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七瀬さんには「自分から言うから」って言われたけど、忍者のボクは聖斗さんに情報を流す必要がある。
だから、22時に聖斗さんのバイトが終わるというので家の外で待っていた。
お父さんが、「電話かメールするか?」って言ってくれたけど、忍者だから情報を残してはいけないからと断った。
22時半くらいに聖斗さんが帰ってきて、家の前で待っているボクを見て驚いていた。
「なんだよー、小学生はもう寝ろよー」
「うん、報告したらそのまま寝れるように歯磨きも終わらせました」
「あぁ、だからパジャマなんだ」
そう言って笑うとキョロっと辺りを見回した。
自分の部屋のドアから離れるように、隅にボクを移動させると、「して、半蔵。どうであったか?」と殿様口調で尋ねた。
「えっと…。こないだ来たお父さんの新しいマネージャーさんが、聖斗さんの昔のお知り合いみたいで」
「オレの?」
「早弁しちゃうような不良の頃の知り合いだって」
「ブっ!!」
何に吹き出したのかわからないけど、聖斗さんは顔を覆ったまま肩を震わせる。
それにちょっとイラっとしたので、強い口調で「聞いてる?」と尋ねると、変な咳払いをした。
「うん。ごめん。それで?」
「その人と出会ったことで、今聖斗さんが真面目でも、昔みたいな不良に戻っちゃうんじゃないかってことを心配してました」
「…そっか」
聖斗さんの顔が悲しそうな顔になる。
なんとなく思っていたことと違ったみたいで、その顔のまましばらく考え込んでいた。
そのうち、苦笑いを浮かべる。
「…兄ちゃん、心配症だからな。ご苦労さん、ありがとな」
「な、七ちゃんは毎日幸せなのにそれが変わっちゃうかもしれないから、不安だって言ってたけど…。でも、聖斗さんのこと信じてないとかじゃないんですからね!」
「わかってるって、大丈夫」
必死で説明するボクの頭をポンポンと撫でてなだめてくれる。
そのちょっと悲しそうな顔が、七瀬さんに似ていた。
だから、ボクは思わずずっと聞いてみたかったことを口にだしてしまった。
「…七ちゃんと聖斗さんってホントに兄弟なんですよね?」
ボクの質問に、聖斗さんの動きが止まる。
無神経に聞いちゃいけないことなのかもしれないけど、これから七瀬さん達ともっと仲良くなりたいから聞いておかないといけない気がした。
七瀬さんと聖斗さんはすっごく仲が良い。
でもその仲が良いのは、垓くんと璃子ちゃんの仲が良いのとは違うように見えたんだ。
聖斗さんはちょっと考えてから、口を開いた。
「兄弟だよ。ちょっと小学生にはまだ早い複雑な事情があるから、あと十年くらいしたら教えてやるよ」
それを聞いてやっぱり早く大人になりたいと思ってしまう。
そんなことを考えていたら「でも」、と聖斗さんが続ける。
「恋人同士でもあるけどな」
「こ!?」
「あーこれも小学生に言っちゃダメか。ま、いっか」
映画やアニメで主人公とヒロインの口からしか聞いたことのない単語を初めて聞いて。
しかも、男の人と女の人だけの話だと思っていたボクにとって、聖斗さんの言葉がすぐに理解できなかった。
固まってしまったボクとは反対に、「教育に悪いか」とお父さんみたいなことを言って頭をかきながら、聖斗さんはヘラっと笑う。
「でも、そのうちバレていたと思うけどな。どーみても、普通の家族愛じゃないからなー」
「ち、違うんですか?」
「んー、恋愛感情ってやつ?お互いにキスしたいと思ったり、チューしたいと思ったり、お互いに好きとか愛してるって言ったり、恋人同士としてチューして過ごしたいと思ったり」
そんなにチューしたいのか。
「ま、兄弟ではあるんだけど。どっちかっていうと恋人のくくりが大きいと思ってくれや。あ、親父や兄ちゃんに、オレからこんなこと聞いたって言うなよ?」
「言えないよ!!」
「あ、嘘。親父には言ったかも」
「言ったの!?」
ボクが驚いているのが面白いのか、聖斗さんはヘラヘラ笑いながらボクの頭を撫でくりまわす。
その手から頑張って逃げようと頑張るんだけど、うまくいかなくて結局撫でられ続ける。
「とりあえず、ありがとな。ちゃんと兄ちゃんに聞いてみるわ」
「…そうしてあげてください。七ちゃん「くだらないことで」みたいなこと言うかもしれないけど、不安だって言ってたから…」
「…うむ。承知致した」
そう言って明るく笑う感じが七瀬さんとやっぱり似ているから、色々と頭が混乱する。
兄弟だけど、恋人同士で。
家族愛、じゃなくて、恋愛感情で。
愛してるとか好きって言ったり…。
「…ってか、お前いつの間に「七ちゃん」とか兄ちゃんのこと呼んでるんだよ?」
「ふぇ?ちょ…!あダダダダ…」
聖斗さんはいきなりボクの頭をかじり出す。
嫉妬深いと七瀬さんに言われていたけど、小学生に嫉妬するなんて、やっぱりこの人は何なんだ。
聖斗さんから逃げることができず、しばらくかじられ続けていたボクは、「お前小学生に何してんだよ」というお父さんの張り手によって助け出された。
*
その夜、夢を見た。
お父さんの隣にボクが座っている。
なんだろう、電車に乗っているのかな。
どこかに出かけるのか、それとも家にいるのかは、わからない。
お父さんを挟んで反対側には、お母さんがいた。
でも、お母さんは写真の切り抜きみたいにペラペラしてて、同じ笑顔、同じ格好でいた。
これがホラー映画とかだったら怖いんだろうけど、不思議と何も思わなかった。
お父さんはそんなお母さんの方を向いて、ずっと喋っていた。
内容はわからないけど、『パティ』『パティ』とお母さんの名前をずっと呼んでいた。
お母さんはというと、喋らないで笑顔のままだった。
ボクはそれがなんだか寂しくて、お父さんの腕に抱きついてお父さんの名前を何度も呼ぶ。
それでも、お父さんはボクの方を向いてくれない。
ボクは夢の中で叫んだ。
「なんでお母さんばっかりなの?ボクが今一番お父さんの側にいるんだよ?ボクが今お父さんのこと好きって言えるんだよ?ボクのこと見てよ、ボクのこと好きって言ってよ、ボクはお父さんが」
そこで、目が覚めた。
そんなに部屋は暑くないのに、びっしょり汗をかいていて、怖い夢を見た後のように胸がドキドキしている。
まだ部屋の中は真っ暗だから朝じゃないはずだ。
なのに、目が覚めてしまって少しも眠くない。
それくらいに、さっきまで見ていた夢が衝撃的で。
「な…何今の」
心臓のドキドキが止まらない。
顔の汗も止まらないからパジャマで拭いても止まらない。
何今の夢は?
きっと、七瀬さんや聖斗さんからそういう話ばっかりしていたせいだ。
垓くんが言ってた。夢は昼間の体験が頭に残ってて、加工されたり歪められたりしたものが反映されやすい、って。
そうだよ、だから、あんな夢をみたんだ。
『あとは、その人が普段意識していない願望が夢に現れたりするんだよ』
「垓くんのバカ!(でも好き)」
ボクは垓くんの言葉を思い出して布団の上をもだもだと転がる。
「願望って何?」って垓くんに聞いたら「願い事、とか望んでいることかな」って教えてくれた。
じゃぁ、ボクは夢で見たようなことを望んでいるってこと?
普段意識していないってことは、本当は心の中ではそうなりたいって思っていること?
「お父さんに好きって言ってもらいたいってこと?」
口に出した途端、顔が熱くなっていく。
いや、言われてるじゃんか。酔っ払うと、チューだってされるし…。
あれは、うん。家族として。
家族としてだから。嫌じゃないから。
本当はお父さんともっとキスしたいんだ。
「…せ、聖斗さんみたいだ」
頭の中に、ヘラヘラした聖斗さんが「うぇーい」とやってくる。
恋愛感情として七瀬さんのこと好きだって、恋人同士としてキスとかしたいって。
家族愛って言葉じゃなくて、恋愛感情って言ってた。
「…ボクはお父さんが好きなのかなぁ」
口に出した瞬間、恥ずかしさがフルスロットルして、慌てて布団を頭からかぶる。
布団の中で丸くなってゴロゴロ転がる。
でも、心の中は推理漫画の解答編を読んだ時みたいにしっくりきていた。
今までのモヤモヤしたものに、きっちり説明がついたみたいで、変に落ち着いていた。
ボクはお母さんに嫉妬していたんだ。
ボクが近くにいたのに、お母さんの名前を優しい声で呼んで、ボクのことをお母さんの代わりに抱きしめたことに。
それが、心のどっかでたまらなく嫌だったんだ。
ボクは、お父さんが好きなんだ
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