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あっという間に二十日になった。
ボクの誕生日強化月間もあまり進んでいないまま、授業参観の日になった。
朝から落ち着かなくて、垓くんにそわそわしすぎと笑われた。
垓くんはいいよ、お母さん普通だし。
「二年生にいる璃子の方を見てあげて、って言ってあるからね」、ということでそんなに来ないみたいだし。
「別に見られて困ることはないでしょ?」
「いや。お父さんが来るのが困るんだよ。絶対、変なスーツ着てくるもん」
「あー…、紫のやつ?」
「何それ知らないんだけど」
ここに来て違う色のスーツも持っていることが分かってしまい、ボクは怖くてたまらない。
どうしよう、オレンジのスーツとか着てきたら。
そもそも家での服は適当なのに、スーツとかになると派手な色ばっかり買うんだろう。
いや、家での服も結構赤とかピンクのトレーナーだよな。
なんでカラフルなものが好きなんだろう。
そんなことを考えていたら授業が始まる。
他の子のお母さん達が後ろに並んで、これはこれで緊張する。
隣の席に座る垓くんは澄ました顔で黒板をみていた。
やっぱり、垓くんはカッコイイなぁ。
うちのお父さんは、来ていない。
来るのかなー、嫌だなーなんてこと考えながら教科書をめくった。
授業は算数の授業だ。
最初は緊張してたけど、お父さん来ていないなら気楽に過ごせばいいかなと思い始めたので、計算問題も手をあげて前で黒板に答えた。
なんだ、心配して損したなんて考えていたら、垓くんがボクの服の裾を引っ張った。
そして、廊下の方を顎でさした。
なんだろうと、そちらを見ると。
廊下側の壁にはいくつか窓がついているんだけど、その窓が開いていて、お父さんと垓くんのお母さんが声は出さなくてもなんかはしゃいでいた。
二人でお互いの肩をバンバン叩きながら、見てみて、とボクたちを指さしていた。
垓くんのお母さんが垓くんに向けてめっちゃ手を振っていて、お父さんもなんかすっごい笑顔だ。
二人に見られていたと思った瞬間、恥ずかしさがこみ上げてきたので、慌てて前を向く。
垓くんがノートに何か書いてボクの方に見せる。
『反応しない。無視』
ボクは小さく頷いた。
とりあえずボク達は前を向いて無表情のまま授業を受けた。
でも、チラッとだけお父さんを見る。
お父さんの格好は、まぁワイシャツに普通のネクタイ。
本を読んだりする時につかうメガネをかけていて、まぁ普通の格好だ。
なんだ、ちゃんとカッコイイ格好できるじゃない。
ちょっとだけ、ボクは嬉しくなった。
*
「書道家の石川先生ですよね。きゃ~本物だ!」
「ははは、本物で~す」
「ファンなんです!」
「お、ありがとうございます~!」
「うちの主人が!」
「あ…そうですか」
お父さんのファンは男の人が多いというお父さんの愚痴を聞いたことがあるので、ボクはそれを思い出して笑ってしまった。
担任の女の先生とお父さんがニコニコ話しているのを隣でボクはじっとしながら聞く。
家庭訪問が実は五月にあったんだけど、お父さんが忙しすぎて時間が取れないということでボクの家だけやらなかった。
それもあるので、ちょっと長めに三者面談をやるとは先生が言っていた。
三者面談の時間も、この後のサイン会のために一番最初にしてくれたんだけど。
お父さんが何故か持ってきていた、昨日発売されたばかりの写真集にサインをして先生に渡すと、また二人でお喋りを始める。
これで面談終わっちゃうんじゃないのかな。それはそれでいいけど。
「ではこちらが、石川くんの一学期の通知表です」
お父さんがそれを見て目を丸くした。
ボクも思っていたよりも◎や3が多い通知表に驚いて先生の顔を何度も見た。
すると、いきなりお父さんがボクの頭を撫でくり回す。
「お前、頭良いんだな~。俺、こんなの初めてみるぞ!」
「ちょ…やめい!」
先生の前なのに思わずお父さんの頭を叩いてしまい、慌ててキチンと座った。
父さんはすっかりご機嫌で、先生の前だっていうのにずーっとボクの頭を撫でていた。
「石川くんは算数と社会が得意ですね。国語の漢字テストもいつも満点ですし」
「お前、すげぇな!」
「ちょっと、図工が苦手みたいですけど」
「あ、うん。それは、なぁ」
うるさい、とお腹にパンチを入れる。
知ってるよ、絶対言われると思って来て欲しくなかったんだもん。
「前の学校の通知表を拝見しましたが、それを踏まえたうえでもこの成績をつけさせていただきました」
「そう、そうなんですよ!四年生の通知表は、なんかそんなパッとしないと思ってたんで。先生良い人だなーと思ってました」
「いえ、それはもう石川くんの頑張りですよ。まだ石川くんの担任として三ヶ月ほどですが、授業も一生懸命だし、テストでわからないことがあればすぐに聞いてきたりで、石川くんとっても頑張っていますよ」
「へへ~♪」
お父さんはボクに寄り添うように頭を掴むと、頬を寄せてきた。
恥ずかしくてたまらないんだけど、もう反応しないことにした。
そんな大したことはしていないもん。
ただ、四年生より前は美夜ちゃんよりも良い成績をとったらおばさんが怒ると思って、あんまり頑張らなかった。
引越ししたし、頭の良い垓くんみたいになりたくてちょっと勉強も頑張っただけだもん。
「学校生活は美化委員をやってもらっています。校内清掃なんかは頑張ってくれていますよ」
「へへへ、俺と違って綺麗好きなんですよ。俺がだらしないぶん、掃除やら料理やら頑張ってくれて、すげーいい子なんですよ」
反応しないと決めたのに、頭をぐわんぐわん撫でられて、ボクもイライラがたまってくるのでお腹をパンチする。
そんなボク達を見て先生は笑っていた。
「だからなんですね。石川くん、クラスのお掃除も率先してやってくれるし、家庭科の授業なんかも手際が良いし。…ちょっと学校生活で気になるのは、お友達と遊ぶのが消極的なんですよね。華田くんとはとても仲が良いみたいなんですが」
「あー親同士が仲いいってのがありまして。えっと、馴染めてないとか?」
「いえ、そんなことはありません。その、最初は金髪ということで遠巻きにみていたことはあるとは思いますが、今ではみんなに受け入れられていますよ」
「そっか、そうですか」
お父さんは成績表を見たときよりも嬉しそうに笑ってた。
それがなんだか嬉しくて、でもやっぱり恥ずかしくて、ボクはその後の話はうつむいたままあんまり聞けなかった。
*
学校から出た瞬間、お父さんはボクの手をつないでスキップを始める。
スキップするのは構わないけど、ボクの手を離して欲しい。
校門を出たところには間宮さんが車を停めていた。すぐに今度はサイン会にいかなくてはいけないからだ。
「もう、ちょっと離してよ!歩きにくいよ!」
「や~なこった!」
あぁもう恥ずかしいな。間宮さんが不思議そうにこっちを見てるし。
それでもお父さんは上機嫌で鼻歌なんか歌っている。
教室から出るときもずーっとニコニコしていたけど、こんなに機嫌がいいのを見るのは久しぶりかもしれない。
「ボクが成績良かったの、そんなに嬉しい?」
「んー?それも嬉しいし、こう太がめちゃくちゃ褒められたのも嬉しいさ。けどさ、クラスに受け入れられてるってのが、前の学校とは違っててすげー嬉しい。良かったな、お前」
お父さんは嬉しそうにスキップしながらそう言うと、ボクの手をギューッとにぎってくれた。
すっごく嬉しそうなお父さんの笑顔に思わずドキドキしてしまって、思わず顔をそらしてしまった。
でも、握っている手だけはギュッと握り返す。
「それが、一番嬉しい?」
「おう!っていうか、少しくらい成績が悪くてもうちの子が一番とか思ってたけど、あれだな、成績良いって嬉しいな!父ちゃん、馬鹿だったしなー」
「そうなの?」
「そうなんだよ。通信簿いーっつも、頑張りましょう・頑張りましょうばっかでさ」
「そうなんだ」
そんなお喋りをしていたら、間宮くんが「先生お早めに」と声をかけた。
マジか、とお父さんが呟いたと思ったら、いきなり抱えられた。
ランドセルを背負って重いはずのボクを軽々抱っこすると、お父さんは小走りになって車に向かっていった。
降ろしてと頭を叩くけど、お父さんは気にすることなく車に走っていく。
ボクは抵抗するのを諦めて、ため息をつくとお父さんにしがみつく。
とりあえずこれからの目標は決まった。
お父さんに喜んでもらえるように、色々と学校のことを頑張ろう。
あんまり目指す気はなかった、クラスの一番にも頑張ってなろうと思う。
そしていつか、お父さんの一番になるんだ。
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