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ふたりのカタチ #9
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電話は一回切れてしまって。
どうしようか考えたけど、修君の心配そうな顔が浮かんで、急いでかけ直す。
案の定、コール1回ですぐに出て、掛け直して正解、と心の中でつぶやいた。
「……修君?」
「智?ごめんな。仕事中に。」
「ううん。今、ちょっと抜けてきた。どうしたの?」
「ん、いや、仕事のめどがついたから、智はどうかなと思って……。」
「おいらはもうちょっとかかりそう。」
「そうか……。どう?イベント会社の人。」
おいらはなんて言おうか悩む。
田村さんも内緒にした方がいいって言ってたし……。
「何?変なやつ?それとも……知ってる人?」
「え……。」
ドキッとする。
修君、こういうとこ、鋭い!
「……そうなんだね。知ってる人だったの?誰?」
なんか、言葉が出ない代わりに、手にじわっと汗がにじんでくる。
「誰って……。」
やっと出た言葉も続かない。
こんな調子じゃ……きっと修君に嘘はつけない。
どうしよう~?
キョロキョロ辺りを見回しても、田村さんが来てくれる様子もないし……。
「智……正直に言ってごらん。」
修君の声が低くなる。
「…………。」
「智?」
修君の声がさらに鋭くなる。
おいらは溜め息をついて……。
観念するしかなかった。
「……修君、覚えてる?マンションの隣に住んでたご夫婦。」
「……覚えてるよ。ちょっとイケメンだからって、
結婚してるくせに智に色目使ってた……。まさか……。」
色目なんか使ってなかったじゃん。
こんな修君に、本当に言っても大丈夫!?
「…………。」
「智?そいつなの?」
おいらは小さな声で言う。
「……そう、その旦那さん。」
「……マジ?」
「うん。……おいらもびっくりした。」
「あいつか……。智、大丈夫?誘われたりしてない?
ちゃんと田村さんも一緒にいる?」
「修君……大丈夫だから。おいら達、仕事で一緒にいるんだよ。
田村さんもちゃんといるから……。」
「いや、いても危ない。ああいうのは絶対智に声かける。
で、プライベートで連絡してきたりする!智、今すぐ帰りなさい!」
修君、それじゃ心配性のお父さんだよ!!
「そんなことできるわけないでしょ。大丈夫。ちゃんと帰る時連絡するから。」
「今日の打ち合わせは新橋?それともどこかに移動した?」
「修君!おいらの話、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ。ちゃんと聞いてるから心配してるの。
お酒、もう飲んじゃダメだよ。それ以上飲むと、智の色気が倍増する。」
……修君、おいらがどれだけ飲んだか、知らないでしょーが。
「本当に大丈夫だから……お酒もそんなに飲んでないし、
隣の旦那さんも、仕事以外でおいらに興味なんてないから。」
「智、そろそろ自覚しよう。
智は男も女も引き寄せるって。可愛いし、綺麗だし、優しいし、才能あふれてるし。
そのくせ、芯が通ってて、男気もあって……。
なのに、ふにゃっと笑う顔は誰の心だって溶かしちゃう。
これでモテないわけないんだから!」
そんなこと思ってるの、修君だけだってこと、修君もそろそろ気づこうよ。
「本当に大丈夫だから、おいらそろそろ戻るね。
修君もまだ仕事でしょ?おいらの心配はいいから、ちゃんとお家に帰ってね。」
おいらは無理やり電話を切った。
このままじゃ、いつまで経っても修君の心配は終わらないと思ったから。
携帯を見つめて、大きな溜め息をつく。
「大変そうだね。智さんも。」
振り返ると類さんが、おいらを見て、おもしろそうに笑ってる。
「類さん……。」
おいらはわざと、眉根を寄せて肩を竦める。
「んはは。あの彼氏じゃ、俺のこと知ったら、すぐ帰れって、迎えに来ちゃいそうだよね。」
はい。ご明察。
もう一歩で迎えに来そうでした……。
「でも、そろそろお開きにしましょう。あんまり遅いと奥さんが可哀想……。」
「そんな心配いりません……。これも仕事の一環ですよ。」
類さんがおいらの肩を抱いて、廊下を進もうとする。
「え?……類さん?」
「ちょっとトイレ……付き合ってもらえませんか?」
類さんが片目をつぶる。
「んふふ。そんな女子高生みたいな……。おいら達、いい歳したおじさんですよ?」
そう言って見上げると、類さんがクスクス笑う。
ああ、類さん、本当に背が高い。
修君を見上げるより、ずっと上に顔がある。
「そうでしたね。いい歳したおじさんが二人で連れションもね?
智さんを見てると、とてもおじさんには見えないけど。」
「それはおいらのセリフです。
類さんだって、カッコ良くて、とてもおじさんには見えません。」
「ふふふ。そんなことないですよ。」
上の方から、優しい笑顔で見下ろす類さん……。
本当にイケメンで、おいらですら、ポーッとしてくる。
これじゃ、女の子はイチコロだね。
奥さんも……大変だ。
「そんな……可愛い顔で見つめないでください。変な気分になる。」
「変な気分?」
おいらが首を傾げると、肩を抱いていた類さんの手が、おいらの首筋に触れる。
ドキッとして、体を引くと、類さんはにっこり笑って、その手をおいらの背中に添える。
「さ、田村さんが心配します。戻りましょう。」
そっとおいらの背中を押す……。
そのソフトな感じが修君に似てて、おいらの安心感をさそう。
二人ならんで部屋に戻ると、赤い顔した田村さんが、一瞬、しまったって顔をして、
類さんに視線を投げる。
類さんは気づいてないのか、自分の席に座って、おいらのグラスにビールを注ぐ。
「さ、もう少し……飲みましょうか。」
にっこり笑う類さんに、またドキッとした。
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