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「名前を呼んでほしい」
彼はそう言っていた。
まるで昔の俺の様……。
今では、殆ど呼ばれない
俺の本当の名前。
もうそんな事、
願いたくなんて無かったのに……。
岬羽くんが
そう悲しく笑うから
俺まで感化されたじゃん。
名前を呼んでほしい……
零斗にもし再び会えるなら
名前だけでも呼んでほしい……
【文】って呼んでほしい……
まぁ、良くも悪くも
俺は大人になってしまったから
そんな事、すぐに諦められるけど。
「佳さんまでそんな
悲しそうな顔しないでくださいよ」
「ごめん……」
「そんなんじゃお腹の子まで
泣き虫になっちゃいますよ?」
「……え」
今、岬羽くんは
お腹の子と言った。
「今、お腹の子って……」
「……はい」
「知ってたの……」
「はい、盗み聞きする気は
無かったんですけど……
電話で話している声が……」
「そっか……」
「はい……」
「で、俺に軽蔑した?」
「え?なんで?」
「だって男だから。
男が妊娠なんてキモいでしょ」
同じ男のΩだとしても
男が妊娠したことには変わらない。
気持ち悪いとか
思っても仕方ないと思う……
溜息を付く岬羽くんの方を
見上げるとパンッ!という破裂音と
共に頬に強い痛みが走る。
そっかビンタされたんだ……
「僕は……
貴方を軽蔑なんてしません!
それは貴方にも!
……そこにいるお腹の子にも
失礼なことだから……」
頬を抑えながら俺が俯くと
岬羽くんは胸倉を掴んて
泣きながら訴えてくる。
「でも!親である貴方がなんで……
なんでそんな悲しいこと言うんですか!
今の言葉はまだ貴方の中で
その子が受け入れられてない証拠です!
そんな事を思ってるなら産んでも
どうせ僕みたいな子が増えるだけだ!
……法から許される内に堕ろしてしまえ!」
失礼します!そう言って
岬羽くんは部屋を
乱雑に閉めて出ていってしまった。
いつも大人しい性格の
岬羽くんがあんなに怒りを
露わにしたのは僕の前では初めてだ。
でも確かにそうなのかもしれない……
あんなに子供の為だ
なんだと言って動こうとしていたのに
実際、俺がいない未来のことしか
準備していなかった。
共に生きる未来を
俺は想定していなかった。
恥ずかしい……
結局は親になる覚悟が
まだ俺には無かったということだ。
そう思うと何だか涙が出てくる……
「ごめん……ごめんなさい………」
その日はひたすら
お腹を擦りながら
お腹の子に謝り続けていた。
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