アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
(11)
-
「えー…」
「何だ?不服か?今の父ちゃんは余裕でお前をお姫様だっこして出かけられるテンションなんだぞ?」
「大人は汚いなぁ」
(11)
朝、いつものように目を覚まして起きようとベットから降りようとしたら。
「ぐぇ!」
何やら柔らかいものを踏みつけたみたいで、カエルの泣き声みたいな声が足元から聞こえた。
恐る恐る足をどけてみると、お父さんが床に寝転んでお腹を押さえていた。
どうしてお父さんがいるのかわからなくて、頭が止まる。
「いてて…あー朝か。こう太、おはよ」
「…父さん、どうして床で寝ているの?」
「んー?いや、ちゃんとベットで寝てたんだけどなぁ」
不思議そうな顔をしながら頭の後ろをボリボリかくお父さん。
ベットって、ボクのベットのことか。いつの間に帰ってきて、いつの間に一緒に寝ていたんだろう。
「お父さん、お仕事はいいの?」
「あー…うん。パトロンの社長に今日明日って休みにしてもらった」
「…マネージャーさんがよく許してくれたね」
「まぁ、間宮くんの上にいるのが社長だからな。社長命令なら従うしかないんだろうけど」
そこまで言うと、ふ、とお父さんの顔がちょっと真剣になる。
そのままボクの方に体を向けてあぐらをかくと、両手で膝を掴んだまま頭をペコリと下げた。
「仕事にかまけてこう太をまた放ったらかして、本当にごめん」
突然お父さんが謝ったことに、ボクは固まってしまった。
何で謝るんだろう。お父さんはお仕事頑張っていただけなのに。
それを言おうと思うと、マネージャーさんに嘘を着いた時のことを思い出して嫌な気持ちになる。
「…なんで謝るのさ」
そっけなくボクが尋ねると、お父さんは頭を下げたまま、「お前がしっかりしているのを良いことに、父ちゃんお前に甘えてた。寂しい思いをさせて、ごめんな」と答えた。
さびしい?
「…別にさびしくなんかないよ」
そう呟くと、父さんは悲しそうな顔でボクの方を見た。
何となく顔を見せたくなくて、ボクの方が今度は顔を父さんから背ける。
「別に気を遣わなくていいんだかんな?いつもみたいにダメ親父って、父ちゃんのこと怒っていいんだぞ?」
「な、七瀬さんもだけど、みんな心配しすぎなんだよ。『今一人ぼっちじゃないか』って。ボクは一人でも平気なのに」
七瀬さんには昨日も、「ご飯おいでよ」って言ってくれたのに無意識に断ってしまった。
ボクが断った時の七瀬さんの悲しそうな顔を見たくなくて、ドアをすぐに閉めた。
せっかく誘ってくれたのに、って自分が嫌になってしばらく落ち込んでいた。
不意に、パンパン、と肌を叩くような音がしてお父さんの方を見ると、太ももを両手で叩いていた。
「へい!」
…膝の上に座れということらしい。
嫌だと言ったら無理矢理抱きついてくるかもしれないので、渋々向き合うように膝の上に座った。
「…父ちゃんはすっげー寂しかったんだぜ」
途端、ギューッと抱きしめられる。
いい大人が何言ってるんだよ、とちょっと思ったけど言わなかった。
お父さんに抱きしめられると、痛いし、墨臭いし、暑苦しいんだけど、何だかそのうち色んなことがどうでもよくなってくる。
ずーっとだっこされていたくなる。
「全然会えないし、電話ほとんどしないから声は聞けないし、家帰れないから飯食えないし、笑顔見れないからイライラは溜まるしで。…まぁ、なんの努力もしない俺が悪いんだけどさ」
「な、何が悪いって言うの?お父さん、お仕事だったんだよ?頑張って、お金稼いでくれてたんじゃないか」
「…これ言うと、怒られるかもしれないんだけど」
お父さんの腕がボクから離れて、ボクの両手を包み込むようにギュッと握り締められる。
そして、ヘラっと笑う。
「俺、金はそんなになくても良いから、家族で過ごせるほうが幸せなんだわ」
お父さんがそう言って嬉しそうに笑うから、悲しいことなんてないはずなのに。
心の中にぶわーっとその言葉が広がっていって。
なんの涙かわからないまま、ボクは泣いていた。
そうして、ようやくわかった。
イライラしていたのも、心が落ち着かないのも、苦しくなるのも、不安になるのも、悲しいのも。
お父さんがいないのが寂しかったからなんだ。
二人で過ごすためのお家に一人ぼっちだったから、ボクは寂しくてたまらなかったんだ。
寂しいなんて気持ち、知らなかった。
「え?ちょ?マジ何だよ!?また俺、何か言った!?」
「…うるさいハゲ」
「ひでぇなぁ」
お父さんは涙を拭くボクの頭をよしよしと撫でてくれると、「こう太は泣き虫だな」と笑った。
そんなお父さんに、今度はボクが抱きつく。
「あのね、ボクのことギューッてして。どこにもいかないでね。ボクのこと、離さないでね。ボクもね、お父さんと一緒にいるのがね、幸せなんだ」
一瞬、お父さんの動きが止まった気がする。
でもすぐに、背中を優しく撫でてくれる。
「おう。離さねぇよ、絶対な」
*
「こう太、風呂入りに行こうぜ、風呂!なんか駅の向こうにでっかい温泉施設できたみたいなんだぜ」
「えー。せっかくのお休みなんだからゆっくりしたら?」
「だから、風呂入ってゆっくりするんじゃんか。何?不服?今、父ちゃんテンション高いからこう太のことお姫様だっこして行くくらい屁でもねぇんだぜ」
「大人は汚いなぁ」
お父さんは何でか知らないが、さっきからやたらとはしゃいでいる。
正直うっとおしい。
だというのに、お姫様だっこするぞ、なんてどんな脅迫だよ。小さい女の子じゃあるまいし、お姫様だっこなんて恥ずかしくて外に出られるわけない。
「わかったよ。準備するからちょっと待ってね」
「マッサージとかあるだろうし、ちょっとやるかな。あと、アカスリもやりてぇな」
銭湯とかサウナとか何度か連れられていったことはあるけど、マッサージとかやりたいなんて言うのは初めて聞いた。
「珍しいね。そんなにお金使うなんて」
ボクがそう尋ねると、不意に父さんの顔が真面目な顔になり、ボクの方をじっと見つめる。
「…まぁ、なんだかんだ働いたからな。お前をほったらかしにして稼いだ金だ。だからこう太・・・父ちゃんの金を散財してください!!」
「そこは、『何でも買ってやる』じゃないんだ…いいけどさ。でも、ボク別に欲しいものなんて無いよ?パソコンでも買う?」
「でも、って何だよ!!もっと欲しいものないのかよ!!」
「ボクはお父さんがいればそれでいいよ?」
「あーあー!何なんだよお前は!!全く!愛してるよ!!」
久しぶりのお出かけに、自分でも驚くぐらいにワクワクする。
手を差し出すとお父さんはギュって握ってくれて、それだけで嬉しくなる。
「帰りに、ゲームセンター行こうよ」
「おう。でも珍しいな、お前がそんなとこ行きたいなんて」
「ゲーセンにね、戦国武将が400人くらいでるカードゲームがあるらしくて、一度見てみたいんだ」
「…そうか」
「?戦国時代嫌い?600人くらいいる三国志ゲームの方がいいかな?」
「勘弁してください」
青い顔で必死に頼むお父さんをみて、ボクは首をかしげた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
42 / 203