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And it rains today
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それではお天気です。
ようやく春の嵐がおさまり、晴れの日が続きますね。
気持ちのいいお天気なんですが、残念なことにこれも五月一杯までですね。
おそらく、六月にはいってすぐ梅雨入りとなるでしょうね。
四月五月六月と、雨の続く日々となるでしょう。
(1)
「ほんっっっとうに!!ここは天国ですよ!!」
一昔前のサラリーマンみたいな彼はそう泣きながら叫んだ。
彼の名前は音羽(おとわ)くん。
今現在、俺のパトロンである社長の秘書を勤めている。
彼こそが間宮くんの代わりに秘書になったために、新婚さんなのに家へ帰れない可哀想な青年である。
音羽くんはでっかい牛乳瓶の底のようなメガネで七三分けの昭和っぽいサラリーマンスタイルなのに、身長は俺よりちょっと小さいくらいなんだけど、スラリとしている。
たぶん、もっとお洒落すりゃいい男なんじゃないかな。
そんなでかい図体のモデル体型なのに、先ほどから嬉し涙でベソベソしている。
なんで泣いているかってぇと…。
「社長がね!私にどんどん仕事を押し付けるんですよ!!しかも、同じく秘書のはずの間宮さん、あ、妹さんの方ですね、彼女も私に仕事を押し付けて、自分は合コン三昧ですよ!?私が一番下っ端だからって仕事が右から左に流れてきて、いつも終電さえ乗れなくて会社に泊まり込みですよ?マイハニーが私の好きな料理を作って待っているというのに…!でも、一時的とはいえ、石川先生のアトリエに配属されるなんて…!帰れる、これで、帰れ…ううう…」
息つく暇もないくらいに怒涛で話し出す音羽くんに、俺も森崎くんもその勢いに飲み込まれて「そうか」ぐらいしか言えない。
間宮くんは社長の元に戻されて、何やら今後のことを相談するらしい。
辞表は出したみたいだが受理されていないとかで、たぶん、考え直すように説得されているか、口説かれているか。
海外にいたはずの社長の息子まで帰ってきたとかで、親子で醜い争いをしていると、間宮くんから連絡も来たので、当分アトリエに来れないだろうな。
代わりに、間宮くんの後任の秘書がアトリエにやってきた。
「とりあえず今日のスケジュールとしましては、15時に解散でよろしいですか?」
「異議なし」
「いや、仕事しろよおっさん」
森崎くんのツッコミが容赦なくはいる。
音羽くんはスーツのポケットから手帳をとりだして、「15時解散、と」と呟きながらメモをする。
「アンタも働けよ!!」
それからは、作業片手に音羽くんのノロケ話をひたすら聞かされる。
彼女とは幼馴染だけど引っ越して一度離れたけど大学の音楽サークルで再会してから付き合いだした、とか、彼女が病気にかかって一度別れを切り出されたものの自分が彼女を支えて、とか。
(すっげーどうでもいい)
(リア充末永く爆発してください)
特に、現在彼女のいない森崎くんの目が笑っていない。
ただ一つ、音羽くんの声がすごく通るイイ声しているのは、そういう音楽をやっていたからなのか、と一人納得した。
「石川先生は現在息子さんと二人で暮らしていらっしゃると聞いたのですが、家事などはやはり全て先生ご自身で?」
「ないない!先生が家事やったら火事になりますから!!」
「あんだと!!」
俺が答える前に森崎くんが笑いながら答えたので、俺は小突いてやった。
音羽くんは大して面白くない森崎くんの言葉に大笑いしていた。
「では、家政婦サービスなどを使われているんですか?」
「いや、それが聞いてくれよ。うちの子は、これがまたしっかりした良い子でさぁ」
音羽くんの嫁自慢に対抗できるのは息子自慢しかねぇとばかり、最近あった嬉しいことやこう太の作ってくれた料理についてここぞとばかりに語りまくる。
間にいる森崎くんがやっぱり居心地悪そうなんだけど、反対に音羽くんは興味深そうに聞いてくれた。
「ちなみに、再婚されるご予定とかあるのですか?」
突然の質問に、思わず口を開けたまま固まってしまった。
再婚、っていうかパティとは結婚したんだっけ?
結婚しようね、と話していたら彼女の妊娠が発覚して…それで。
思わず考え込んでしまった俺の様子に、気分を害したとでも思ったのか、音羽くんが五体投地する勢いで謝りだした。
「ももも申し訳ありません!!たたた大変失礼な質問をしてしまいました!!」
「い、いや、違う違う。落ち着けって!」
髪を振り乱して謝る彼を慌てて落ち着かせ、やっぱりマネージャーは三角ちゃんがいいなぁと心の中でため息をついた。
*
そんな会話があってから数日後。
また俺は同じ質問をされることとなる。
小説本の打ち合わせで、駅近くの喫茶店で担当編集者と顔を合わせる。
前回、いくらお近づきの印にってこととはいえ、うっかり居酒屋で打ち合わせをしてしまった。
うん、打ち合わせなんかしないで飲んで大騒ぎしたよ。
今回は真面目に打ち合わせをするということで、静寂の苦手な俺に配慮してくれたうえに、家から近い喫茶店を指定してくれた。
とりあえず、とくに変更とかもなく打ち合わせは何事も終わった。
そのあとは担当編集の兄ちゃんと世間話をしながら茶を飲んでいた。
「この間の打ち合わせでしこたま飲んで帰って、嫁さんに締め出されてしまって…」
「ハハハ、悪いことしたな。奥さん専業主婦か?」
「いえ、スーパーでパートとかやっています。…そういえば、石川先生は再婚とか考えないんですか?」
「あー…」
やっぱり、父子家庭とかって気になるもんなのかな。
…いや、俺がだらしない男だから嫁がいた方がいいと思われているのか。
嫁さんだったらいるし。こう太のことだけど。
でも、こう太が家事をしてくれている負担を軽減するには、「母親」が家庭にいた方がいいのかもしれないけど。
…こう太のことを、親子愛はもちろん恋愛感情で好きだから、正直今他の誰かを好きになろうとは思わない。
だけど、その他の誰かを好きになった方が精神的に楽なのかもしれない。
「…できるならしてぇな、再婚」
俺は自嘲気味に言うと、肩を揺らして笑った。
「まぁ、こんな親父を好きになってくれるなんて早々ないけどな」
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