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家族揃って食卓を囲む
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泉家は僕を合わせて5人家族。
定時に帰ってくる父と、優しい母。
同じ学校に通う明るくて笑顔の似合う妹と、僕ら。
食卓は仕事で父が欠けることがよくあるが、基本は家族揃って食べる。
「母さん、俺とハル明日晩飯いらないから」
食事中、横に座っていたレンがお誕生日席に座る母へ言った。
「友達と食べてくるの?」
お義母さんは、僕とレンを交互に見ながら尋ねる。
「写真部の皆で夜桜を見に行こうってなったんです」
僕がそう言うと、お義母さんは「あら、楽しそうね」と笑みを見せた。
「母さん、明日コンロとクーラーボックスを貸りてくね」
レンがそう言うと、もちろんと頷くお義母さん。
「もしかしてお鍋?」
この人は勘が鋭い。
次いで「春だけど、まだまだ夜は冷えるものね」と相槌を打った。
義父も先週末、会社の親睦会で花見をしたらしい。
場所は上野。
酷く混んでいて、ケータイが通じなかったと話してくれた。
「そういえば!聞いたわよ、新しい写真集出すんでしょう」
お義母さんが嬉しそうに話す。
僕ら子どもの話題を自分のことのように話してくれる姿が、僕は好きだったりする。
「いつ知ったの」
すかさずレンが聞く。
僕もまさかお義母さん知られているとは思わなかった。
SNSでお知らせを出したのは、つい昨日だというのに。
「さっきミキが教えてくれたのよ。クラスで話題になってたって」
正面に座っているミキちゃんを見ると、目が合うなりごめんねと顔の前で手を合わせた。
僕も大丈夫、とアイコンタクトを送る。
でもやっぱり。
恥ずかしくなって僕は話題を変えることにした。
「ミキちゃん、学校はもう慣れた?」
義妹のミキちゃんは、今年の春に新一年生として僕らと同じ桜ヶ丘高校に入学してきた。
「まさかお前が受かるとはね」
「もう!お兄ちゃん酷い!」
レンはミキちゃんに憎まれ口を叩くことは多いけれど、なんだかんだ仲がいい。
「ハルくんがミキの勉強を見てやってくれたんだってな」
お義父さんの言葉が間に割って入った。
「僕は一緒に勉強しただけで…。ミキちゃんの努力のおかげです」
僕らの通う都立桜ヶ丘高校は都内でも名の知れた進学校。
入学は相当に難しい。
ミキちゃんは本当に頑張ったと思う。
「ミキがね、ハルくんのこと沢山話してくれるのよ」
ニコニコ笑いながら話してくれるお義母さん。
「もうっ!お母さん!」
「お前ハルのこと大好きだもんな」
レンもミキちゃんを弄る。
「お兄ちゃんのバカ!!」
お義父さんもお義母さんもどっと笑う。
僕もつられて笑ってしまった。
愛されていて、可愛い僕らの妹。
賑やかで、ごく普通の、ありふれた幸せ。
だけど。
僕はどこかで、自分にセーブをかけてしまう。
失って始めて気付いた。
この幸せは当たり前なんかじゃないという事に。
僕を引き取ってくれたお義父さんとお義母さんに、礼を言っても言い足りない。
どこか寂しくて、
誰にも言えない気持ちが、
喉の奥に引っかかっている。
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