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「っつー、ことで例のブツだ喜べ聖斗!!」
「うぉぉぉぉぉ!!マジスゲェェェェェ!!!」
学校帰りでものすごく不機嫌そうだった聖斗の面が一気に吹っ飛び、クリスマスプレゼントをもらった小さい子供みたいに目を輝かせた。
しかし、そんな表情もすぐに消え「バレンタインが楽しみだ」と企むような笑顔になった。
俺の後ろにいる森崎くんが困ったような顔で、「その星型のが入っていないやつで…ハートのが入っている奴だからね」と俺の代わりに説明してくれた。
実は、このチョコの存在は森崎くんだけじゃなくて聖斗にも教えた。
二等分して相手に渡すにはちょっと数が寂しいからって、森崎くんに新たにチョコレートを作って貰いかさ増しした。
それを軽く説明すると、聖斗は森崎くんの方が年上だっていうのに馴れ馴れしく「森崎ご苦労!!よくやった!!」と肩をバンバン叩いていた。
っていうか俺にもそういう対応するあたり、こいつには年上を敬う気持ちというのが無いのか。
「その…チョコありがとうございます。じゃ、お疲れ様です」
アトリエの玄関先で森崎くんは困った顔のまま頭を下げると静かに扉を閉めた。
俺達はそんな彼に手を振って見送る。
彼が去っていってしばらく経った頃、聖斗が口を開いた。
「…で、おっさんの分は?」
「あるに決まってんじゃねぇか」
「ふぅー!!」
俺の言葉に聖斗が意地悪そうに笑うと、バシっと俺の二の腕を叩いた。
機嫌の良いというか、テンションの高い俺は聖斗の肩を軽く叩き返した。
最初、八尾ちゃんに話聞いた時からこんな面白いもんどうにか手に入れられないかとずっと画策していた。
こっそりすり替えて持ってこようかと思ったけど、俺の席と八尾ちゃんの席がちょっと離れていたせいでそれが出来なかった。
絶対できない、って訳じゃなかったけど下手にやって詮索されても困るから、隣に住む大学生と恋人との関係で悩むアシスタントの為にっていう体で八尾ちゃんに頼んでみた。
絶対面白いことになりそうだから、って付け加えて。
結果、快くではあるんだけど、一個条件を出された。
「媚薬入りって知らない状態で食べた時とと、知っている状態で食べた時の違いをレポートして、教えてちょうだい☆」
八尾ちゃんはそう言うと、自称小悪魔風に笑った。鳥肌がたったのは秘密にしておこう。
「じゃあ、オレは兄ちゃんに媚薬入りだって知らせて食わせりゃいいんだな」
「おう。んで、一応森崎くんは、知らせないで食わせるっていう話になったんだけど。多分、教えるだろうな。あの子は隠し事とか苦手なタイプだ」
というか誠実な子だし、間宮くんへの罪悪感ですぐにバラしていまいそうな気がする。
まぁ、そうなったらそうなったでいいさ。八尾ちゃんへはいくらでも誤魔化してやる。
「おっさんはこう太に食わせんの?」
「まさか。バレて口聞いてくれなくなったら泣くぞ俺は」
「へぇ?じゃあどうすんの?」
「俺が食うんだよ」
「ぶっ!!」
聖斗は吹き出すとゲラゲラ笑いだした。
媚薬なんて胡散臭い代物、大事なこう太に食わせるわけねぇだろ。
って言おうかと思ったけど、そんな代物を他人に分け与えている俺が言っちゃいけねぇと思いなおして口を閉じだ。
ちなみに、森崎くんに分け与える前に自分の取り分は確保してある。
アトリエで作ってもらった星型チョコレートも「こう太の分で貰っていいか?」ってことで多めに作ってもらった。
あとは、それっぽい袋に移し替えてバレンタインに一緒に食おうと思っている。
「なんでおっさんが食うんだよ!?」
「どれだけ興奮するかと思ってよ」
「うわ、キモ!!」
キモいとはなんだ、と軽くグーで二の腕のあたりを叩くと、「本当のことじゃんw」と叩き返された。
まぁ、そこから何で殴り合いの喧嘩になったかは知らないけど。
俺達は痛む頬や腕を抑えながら、お互いの健闘を祈りながら家へと帰った。
*
バレンタイン前日、森崎くんが落ち込んだ感じでアトリエにやってきた。
その後ろから当社比三倍くらいに冷たい雰囲気の間宮くんがやってきて、普段以上に抑揚無い口調で「石川先生、おはようございます」と挨拶された。
「私は11時より営業がありますので、このまま失礼します」
「おう。よろしくな…」
彼と出会った時よりも冷たい雰囲気と口調でキビキビお辞儀すると、彼はまたアトリエから出て行った。
車の出て行く音を聞いてから俺は森崎くんに詰め寄った。
「間宮くんどうしたの?」
「昨日、二人共お休みいただいていたじゃないですか。…使っちゃいました」
その言葉だけで、彼が間宮くんにチョコレートを食わせたことがわかった。
彼の落ち込みようから、媚薬入りだということがバレたようだ。それで、間宮くんは不機嫌なのか。
「間宮くんに媚薬入りだってバレたから、彼あんな怒ってるの?」
「いえ…そうじゃないんです」
森崎くん曰く。
「バレンタイン次の日は仕事なんで、渡すのは今日しかないと思ったんですよ。間宮くん…二人っきりの時、俺は銀(ぎん)ちゃんって呼ぶんですけど、銀ちゃん凄い嬉しそうな顔したんですよ。銀ちゃんは甘いものそんなに好きじゃないんですけど『大事に食べます』って袋ギューッとしてくれて。
それ見たら俺もう罪悪感の塊になっちゃって、すぐさま言ったんです。それ、媚薬入りなんだ、って。だから、もし嫌なら捨ててくれって。銀ちゃんは、ビックリした顔のまま固まったんです。俺、嫌われたよなぁと落ち込んでたら…」
『び、媚薬は何度か飲ませられたことがありまして、体質的なのか全く効かないのですが宜しいですか?』
「今度は俺がビックリして固まりましたよ。でもよく考えてみたら、媚薬って結構値段はるものだけど、金持ちだったら気軽に買いそうだし、そんなの飲まされるような社長の元に居たんだよな、って。別に、それで銀ちゃんを嫌ったりはしていませんし、あぁ、そうなのくらいしか思いませんでした。
んで、固まっている俺をよそに、間宮くんチョコレート食おうとしてるんで、慌てて止めました。『得体の知れない変な物だから、食べちゃダメ』って。不思議そうに何故ですかって聞き返されたんで俺、正直に話しました。
『君に好きって言って欲しいがために、こんな妙なもん用意したんだ。何回も君に好きって言ってもらっているのに、俺また悩んだんだ。君のこと好きなのに、俺みたいな平凡な男が隣に居ていいのかな?って。だから、何ていうか媚薬の力を借りてメロメロにさせたら自信がつくんじゃないか、ってことで用意したんだけど。…こんな変なもの、君に食べさせられないよ。ゴメンね』
あぁ、呆れられただろうなと思って渡した袋を彼の手から取ろうとしたら、返してくれないんですよ。え?と思ったら…」
『せっかく頂いたのですから、全部食べます。こっちの星型は手作りですか?ハートのよりも可愛いらしいですね』
「俺、パニックになりましたよ。アタフタしてたら、銀ちゃん一個星のチョコを口に入れたんです。で、美味しいって言ってくれたんです」
『いっぱい悩んでください。その度に、私は貴方のことが一番好きだと言い続けます』
「もう、すげー優しく笑ってくれて俺もうドキドキですよ。先生知らないでしょうけど、銀ちゃんの素顔メチャクチャ綺麗なんですから。ホント、人形よりも整って、また瞳が綺麗な色なんですよ。で、俺がドキドキしてたら銀ちゃんホッペピンクに染めて」
『建造さんが悩んでくれないと、私は貴方に好きって言ってもらえませんから』
「それ聞いた瞬間、俺押し倒しましたもん。「好き」「大好き」ってバカの一つ覚えか、ってくらい言い続けましたよ。自分のこと棚に上げて、好きなんて殆ど言わなくて申し訳ないのと、なんていうか、銀ちゃんみたいな美人にこんなこと言わせちゃうの、俺だけかと思ったら、なんか悩んでる俺バカじゃね?と思って。…でその後、ヤっちゃいました」
そこまで聞いて、ようやくオチかと俺は長いため息をついた。
もう最後の方の森崎くんは、デレデレと惚気けているだけだった。
聞いてもいないベットでの睦言なんかを垂れ流している。
「…で、何で今日間宮くんは機嫌悪いの?」
「あ、媚薬入りチョコの出処は先生って言うのと、面白がって俺にくれたんだって言ったら恥ずかしいのか真っ赤になっちゃって。『そんなこと先生に言ったんですか!?』って。多分、恥ずかしくてあんな態度になっちゃったと思うんですよ。あぁ、ホント銀ちゃん可愛いなぁ」
「森崎くんは何でそんな落ち込んでるの?」
「媚薬って効かないもんですね。お互いに口移しで食ってみたんですけど、結局何もなくて…」
「食ったのかよ!間宮くんにも食わせたのかよ!」
「得たいのしれないものだから食わせられない」とか言っていたくせに。
森崎くんは俺のツッコミなんか聞いていないようで、「早く銀ちゃん戻ってこないかな~♪」と、窓の外をワクワクした様子で見ていた。
まぁ、なんだ。悩みが消えて良かった、ということにするか。
その後、二人は俺の前だと一応仕事モードではあるんだけど。
一歩、俺が視界にいなくなった途端「銀ちゃん」「建造さん」(建造は森崎くんの下の名前)とお互いに呼び合ってはイチャコラしている。
とりあえず、二人が隙だらけになっている所に「銀ちゃん!建ちゃんお茶ちょーだい!!」とか飛び跳ねながら入っていって二人が絶叫するのを見るのが、最近のアトリエでの楽しみだ。
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