ」
「腹違い?」
「兄ちゃんの親父が浮気相手に産ませた子供がオレ。マジ、最悪な親父だよ。兄ちゃんが腹にいる頃浮気しやがって。猿か!んで、兄ちゃんが七月に産まれて、同じ年の十二月にオレが産まれたんだ。だから、双子ってわけでもねぇのに同い年で兄弟なんだ」
嫌そうに吐き捨てたかと思ったら、「あと三ヶ月したら兄ちゃんの誕生日だからバイトで金貯めてるんだ」と一人ニコニコしていた。
聞かされた俺はというと、店内の空気にそぐわない重い話に嫌な汗が流れる。
こんな踏み込んじゃいけない話を聞かされて、俺はどうしろってんだ。
っていうか、半分とは言え血の繋がった兄弟でキスしたり性行為したりって、マジか。
ふ、と綾凪くんを押し倒すシーンを想像してみる。
…うん、綾凪くんだったら、男でもイケるな。
「…おい、今何かやらしいこと考えてんだろ」
「考エテマセン」
「内容によっては、マジ訴訟すっかんな。…で、こう太って本当におっさんと血繋がってんの?」
「んあー。ぜーったい、一度は言われんだけどよ、俺の子なんだよ。母親似なんだけど」
「へー。手ぇ出したの?」
「出すかバカ!!」
思わず大声をだしてしまったので、店内の視線が俺に集まる。
聖斗はうるせぇよハゲと罵倒しながら、俺の足を蹴った。
ちくしょうイライラする。
聖斗は声を落として、ニヤニヤ小馬鹿にしたような笑を浮かべながら尋ねてきた。
「でも、おっさんこう太のこと好きなんだろ?家族愛じゃなくて、恋愛感情とかそれこそ性的対象として」
「…お前何でわかんだよ?いや!性的対象とかそんなんじゃねーからな!!」
「わかんよ。俺追いかけてきた時の顔、子供の心配する親父じゃなくて恋人にちょっかいだされて怒ってる男の顔なんだもん。ダッセぇなぁww」
自重していたはずなんだが、会ってそんなにたっていない隣人にバレバレなんだから、こいつを迂闊だなんだとは言えない。
聖斗はひとしきり俺を笑ったあと、「まぁ、俺と同じ顔してたんだもん。わかんよ」とポツリとつぶやいた。
「で?いつ手だすの?」
「出すかよ!!お前と一緒にすんな!!」
「何でよ。ムラムラしないの?枯れたのか?」
「んだとこちとら現役…何言わすんだよ!!」
「へー、純愛貫くんだ」
嫌味な笑みのまま俺を小馬鹿にする聖斗。
俺の最近の葛藤を見透かしているようで、さらに怒りが募る。
こんな、自分の年齢の半分しかないガキにバカにされて、俺は何をやっているんだ。
…まぁ、俺がバカだから仕方ないんだが。
「貫く…自信がねぇ。かと言って、手をだして嫌われるのは絶対嫌だ」
掌で顔を覆ってため息をつくと、聖斗が呆れた顔で「強欲だなオイ」と呟く。
「ちゅーちゅーしたいけど、嫌われるのは嫌だって?いっそこう太に『そういう対象として」好きになってもらえばよくね?」
「…なるかよ。あいつは俺のこと、『お父さん』として好きでいてくれんだぞ。…倫理とか分別とかぶっ壊せる年でもねぇんだし。…あの子に嫌われたりなんかしたら…そんな…」
「おっさんビビってる♪おっさんビビってる♪」
「うるせぇ!手拍子やめろ!!」
落ち込む俺を見て、聖斗はポンポンと肩を叩いてくれた。
そして笑顔を浮かべてくれた。
「わかった、良い方法がある」
「な、なんだよ」
「襲え」
「」
「襲え。襲って嫌われろ。そしたら、すっぱり諦めきれんだろ」
お前、人の気持ちも知らねぇで!
一瞬でもお前に縋った俺に謝れ!
胸元を掴んでガクガク揺さぶると、聖斗にすねをガンガン蹴られる。
「じゃあどうしたいんだよ?諦めないで、大人になるまで待ってれば?」
「大人か子供かの問題じゃねぇんだよ!!俺とあいつは…」
親子なんだよ!と叫びそうになって慌てて口を塞ぐ。
そう、親子なのに何を俺は血迷っているんだろう。
聖斗の俺を見る目が冷たい。
「でかい図体してちっちぇ男だなぁ。翻弄されながらウジウジ悩んでろ」
「…そのつもりだ」
やっぱりこいつにはむかっ腹が立つんだが、同時にちょっと羨ましくもあった。
半分だけとはいえ血が繋がっていても、男だとしても、誰かを全身で好きだって言えるなんて。
若さゆえ、って奴なんだろうな。
*
結局書道教室に向かうことなく、二人でマンションに帰ってきた。
お互いに悪口を言い合いながら歩いていると、ちょうどマンション前でスーパーの袋を下げたこう太と綾凪くんに出会う。
俺と聖斗を見ると、二人はすごいビックリした顔をしていた。
「…珍しい二人だな」
「父さんも聖斗さんも、喧嘩してないでしょうね?」
「してませんー」
聖斗はこう太にべーっと舌をだすと、こう太は嫌そうな顔のまま俺の影に隠れた。
俺はというと、綾凪くんの手を握ると両手で握り締める。
「この間は飯ご馳走さん。すげぇ美味かったよ」
「そうですか、それは良かった」
「いつもこう太の面倒見てくれてありがとうな」
「ってめ!このハゲ!!兄ちゃんに触んな!!」
俺から綾凪くんを奪い取ると、のら犬のようにガルガル吠えながら威嚇する。
その後ろで綾凪くんは呆れたようにため息をついた。
「兄ちゃん、何買ってきたの?」
「夕飯の買い出し。今日はひき肉が安かったから、ハンバーグにしようと思って。聖斗にこの前美味しいって言ってもらったしね」
「マジっすか!?すっげー楽しみ!!」
後ろから抱きつくように綾凪くんにまとわりつく聖斗は、なんだか子犬のようで、さっきまでの悪態ついてる様子と天と地の差ほどあるように見えた。
つーか、小学生の居る前でこんなイチャコラされるのも、情操教育に悪い気がする。
…っていうか、たぶんあいつわかっててやってる。
俺の方を向いて、「羨ましいだろ」って感じで鼻で笑いやがった。
あぁ、ムカつく。
「父さん、うちもハンバーグだよ」
「お、おお、そっか」
「七瀬さんに作り方聞いたよ」
こう太は俺の服の裾を引っ張ってそう言うと、優しく笑ってくれた。
笑顔が、亡き恋人の嬉しそうな笑顔とゆっくり重なる。
それがすっげー可愛くて、愛おしくて。
やっぱり、この子に嫌われるのだけは嫌だと思ってしまう。
「そっか。楽しみ」
頬に軽く触れると、くすぐったそうに身をよじって笑う。
こう太の笑顔を守るために。
今日からまた、頑張って節制して、悟りを開こうと決意を新たにした。
…しかし、この後そんなこと考えていられない状態になるなんて、俺はまだこの時気付かなかった。
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