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お父さんにはボクの本当の気持ちは伝わっていなかった。
でも、最後まで言わなかったからしょうがないよね。言おうと思ったら、お父さんいなくなっちゃったし。
次こそちゃんと言おうと思うんだけど。
『俺、もっと良い父親になる』
さっき聞いた言葉が頭の中をぐるぐる回る。
このままじゃ、何回言っても伝わらない。好き、だけじゃお父さんには伝わらない。
そして、どんなに言葉を足してもボクのことは息子としてしか見てもらえない。
もうそれが本当にイヤなんだけど。
考えるのも疲れてしまって。
ボクはようやく、決意を固めた。
久しぶりに食べたご飯はすごく美味しかった。
相変わらずお腹が空いたという気持ちはわかないんだけど、薬を飲むために半分位頑張って食べた。七瀬さんが作ってくれたみたいだから、あとでお礼を言いにいかないといけないなぁ。
薬も飲んでまた布団に潜り込む。
お父さんはずっとそばにいてくれて、頭を撫でたりしてくれた。
ちょっとまだ目が赤いけど、さっきまでの暗い顔が嘘みたいに優しい顔になっていた。
その顔がすごく安心できる。
「薬飲んだけど、明日は休ませるからな」
「うん」
「そしたら、もう寝ちまえ。おやすみ」
そう言って離れようとするからボクはお父さんの袖を掴んで軽く引っ張った。
「…一緒に寝て」
ボクのお願いに最初ビックリした顔をしていたけど、嬉しそうにヘラっと笑った。
お父さんは自分の布団を持ってこようと思っていたみたいだけど、ボクがベットに一緒に寝てとお願いしたらお布団に入ってくれた。
どっちにしろ、あの夜から布団の洗濯なんてしていないから酷いことになっていると思うんだけど。
お父さんが近くにきて、あの夜のことを思い出してちょっとだけ心臓がドキドキする。
怖くないと言ったら嘘なんだけど、同じくらい近くにいてほしい。
だからお父さんの胸に顔をうずめるように体を近づける。
ボクの頭を撫でるお父さんの手も、何時もよりもちょっとだけ遠慮がちだ。
ボクがイヤがると思っているのかな。そんなことないのに。
もっといっぱい撫でて欲しい。ギュって抱っこして欲しい。
我慢できなくなって、ボクはゆっくりと上半身を起こした。
「…お父さん」
「んー?」
「…あのね、決めたんだ」
ボクの言葉に眠そうにしていたお父さんも体を起こしてくれた。
何度も頭の中で繰り返した言葉をもう一度繰り返して、ゆっくりとお父さんに顔を向ける。
「ボクがお母さんの代わりになってあげる」
今度はちゃんと笑えたと思う。
それなのに、ボクを見たお父さんの顔は一生忘れられないと思う。
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