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はじまり
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side ケンジ
それまで僕はあんなに美しく醜いひとを見たことがなかった。彼の背中と哀愁は僕の瞳を捕まえる。しかし彼は僕の瞳を捕まえていることなど気付かぬようで、ただただ開かれた窓の外を見、匂い立つ何かを風に乗せていた。
教師は教壇の上をガツガツ言わせながら歩き、ものを説明している。そして周囲もそれに合わせてしゃりしゃりとシャーペンを走らせていた。その中で、教室の対角線上に座る僕らだけが浮いている。
彼の名は「沖野 大雅」。窓の外を見る沖野は消えてなくなりそうだった。
「……ジ、…………ンジ、ケンジ!!」
あまりにも大きい声量に驚いて音のした方を向くとタクヤが心配そうな表情でこちらを見ている。気付けば退屈な英語の授業は終わり、昼休みになっていた。
「ケンジ、大丈夫? ボーッとして……また家のこと?」
小中と同じ学校どころかずっと同じクラスで、高一になってもそれが崩れることはなかったこの親友に僕は隠し事ができない。でも、昔から隠しごとに気付いてもほっといてくれるから気が楽だったし、だからこそ唯一僕が頼れる存在だった。
「家のことじゃねえし大丈夫」
大丈夫、と答えたものの胸の奥に棘を感じる。耐えられるくらいのめまいもした。そこで僕は自分の心拍数が上がっているのだとようやく気が付く。
「んー……でもなんか悩んでるなら言って?」
「ん、ありがと」
「よし! 飯食お、飯!」
小さくため息をもらし、弁当を食べ始めた。
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