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「ちょっと先のことになるのだが、お前たち四人に聞いて欲しいことがある」
宴もたけなわの頃。
先生の言葉に、俺と徳居達の箸を持つ手が止まった。
「今、私が大学で教えているのは皆知っているだろう。定年なんてあって無いようなものなのだが、今年で私も70の耄碌ジジイだ」
自嘲気味に笑う先生の言葉に、孫崎がすぐさま「そんなことありませんわ!」とわーわー騒ぐ。
うるせぇよと徳居に窘められるとブスッとした顔でビールを飲み干す。
「もうそろそろ引退して、晴耕雨読の生活をしたいと思ってな。そこでだ、来年以降の大学での講師職を誰かに引き継いでもらいたいのだよ」
サッと俺以外の三人の顔色が変わった。三人はぎらつく目で先生の次の言葉を待つ。
俺はというと、何かこれ聞いたことあんなぁと思ったら、去年の秋くらいにこう太とそんな話をしていたことを思い出していた。
後継者というのとはちょっと違うかもしれないけれど、先生の後任という位置づけはこれからキャリアアップしていく上では大きな後ろ盾となる。
「先生の後任で講師をしています」みたいに挨拶しちゃえば、多分書道界とかだったら一目おかれる。
それくらい先生は色々と地位を築いており、その先生から信頼されているみたいな感じで評価が上がる。下手すりゃ肩書きが変わってくる。
「私の一任では決められないから、秋くらいに大学関係者と私で面談をした上で引き継いでもらおうと思っている。これは強制だから、必ず行う。いいね?」
よっぽど嫌そうな顔をしていたのだろう。先生は俺を見たままニッコリと笑みをむける。
地位や名声が欲しいかと聞かれたら、いらないわけじゃないし、金も好きだけど。
目の色変えている三人と争ってまで欲しいものじゃない。
だけど、そんなわがまま先生には通じないんだろうなぁって思うと俺は心の中でため息をついた。
*
『お父さん、まだ飲んでるの…?』
「飲んではないけど、まだ居酒屋だな」
『あ、そうだよね。ごめんね、お父さん頑張って禁酒してくれてるのに』
「へへ、いいって」
『…ボク、早く大人になるから待っててね。そしたら一緒にお酒飲もうね』
「おう、楽しみにしてるよ。そいでさ、もう昼間のですっげぇ疲れたからさ、もうしばらく華田と保村とくっちゃべってから帰るわ」
『まだ帰ってこないの…?』
「おう」
『…そっか』
「元気ねぇなぁ。父ちゃんいなくて寂しいとか?」
『…さびしい』
「ん?」
『…さびしいから泣いちゃうよ?』
「ぶっ!!」「フゴ!!」
『?何今の?』
「あー、気にすんな。酒持ってきた聖斗がこけただけだから。じゃあ、遅くならないうちに帰るけど、先寝ててもいいからな」
『んーん。お父さんにおかえり言いたいから、待ってるね。気をつけて帰ってきてね』
俺は電話を切ると、途中吹き出して肩を震わせている華田と、やっぱり吹き出してから腹を抱えて大笑いしている保村にドヤ顔した。
新年会の後に華田達との飲みをいれたのは、つまんない空気のまま帰りたくなかったからだ。
ついでに二人にこう太のデレ期について惚気けていたんだけど、今ひとつ二人は信じなかった。
まぁ礼儀正しく真面目なこう太が、俺に甘えてデレデレって言っても信じらんないよな。俺がこう太にデレデレならわかるけど。
しかも、デレ期のきっかけは焼きそば作ったって言ったら馬鹿にされるし。
お前の妄想だろとか言われていた時、ちょうどこう太から電話がかかってきた。
「やべー、今の何?俺こう太のあんな声聞いたことないんだけど」
「可愛いだろー」
「あぁ、確かにデレデレだったな」
「俺の妄想じゃなかっただろ」
「それはもう」「疑ってすみませんでした」
二人は俺にペコリと頭を下げた。
ちょとだけ気分が良くなったのでドヤ顔しながらスマホをしまう。
二人は普段の真面目な姿のこう太しかしらない。二人にはフランスに行っている間こう太の面倒を見てもらったんだが、その時の様子を聞いても、進んでお手伝いするし挨拶もしっかりするし、片付けもするお利口さんだったと口を揃える。
むしろ、保村のとこのマリアちゃんの方が嬉しくてメロメロだったみたいだ。
だから余計に、俺にだけ見せる甘えた表情や優しい口調がたまらなく愛おしいんだけど。
「いいなぁ、こう太いいなぁ。くれ!」
「やるか」
「あーいいなぁ、さっきのマリアに聞かせてやりてぇ」
「来週の新年会の時まで頑張ってデレ期継続させっから待ってろ」
「頼むよー、デレデレこう太見てーよー」
「まぁ、俺の前でしかデレデレしないんだけどな」
またドヤ顔してそう言うと、保村はえーっと肩を落とした。
保村のとこは高校生ということもあってか、あんまりもう構ってもらえないみたいだ。
八歳の娘のいる華田はまだ可愛い姿が見れるみたいだけど、こう太と同い年の垓が相変わらずドライみたいで「鏡見てるんじゃないかって思う時があんだよ」とため息をついた。
「どーれ、こう太が泣いちゃうから俺帰るわ」
「どうぞどうぞ」
「寝ないで待ってるだろうから早く帰ってやれ」
「おう。また来週、親子で華田ん家お邪魔するわ」
去年もやった新年会の約束をして居酒屋を後にする。
急いで家に帰ると、こう太は本当に寝ないで待っててくれた。
花がパァっと咲くような明るい笑顔を俺に向けてくれて、おかえり、と言って前から抱きついてきた。
昼間の疲れなんかも全部吹っ飛ぶ笑顔に、俺も自然と笑顔になった。
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