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「九月二十三日って秋分の日で休みだから、遊びにおいでよ。…急なんだけど、暇だったりしないかな?」
ボクは一秒だって考えないで「行く」と答えた。垓くんからの遊びに来いなんて言われたら断るはずないのに。
ルンルン気分のボクをお父さんが面白くなさそうに見ているけど気にしない。
だって、その日はどっちにしろお父さんも出かけるみたいだしね。
秋分の日はいい天気で、まだちょっと暑いけど気にならない。お出かけしやすい日で良かったなぁ、と気分がウキウキしてくる。
垓くん家のお土産を持って、玄関で靴を履いているとお父さんがやってきた。
「華田や永子ちゃんによろしくな」
「うん。お父さんも気をつけてね」
「おう」
そう言ってから家を出ようとしたら、お父さんに肩を掴まれた。なんだろうと思って顔を上げたら、お父さんの顔が近づいてきた。
このままじゃチューされると思って、慌てて顔を押しのけた。
「な?何!?」
「え?しないの?いってきますのちゅー」
「す!するもんか!!」
ボクがそう大声を出すと、お父さんは不満そうに口を尖らせた。
そしてあからさまに不機嫌そうな声で「垓にはよろしく言うなよ」と呟く。
多分垓くんに嫉妬してるんだ。ボクが垓くん家に遊びに行くの楽しみにしているから。
ボクもあんまり人のこと言えないけど、嫉妬しなくても良いのに。す…好きなのはお父さんだけなのになぁ。
「隙あり」
なんてこと考えていたらお父さんにほっぺたにキスされた。
いきなりのことに呆然としていると、ニヤニヤしながらほっぺたをチュッチュチュッチュされる。あぁ、もうこのオヤジは…。
「調子に乗るな!」と頭を引っぱたいてからボクは家を出た。
*
垓くんの家の花壇には白いコスモスがたくさん咲いていて、しばらく見ていたいと思うくらいだ。
垓くんのお母さんが造っているというお庭はいつも見ているだけで楽しい。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
家の中から垓くんが出てきて、家に通してくれる。ただ、いつもと違うなぁと思ったのが。
「ごめん。今、お母さんが料理焦がしちゃってリビングが大変なことになってるから、このまま僕の部屋に入って」
と言われて垓くんの部屋に入れてもらったことだ。いつもなら、リビングに行って垓くんのお母さんや妹の璃子ちゃんに挨拶するのに(大体そこで髪の毛を触られる)
まぁ、帰るときに挨拶すればいいかなとか考えて部屋に入った。
あれ?と思ったのが。
「こう太くん、おはよう」
読んでいた図鑑から顔をあげて、ちょっと泣きそうな顔で笑ってくれたのは同じクラスの春幸(はるゆき)くんだ。春ちゃん、とみんなから呼ばれている。
春幸くんは背がクラスで一番小さくて、ボクよりも泣き虫だけど、誰よりも優しいと思う。同じ班だし、多分垓くんの次くらい仲が良い。だけど、今日一緒に遊ぶと思わなかったから驚いた。
「おはよう。春ちゃんも来てたんだ」
「うん。ちょっと早く来すぎちゃったかな…」
そんな話をしていたら、ドアが大きな音をたてて開いたからボク達は思わず振り返った。
春幸くんはびっくりして涙目になっていた。
「おぉし!おれ先ついたー!!」
「ばっか!オレのが一番だし!!」
「どっちでも良いから早くお部屋入ってよー。暑いよー」
大騒ぎして入ってきたのは、やっぱり同じクラスの翔平くんと、紫音(しおん)くんと花音(かのん)ちゃんだ。
翔平くんは春幸くんと反対に、クラスで一番背が大きい。声も大きいし多分、一番元気でうるさい。
紫音くんと花音ちゃんは双子の兄妹なんだけど、顔は結構似ているのに性格は正反対だ。
結構短気な紫音くんとは違って、妹の花音ちゃんはのんびり屋さんだ。
花音ちゃんはボクと一緒の委員会に入ってる。
こんなに大人数で遊ぶとは思っていなかったからビックリしていると、コップとか持ってきた垓くんが翔平くん達に手伝えとお尻を蹴った。
だからボクも慌てて立ち上がろうとしたら、ニコニコした春幸くんと花音ちゃんに両側から手を取られて座らされた。
「石川くんは良いよ。お兄ちゃん達にやらせるから座って」
「でも…」
「こう太くん座ってー」
逆に居心地が悪くてそわそわしていると、テーブルの上にお菓子とかジュースとかが並べられていく。
最後に、テレビとゲーム機を運んでからみんなが席についた。
「おし、じゃ垓。どうぞ」
「え?僕がいうの?」
「お前が言いだしっぺだし」
翔平くんと紫音くんにそう言われて、垓くんがちょっと恥ずかしそうにボクの方を見た。
何度も目線をキョロキョロしてるから、珍しいなぁとか思っていたら。
「こう太、誕生日おめでとう」
「へ」
垓くんの後に続いて、みんながおめでとうと言ってくれた。
ビックリしすぎて固まっていると、春幸くんが慌てて「あ、お誕生日今日じゃないのはしっているからね」と言ってくれた。
「二十七日だと学校だから一日中遊べないからね。今日だったら、いっぱい遊べるよ」
「あ、おれゲームやりたい!!」
「えー、まずは菓子くいたいー!!」
「まずはプレゼントだと思うの」
固まり続けるボクの前に、みんながプレゼントを置いていってくれた。
みんなボクが甘いもの好きなことを知っているからプレゼントはお菓子なんだけど、垓くんだけ動物の形をした消しゴムをくれた。ワニとか豚とか、カエルとかジンベエザメとかかわいい系じゃなくて、ちょっと変わった感じの。
「こう太、こういうの好きでしょ?」というから大きく頷いたら、やっぱり笑いながら「こういう変なの好きだよね」と言われた。
嬉しくて何度もお礼を言っていると、部屋のドアが開いて。
「こうたくーん♪」
垓くんの妹の璃子ちゃんがニコニコしながらボクに抱きついてきた。
久しぶりだね、なんて言っていたら髪の毛を触りたそうにジーッと見ていたので触らせてあげる。
「あのね、みんなでつくったんだよ。こうたくんへのプレゼント」
「作った?」
「じゃじゃーん♪」
垓くんのお母さんが持ってきてくれたのは大きなケーキだった。
中央にはチョコレートのプレートに「おたんじょうびおめでとう」と書かれていた。
そこではじめて、リビングに通してくれなかったのはケーキを作っているのをバレないようにするためだったのかと気づく。
みんなでスゴイと騒いでいると、ふ、とドアの向こうでマリアちゃんが手を振ってくれているのに気づいた。
そこには垓くんのお兄さんの彼女さんとかが一緒にいて、みんな笑ってボクに手を振ってくれていた。
手を振り返す前に、視界がなんだかボヤけて来たので指先でこすった。
*
久しぶりに出張書道教室なんか行ったけど、わざわざ三連休に開催するなんてもの好きだよなぁ。でも、まぁ女性ファン増えたからいいや。みんな六十オーバーだけど。
「ただいまー」
家に入ると、ものすごく静かだった。まだ遊びに行っているのかな、なんて考えながらリビングに行くと、薄暗い部屋の中でこう太が体育座りしていた。
それが泣いているようだったので、慌てて近づくとこう太が俺の胸の中に飛び込んできた。
垓の家で何かあったのか?垓に何かされたとか?と不安になる。
怖がられないように優しい感じで「どうしたんだよ?」って聞いても、こう太は泣きじゃくるばかりだ。
「…こ、これでも我慢してたんだけどね…」
「うん。何だよ、苛められたとか?」
こう太は首を振った。
相変わらず嗚咽もらしながら泣いているんだけど、つっかえつっかえ話してくれた。
「あのね、みんなにね、お誕生日の、お祝いして、もらったの」
こう太の言葉に一瞬驚くが、嬉しさが俺の胸にもじわじわ広がっていく。
友達にお祝いして貰ったのが嬉しくて泣いていたのか。あぁ、今日遊びに誘ってもらったのは誕生日のお祝いだったのか、って。
そういえば華田にチラッと言った気がするな。あぁ、お礼言わないとなぁ。
こう太の涙が嬉し涙なことにホッと胸をなでおろしてから、俺はこう太の背中に手を回すと、もう片方の手で頭を撫でてやった。
「そっか。そりゃ嬉しいな」
「うん…。あのね、垓くんにブタさんの消しゴムもらってね、春ちゃんにはチョコレートもらってね、翔くんからは麩菓子もらってね、紫音くんと花音ちゃんからは、二人で作ったクッキーもらってね…」
こう太の口から垓以外の名前が出たことに俺の方が感激してしまう。この子に友達がいっぱいできたことが何よりも嬉しい。
もう、この子は外人と呼ばれていたこう太じゃない。遠巻きにされることなく受け入れられている。
ただ、なんていうか甘いものばかり貰っていることがちょっとだけ微妙な気持ちになる。いや、小学生だし小遣いなんてそうそうないからそんなもんだよな。むしろ、プレゼント貰ったことに感謝しねぇと。
なんて考えていると。
「璃子ちゃんやマリアちゃん達がね、おっきなケーキ作ってくれたんだ…」
…うん、こう太が落ち着いたら甘いものの一日の摂取量について話し合おう。
「嬉しい…みんなにね、おめでとうって言ってもらってね…こんなの初めてだ…」
「あぁ、そうだな。友達いっぱいできて良かったな」
両手でこう太の頬を包み込んで顔を覗くと、こう太は友達という単語にキョトンとした顔をしていたが、そのうち恥ずかしそうに頬を染めた。
それから、とろけるような笑顔で大きく頷いた。
その笑顔が本当に嬉しそうで、幸せそうで。俺の方まで幸せな気分になれた。
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