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だけどそんなこと考えていられないくらいに、ノルマに追われる日々が続く。
書いても書いても終わらない。
なのに間宮くんはドンドン仕事を持ってくる。
気づいたら四月が終わり、五月に入った。
家にはまともに帰らせてくれなかった。
不満が爆発して俺は間宮くんに詰め寄った。
「ゴールデンウィークくらいどっかでちゃんと帰らせろ」
「先生が仕事を終わらせればお帰りになれます。私がどうこうできません」
「ノルマ作ってるのはお前だろうが!!それくらいの融通をきかせろ、俺どんだけ家帰ってないと思うんだよ!」
食ってかかる俺の態度を見て、間宮くんは不思議そうに首を傾げる。
相変わらず無表情だけど。
「帰れないことに何の不都合がありますか?」
「不都合ってお前、ありまくりだろ!一人なら…」
「先生にとって、今が大事な時期だと私は思っています。何度か逃亡しようとしましたが、仕事を落とすこともなく、受けた依頼の作品はクオリティ高く仕上げ、大変好評下を貰っています。その信頼が、次の仕事に繋がっています」
そう、何度か敵前逃亡を試みたんだけど、ことごとく間宮くんに捕まる。
説教するでもなく、「ノルマがまだあります」と抑揚なく言って俺をアトリエに戻す。
俺の体にはGPSでも仕込まれているんじゃないか。
「先生はもっと雄飛するべきです。雌伏の時はもう十分ではありませんか」
「いや、それは良いんだけど、お前が極端なんだよ!仕事減らしてくれって!!」
「息子さんのために有名になることは罪なのですか?」
息子と言われて思わず勢いが止まる。
そりゃ、俺が有名になったらこう太も鼻が高いだろうし、俺のことで馬鹿にされないだろう。
有名になって金が入れば、家政婦なんか頼んであの子が家事をしないようにできるだろう。
今頑張ることは、俺だけじゃなくてこう太のためになる…のかもしれない。
その間ですっかり俺の勢いは殺されてしまった。
間宮くんは腕時計で時間を確認しながら、
「時間を無駄にしてよろしいのですか?」
と冷静に言い放つ。
この態度に、やっぱりこいつ苦手だと思った。
スマホが震えてメールがきたことを知らせる。
画面には聖斗の名前。
帰れないかもということで、七瀬くんや 華田・保村ん家にこう太の面倒とまでは言わないが、気にかけるように頼んだ。
こう太にも、一人で無理をするな、何かなくても連絡はいれろと言い聞かせてきた。
それからと言うもの、いつアドレスを知ったのか知らんが聖斗から、
[こうたとにーちゃんがギョーザつくってくれた*\(^o^)/*チョーまいうー]
とか、頭の悪そうな文と共に、可愛いこう太と七瀬くんの写真を送りつける。
件名は決まって「うらやましいだろ(´・Д・)」」
羨ましいわ!!
餃子でビール飲みてぇよ!!
俺を羨ましがらせる為だけの嫌がらせメールがくるようになった。
森崎くんには「こう太くんが元気か知らせてくれて、いい子じゃないっすか」と窘められる。
いや、これは絶対嫌がらせなんだ、俺にはわかる。
三日に一度くらいの頻度でメールは送られてきた。
反対にこう太が電話をほとんどしてくれなくなった。
俺の仕事の邪魔になるから、と。
俺の方から電話しても、すぐに切られてしまう。
すっっっっげー寂しい。
だから、俺を悔しがらせるメールも、今ではちょっと楽しみにはなりつつある。
件名は何時もと違かった。
「ちょっとヤバイ」
写真には、不機嫌そうな顔のこう太が写っていた。
*
イライラが止まらない。
最近、垓くんに「顔が怖いよ」と言われるくらいだから、態度にも出ているのかもしれない。
なんとなく理由はわかってる。
お父さんがアトリエからほとんど帰ってこないことだ。
ううん、全然帰ってこない。
お仕事が大変だからだとわかってる。
お父さんが頑張って作品を作って、働いてるのはすごく嬉しいのに。
なのに、なんだか気持ちが落ち着かないんだ。
七瀬さんとか垓くんと一緒にいる時はまだ、平気なんだけど、一人で家にいると気持ちが辛くなってくる。
「こう太、父ちゃんのこと考えてるだろ?」
聖斗さんがニヤニヤしながらボクのほっぺたを指でつついた。
やめてくださいと、振りほどくと聖斗さんは肩を竦めた。
「カリカリしてんなぁ。可愛いくねぇぞ」
「からかってないで、テーブル拭いてよ。ご飯にするよ」
七瀬さんに布巾を渡され、聖斗さんは渋々テーブルに移動した。
夕食にお呼ばれされる時は、ボクの好きなものを作ってくれる。
今日はハンバーグにチーズが乗っていた。
すごく嬉しいはずなのに、上手く笑えない。
そんなボクを見て、七瀬さんがため息をついた。
「ゴールデンウィークはお父さん帰ってくれるといいね…」
「多分、無理じゃないかな」
「っていうか、オレ思ったんだけどよ」
聖斗さんはハンバーグを飲み込んでから
「こう太がアトリエに会いに行けばよくね?」
目からウロコってこのことだと思う。
「あー、そう言われればそうだよね」
「だろ?オレ頭よくね?」
「で、でも、いきなりなんて…」
「ダメなん?」
聖斗さんは首を傾げた。
お父さんからアトリエについて、来てもいいともダメとも言われてない。
でも、いきなり行って邪魔しちゃ悪いじゃないか。
「ダメじゃないけど…」
「明日行ってきたら?差し入れにおかず持たせてあげるよ」
「め…迷惑じゃないかな?」
「それはない」
聖斗さんが力強く断言した。
その言葉に気持ちがグラグラする。
迷っているボクに、聖斗さんがニィと意地悪く笑う。
「こう太くん一人でいけないの?、てならオレが一緒に行ってやろうか?」
「だだだ大丈夫です!…電話してみます」
電話してみると、お父さんはすぐ出てくれた。
明日おかず持っていくね、と伝えるとお父さんは短く「おう」と言った。
迷惑かな?と伝えたら、全力で否定された。
「待ってる」
と言って電話は切れた。
「何だって?」
「待ってるって…」
たったこれだけの事なのに、ホント、一分も電話してないのに。
嬉しくてたまらない。
「やーっと笑った」
聖斗さんが楽しそうに笑った。
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