アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
(3)
-
(3)
恋人のパトリシアは留学生だった。
同じゼミの理代子の家にホームステイしていて、彼女を紹介してくれたのも理代子だった。
日本の書道に興味のあったパティは俺を気に入ってくれて、俺は金髪碧眼の美女にメロメロだった。
彼女とは色んなことをして、色んなとこに行った。好き、とか愛してる、とか甘ったるいことを囁いて、二人で笑い合っていた。
彼女との交際は俺が大学を卒業しても続いた。
大学を卒業しても俺はフラフラしていた。
そのうち結婚したいなぁとパティと笑って、自分の好きなことしている時にパティの妊娠が発覚した。
イギリスにいるご両親にご挨拶だ、就職しなくちゃ、みたいに大騒ぎしていたら、八ヶ月目くらいにパティが切迫早産だとかで大出血をした。
なんとかこう太を産んで、あぁ良かった無事で、とかのんきに喜んでいたら、今度はパティが出血多量でと手術が始まって。
再び会った時には、彼女はもうこの世にいなかった。
それからのことは断片的でしか覚えていない。
理代子が号泣して、パティの親父さんに殴られて。
親父さんはパティの骨だけをイギリスに持ち帰った。
お前のような奴の血を引くガキなんていらないというような事を言われ、こう太には見向きもしなかった。
そのこう太は当時結婚している理代子夫婦が育てることになった。
俺が子育てなんかできる精神状態じゃないことと、当時無職で生活力も経済力もなかったからだ。
こう太を養子として迎え入れるとか言われたけれど、それは強く拒否したのはなんとなく覚えている。
だから戸籍とかは石川のままで育ててもらうこと、俺が育てられるような経済力を持てるようになったら、またその時話し合うこと、そう決めた。
…だけど俺は。
「俺、パティの後を追うから、理代子が育てていいよ」
そう言って、理代子の旦那にぶん殴られた。
理代子は泣きながら俺を罵倒していた。
彼女の突然の死は幸せだった日々を強制的に終了させ、俺の精神の均衡を粉々に壊した。
就活も作品作りも何もかもやめて、パティの幻影だけを追いかけて、死のうとか考えていたのに死にきれなくて。
一時期廃人のようになっていた。
見かねた華田と保村に世話を焼いてもらったりカウンセリングに連れて行ってもらったりで、なんとか立ち直った。
立ち直ったというか、辛い事実に蓋をしたんだと思う。
だから、十年ぶりに理代子と会っても、こう太のこともパティのこともすぐに思い出せなかった。
代わりに書道と水墨画に打ち込んだ。
作品が評価されて、講演依頼やコラム依頼なんかが増えて、パトロンがついて、マネージャーがやってきて、アシスタントが手伝ってくれて、作品作りに打ち込むためにアトリエを貰ったりして。
気づいたら十年がたっていた。
十年ぶりに、その辛い事実の蓋を開けた。
そこにはやっぱりパティがいないんだけど、代わりに大きく育ったこう太がいた。
パティそっくりの金色の髪と青い瞳、白い肌に可愛らしい顔。
俺に似てしまったふわついた髪質。
顔はパティそっくりなのに、しっかりもので照れ屋で、本当は甘えたがりで泣き虫で。俺に向けてくれる笑顔がたまらなく愛おしい。
息子としての範疇を超えて、彼を好きになってしまい、日々葛藤しているんだが。
最近、こう太の中にパティを見つけてしまう。
それにまた葛藤してしまう。
俺が好きなのはこう太なんだ。パティの代わりに好きになったんじゃないんだ。
だけど、パティを忘れられないでいる自分も確かにいて。
自分のダメさ加減に反吐がでそうだった。
*
「聞ぃーてんのか石川ぁぁぁぁぁ!?」
「いや、全然」
保村は盛大に舌打ちをした。
久しぶりの三人での飲み会は三連休だというのに、珍しく土曜になった。
三連休初日なんだから、どっかいかねぇの?と尋ねたら二人に声を揃えて「暇なお前と一緒にすんな」と睨まれた。
いや、暇じゃねぇよ、こう太の誕生日強化月間中だし。明日も出かけるし。こう太と遊びにだけど。
「保村、今月のコイツにまともな対応を求めんな。ラリってんだから」
「ごめんなさいー。お豆腐メンタルでラリラリしてますー」
「いや、そこ否定しろよ。嘘でも立ち直りましたー!って」
「あー、無理」
だって、未だにパティのこと好きで引きずってるから。
そう口には出さないけど速攻で否定すると、大ジョッキを一気に飲み干してもう何杯目かわからないおかわりのために聖斗を呼んだ。
あいつも土曜だというのにバイトで偉いな。
「聖斗、ビール生。ピッチャーで」
「あ、聖斗。あと焼き鳥三種盛一つとチャーハンとつけ麺な」
「聖斗灰皿変えて」
「お前ら、下の名前で呼ぶな!!」
聖斗は怒りながらも注文を聞くと奥に戻っていく。空の灰皿をブーメランのように投げてこないかなとか考えていると、華田に飲みすぎだと窘められた。
保村は相変わらず暴食で、自分なんかは灰皿一杯になるくらいタバコ吸ってんのに。
「フヒヒ、なんかいくらでも飲めそうな気がすんだよな」
「お前いい加減にしとけよ。明日出かけんだってさっき自分で言ってたじゃねぇか。この間も調子乗って酒飲んで階段からコケたんだろ?」
「へいへい」
保村にもそう言われたので、さすがにちょっと抑えなきゃなんねぇなと思い始める。
じゃ、最後にということでピッチャーを抱えると一気に飲み干した。
「バっ…!お前何やってんだよ!このタコ!」
「げぇぇ。あー、飲んだ飲んだ」
「コラ!ハゲ!ここで寝んな!!」
畳の上にゴロリと横になって目を閉じる。
二人に頭を叩かれたり蹴りを入れられるがそんなの屁でもない。
あぁ、でも毎年精神的に落ち込む俺を見かねて、飲みに誘ってくれたのかな。
パティが死んで以来、何だかんだと二人には世話になって頭があがらない。
酔いがゆっくりと頭に回っていき、夢でいいからパティが出てこねぇかな、さよなら言えるのにと思いながら俺は意識を飛ばした。
*
そろそろお風呂入ろうかなと考えていたら、お父さんが帰ってきた。
と思ったら、真っ赤な顔で保村さんと垓くんのお父さんに抱えられながら帰ってきた。
「オラ、クソ親父家着いたぞ」
「うぇ~い!」
「こう太、このハゲどこに寝かせたらいい?」
「すみませんすみません、本当にすみません助かります…」
一瞬頭が固まってしまったんだけど、すぐさま二人に家の中に入ってもらって、お父さんを布団の上まで運んでもらう。
お父さんの部屋が玄関から近くで本当に良かった。
布団に置いた瞬間、お父さんに蹴りとかいれている二人にボクはひたすら頭を下げてお礼を言った。
「あとで、あとでよく言い聞かせます」
「良いって良いって。九月は毎年こんな調子だからな」
「あぁ、自分の限界も忘れて酒に逃げやがる。コイツ家だとどんな感じだ?」
よっぽどお父さんが重かったみたいで、垓くんのお父さんは肩をぐるぐる回していた。
その様子に申し訳ないなぁと思いながら、最近の様子を答えた。
気づくと落ち込んでいたり、寂しそうな顔をしています、と答えたら二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「こう太が来たから少しはマシになったと思ったんだけどな。愛が深すぎるってのも時に考えものだな」
「うわ、保村うぜぇ」
「あ?何か文句あんのか?」
垓くんのお父さんの言葉を聞いて、保村さんの目が三角に釣り上がる。
何やら不穏な空気になりそうだったので、慌てて止めに入った。
「ま、なんかあったら俺達に言えよ。おやすみ」
保村さんはボクの頭を撫でてくれて、垓くんのお父さんはお父さんのお腹を踏みつけると帰っていった。
それを見送ってからお父さんの部屋に戻ると、お父さんが布団からはみ出していた。
「あぁ、もうまた…」
文句を言いながらお父さんを布団の上に寝かせようと悪戦苦闘する。
なんとか布団の上に寝かせると、額の汗を拭う。
汗をかいてしまったからエアコンの電源を入れると、涼しい風が吹いてきて気持ちいい。
お父さんの方を見て見ると、お父さんは未だにニヤニヤして何かつぶやいている。
酔っ払い、と真っ赤な頭をぺしっと叩いてからタオルケットお腹にかけてあげなきゃいけないと思い立ち、立ち上がろうとした。
だけど、ボクの腕をお父さんが強く握った。
「なに?どうした…」
ボクが最後まで尋ねる前に腕を引っ張られて、お父さんの胸の中に抱き寄せられた。
突然のことに頭がついていけてなくて、固まっていると、ぐるんと体制を変えられた。
布団に寝かされたボクを、四つん這いになってお父さんがニコニコ見つめていた。
「パティ…」
「パティ?」
パティってお母さんの愛称だ。
お父さんの目がいつもと違って何だか熱っぽい。ボクを見る目が普段ののんびりした感じとは全然違うので、正直怯んでしまった。
また、お母さんの夢を見ているのかな。だとしたら、寝ぼけてるのかな?
お父さんの右手が急に髪の毛を触るので思わずビクリと体がはねる。
そうしてボクの髪の毛に顔をうずめるように寄せてきたかと思ったら左のほっぺたにキスされた。
お酒臭い息と唇が熱くて逃げようと顔を逸らすも、右手ががっしりと僕の頭を離さないから難しかった。
「父さん、酔い過ぎ!!ちょ、離しなさい!!」
「パティ…」
「もう、ボクはお母さんじゃないよ!いい加減にしろこのタコオヤジ!」
「I love you」
それか何時もの質の悪い酔っ払いだと思った。
だけど、優しそうな声のまま英語を話したかと思ったら、父さんが口にキスをしてきた。
それからいきなりベロを差し込んできて、ボクのベロを舐めたり吸ったりし始めた。
いきなりのことで呼吸ができないし、どっちのかわからないよだれで口の周りがベタベタになる。
父さんのお腹を蹴ったりして暴れるけど、父さんはびくともしない。
「パティ、パット…」
「父さんやめ…お願いだからやめてよ!」
「愛してるよ」
両手で頬を覆われて、またキスをされる。
声も仕草もすごく優しいはずなのに、ボクはいつもと違うお父さんが怖くて仕方がなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
62 / 203