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朝、自然に目が覚めてボンヤリしたまま居間に行く。
普段だったら、こう太の声が聞こえたり動き回る音が聞こえてくるはずなのに、静かだなぁと思って壁掛け時計を目にする。
「うぉ!!8時過ぎてんじゃねぇか!!」
普段は7時半くらいにこう太に起こされているのに、こう太の姿は台所にもどこにもなくて、寝坊したのかと慌ててこう太の部屋に行こうとしたら。
バン!とすごい音でリビングと廊下をしきるドアが開いた。
こう太は髪の毛があっちこっち跳ねたひどい寝癖に、ビックリするほど眠そうな目で顔をしかめていた。
うっすら目の下に隈がある、不機嫌そうなへの字口の面白い顔に、俺は思わず笑ってしまった。
「お前、今日すっごい不細工だなぁ」
いや、本当は笑っている場合じゃないんだけど。
だからか、こう太は何も言わないままグーで俺の尻をボコスカと殴った。結構痛い。
起こさなかったから不機嫌なんかな。
でも、普段俺の方が起こされているし、俺も今起きたしなぁ。
「ちょ、起こさなかったのは悪かったって!!学校間に合うか?送って…」
俺の言葉を無視したまま、こう太は冷蔵庫から食パンを取り出すとそのままかじる。
袋からもう一枚とりだして俺に残りを投げつけると、そのまま学校に行ってしまった。
こう太が寝坊するなんて珍しいし、不機嫌すぎて俺と一言も口をきかないというのも珍しい。
昨日、やっぱり早く寝かせりゃよかったよなぁ、と自分の至らなさに俺はため息をついた。
それでも、帰ってきてからは幾分か機嫌が直っていた。
だけど、相変わらず口はまともに聞いてくれなくてそっけない。
なんだろう俺何かしたっけかなと思い返してみて、もしかして再婚の噂を聞かれたのかと俺は青くなる。
でも、昨日の夜とかは普通だったけどなぁ。
あぁでも、朝のは寝坊したから不機嫌であって、今そっけないのは学校で噂を耳にしたからか?
グダグダ考えていると、部屋の中に変な沈黙が流れる。
こう太はそんなにお喋りじゃないから、テーブルに肘をついてテレビをじーっとみていた。
俺は沈黙が耐え切れなくなり、発狂する前に口を開いた。
「なぁこう太」
「なに」
声が冷たい。心が折れそうになる。
しかも、俺の方に向きもしない。視線は相変わらずテレビに向けたままだ。
「俺の噂って聞いた?」
「聞いたけど」
「そ、そっか…」
ダメだ、心が折れる。
あぁ、でもやっぱり聞いたから素っ気ないのかな。
子供にとって、親の結婚とか恋愛とかってデリケートな問題ですよ、と森崎くんが言っていた。
「俺の同級生にも、母親が再婚した義理の父親と上手くいかなくて一時期荒れてた子いましたよ。女の子なんですけど、夜遊びしたり派手な格好したり」
音羽くんによる心理学とか社会学を絡めた詳細な説明なんかよりも、その言葉が一番頭に残った。
俺には別に再婚の予定とかないから荒れる、ってことはないだろうけど。
永子ちゃんからちゃんと説明できるようにしておきなさいと言われて、考えていた言葉が中々頭から出てこない。
「えーっと、父ちゃん再婚とかする予定ないからな」
「わかってるよ」
「お、おう」
永子先生助けてください。
子供と言葉のキャッチボールするつもりが、息子から剛速球を投げられます。
こんな時、間に人を入れたらいいのか。
やばい、二人っきりなのに苦しい。
「お父さんにできるわけないじゃない」
ちょっとだけ小馬鹿にするように言われた。
その言い方にブチギレるってわけじゃないけど、ちょっとだけムカついたので、思わず強い口調になる。
「…なんだよ。俺は結婚できないと思ってんのかよ」
「思ってるよ。できると思ってるなら、やってみれば」
「…じゃあ、俺が本当に他の人と結婚したいとおもったら勝手にしていい?」
「どうぞ」
こう太は普段こんなこと言わない子だ。
だというのに、何がそんなに不機嫌なのかしらないが一度も俺を見ようとしない。
「わかったよ」
その態度にムカッ腹がたったので、俺は吐き捨てるように呟くと立ち上がる。
別に嫌いになったわけじゃないが、機嫌が直るまでちょっと離れていようと俺は自分の部屋に向かう。
本当に結婚する気なんてないし、こう太が好きな今他の誰かを好きになる気もないのに、本意でもないことを言っちまったので頭を冷やそうというのもある。
ホント、俺って大人気ない。
居間と廊下をしきるドアのノブに手をかけた時、背中に衝撃を受ける。
なんだ、と思って後ろを振り向くとこう太が腰に抱きついていた。
こう太は俺の腰を抱えるように腕を回すと、おでこを背中にピタッとくっつけて、絞り出すような声でつぶやいた。
「…ごめん。ウソついた」
*
お父さんが好きなんだ。
そう思ってから頭の中はぐちゃぐちゃになった。
好きで好きでたまらないはずなのに、胸の中はずっと苦しくて、悲しくなって。
気のせいだって思い込もうとしても全然楽にならなくて。
この気持ちはどこに持っていったらいいかわからなくて、眠れなくなった。
そんなまま夜を過ごして、なんとなく明るくなった気配がした頃にようやく眠ることができた。
そしたら寝坊してしまった。
お父さんに顔合わせるの気まずいな、なんて思っていたらお父さんはボクの顔を見て大笑いする。
人の気持ちなんてしらずにこのたこ親父は、と思うと腹がたってきたのでお父さんをはたく。
八つ当たりだっていうのはわかっている。
帰ってきてからは、ますます顔を合わせられなくなった。
お父さんにうっかり言っちゃうんじゃにかと思うと怖くて、あんまり喋ることもできない。
本当は頭撫でてほしいし、好きって言って欲しい。
でも、それはボクのことを「息子」としての好きだから、ボクの欲しいものじゃない。
ボクの好きは「家族」としての好きじゃない。
聖斗さんと七瀬さん達の好きみたいな、恋とかの方の「好き」だ。
そんな方の好きを欲しいなんて…言えるわけないよ。
そんなことを考えていたら、お父さんが噂についてボクに聞いてきた。
また、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
なんとなくお父さんの口調が、ボクの機嫌をとるような感じだったので、頭に血が上る。
あぁ、そうだよ。
機嫌悪いよ、お父さんのせいだよ。
だから、また八つ当たりをしてしまった。
本心の「お母さんのこと今でも好きなのに他の人と結婚なんて無理に決まっているじゃない」が口から出なかったのだけは、自分が偉いとは思うんだけど…。
朝と違って、今度はお父さんを怒らせてしまったみたいでお父さんが部屋から出ていこうとする。
とたんに、不安になる。
嫌な子だったから、ボクのこと嫌いになったのかな。
一緒にいたくないって思われたかな。
お父さんに嫌われるのだけは絶対に嫌だ。
そう思ったら、お父さんに抱きついていた。
「…結婚なんかしてほしくない。お父さんと二人だけがいい。嫌なこと言って、ごめんなさい」
自分が嫌になる。
最初からそう言えばいいのに、どうしてボクは素直じゃないんだろう。
腕に力を入れてギュッと抱きついて、何度もごめんなさいを繰り返す。
「…ホントお前、ツンデレだよな」
呆れたような声でそう言われたかと思ったら、お父さんの大きな手がボクの頭をガシガシと撫でてくれる。
それでようやく顔を上げると、お父さんは苦笑いしてた。
「俺も意地悪言ってごめんな。俺もこう太と、二人っきりがいいな」
「…嫌いになった?」
「なんねぇって!」
じゃぁ、好き?って聞こうと思って、やめた。
今、頭を撫でてくれているだけでいいや。
これだけでボクは幸せなんだ。
もう、変なことは考えるのはよそう。
それのせいで、今の幸せが壊れるのは嫌だもん。
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