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「どうしたんですか、ため息ついて?」
俺はメモ取る手を止めて顔をあげると、七瀬くんが不思議そうにこっちをみていた。
真面目に聞いているつもりだったんだけど、知らないうちに心が飛んでいたようで俺は素直に謝った。
「ごめんごめん。ちゃんと聞いてなくて、何か言ったかな?」
「いえ…。何かお悩み事ですか?」
「いやぁ…こないだこう太に意地悪しすぎて泣かせちゃったこと思い出してただけなんだ」
「もう、何してるんですか全く。あんまり酷いことしちゃ駄目ですからね」
七瀬くんに珍しく窘められてしまったので面目ないと頭を下げると、かけていた眼鏡がずれたので間宮くんみたいにくいっと直した。
つい先日、こう太をだまくらかして事に及んだのはいいものの、調子にのってこう太を顔に跨らせて後孔を舐めた途端、こう太の目からボロボロと涙が溢れてきた。
「まずい!」と思ったのも束の間。
「う…ううう…ふ…え~ん…」
シャクリを上げて小さい子供が泣きじゃくるようにこう太が泣き出してしまった。
その泣き方は俺に襲われた夜を思い出して恐怖に泣いていたというよりかは、突然のことに驚きすぎて泣き出してしまったように見えた。
だけど、どっちにしろこう太を泣かせてしまったのは事実なわけで。
俺は必死こいてこう太をなだめすかし、泣き止んでくれと機嫌をとった。
とりあえず落ち着いてくれて、俺に怖がっている様子も怒っている様子もなかったので、事の発端である「運動会のことを教えてくれなかった件」についてはうやむやとなった。
「運動会さ、こう太どうだった?」
「こう太くん凄かったですよ。こう太くん足が早くて、徒競走一位だし、リレーの選手なんかにも選ばれていましたよ。ただ、騎馬戦は一番最初に落とされちゃったんですよ」
「あぁ、だから終わってからも運動会のこと全然教えてくれなかったんだな…」
「あの、本当すみません。運動会のお弁当のこと、ちゃんと僕が石川さんに確認とればビデオとか録画ちゃんとできたのに…」
「いや、七瀬くんのせいじゃないから」
俺が慌ててそういうと、七瀬くんは困ったような笑顔を浮かべてくれた。
七瀬くんは俺が料理の素人以下の状態でも、怒ったりもせずに丁寧に料理を教えてくれる。
おかげで米も洗えなかった俺が、おにぎりを握れるくらいまでになった。(俺が作ると爆弾おにぎりくらいの大きさになるので、作る度に七瀬くんに爆笑される)
まぁ、当日はおにぎりは朝飯として作るから弁当作りに関係ないんだけど。
そうそう、間宮くんが栄養価とか計算してくれた弁当のオカズなんかも、色々と提案してくれてこう太が好きそうな感じにアレンジしてくれる。
ほんと、こういう時七瀬くんは頼りになる。
「こうちゃん、絶対喜んでくれますよ。僕、会うたびに言いたくてウズウズしてます」
「そうだといいけどな。それにしても、七瀬くんには親子揃って世話になりっぱなしだよ。ホント、ありがとうな」
「いえいえ、こちらこそ」
俺が大きくてを広げて七瀬くんにハグをすると、七瀬くんも俺の背中に手を回してハグし返してくれた。
ふんわりとフローラルみたいな香りが漂って「いい匂いだなぁ」とか思っていたら。
「こら!!このハゲ!!兄ちゃんから離れろ!!そんでそのまま地上から滅しろ!!」
ひたすら卵の殻を剥がす聖斗が叫んだ。安いからと言って大量に買ってきた卵を大量にゆで卵にした聖斗は、七瀬くんにしこたま怒られて殻むきの刑に処せられていた。
「ホラ、俺たち仲良しだし」
「手が止まっているよ。ほらほら、まだ何個残っていると思っているの?」
「くそう!!くそう!!」
聖斗は悔しそうに血の涙を流しながら卵の殻を一個一個剥いていった。
*
「それでね、春ちゃんのお父さんは小説家らしいから、将来作家さんになりたいんだって」
「春ちゃんって、あのいっつも泣いてる一番小さい子?」
「そう…いっつも泣いているわけじゃないからね」
七瀬さんからもらった大量のゆで卵を潰してマヨネーズで混ぜながら、お父さんと今日学校であったことをキッチンで話す。
その合間に七瀬さんに教わった肉じゃがの様子を見るんだけど、お父さんが何故か後ろから着いてくる。
最近、こんな感じで一緒にキッチンにいることが多い。ボクが手伝わせないから本当に見ているだけなんだけど。
セクハラしてこないから別にそれは構わないんだけど、やっぱりちょっと不思議だ。
「最近、お父さんキッチン来ること多いよね?何で?」
「んー?キッチン来るっていうか、こう太と離れたくねぇんだよ。最近、ちょっと仕事で帰り遅かったりするじゃん?だから休みの日なんかはずっと近くにいてこう太の顔見てたいんだよ」
「…そう」
恥ずかしくてそっぽを向くと、視界の端っこにニヤニヤ笑うお父さんが見える。
何でか知らないけど、本を読む時なんかに使うメガネをかけているので、いつもと違って見えて余計ドキドキしてしまう。インテリヤクザっぽいけど…カッコイイんだよなぁ。
「肉じゃがすげーいい匂い。できたかな?」
お父さんの声に促されて蓋を開けて、一個じゃがいもをお箸で取り出してみた。味染みてるかわからないので、あーんしながらお父さんに味見してもらう。
「美味いよ」って言ってくれたから、自分でも一個食べてみるんだけど。…なんか微妙だ。
「七ちゃん家で食べた時の方が美味しい気がする…」
「えー、美味いって」
「そうかなぁ…」
「こう太が作ったものは何でも美味いよ」
さらっとそんなこと言うものだからボクは恥ずかしくなって何も言えなくなった。
*
我ながらサラっと嘘をつけるものである。
あ、こう太の作ったもの云々じゃなくて、キッチンに頻繁に来る理由の方だ。
キッチンにいるのは、こう太の料理してるの参考になんねぇかな、と思って。わりとあの子は手際がいいっていうのと、真剣な横顔が滅茶苦茶可愛いっていうのが発見だ。すげー可愛い。
そんな感じで仕事の合間をぬっては料理を教わった。休みの日は森崎くんや間宮くんなんかにも協力してもらってあれこれ頑張った。
そして、明日は社会科見学という前日。
こう太が寝てからこっそり、七瀬くんの家に向かう。七瀬くんがデザートにってカップケーキを作ってくれたのだ。
カップケーキと、七瀬くんに預けられていた弁当箱を回収する。
「なんかあっという間でしたね。石川さん、寝坊しちゃ駄目ですよ?」
「大丈夫だ。むしろ、寝ない」
「き、気合入ってますね。僕の方も6時くらいには起きてますので、何か困ったことがあったら連絡ください」
「本当にありがとうな」
何度もお礼を言ってから家に帰る。
それからこっそりとこう太の部屋に入ると、目覚まし時計をいじった。
こう太は明日の弁当を七瀬くんにお願いするつもりだったので、弁当箱を七瀬くんに預けていた。明日の朝、七瀬くんの家に寄って弁当を受け取ってから学校に行くつもりだったらしい。
その為に少し早めに設定された時刻を、俺は遅めに設定し直す。
「明日、楽しみにしてろよ」
安らかに眠っているこう太の頬にキスしてから、俺は決戦の地に向かった。
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