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跳び箱編『第3話』
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「おい、笹野。ちょっと待て」
目立たないようそそくさと逃げ去ろうとしたら、案の定呼び止められてしまった。
「なんですか……」
仕方なく夏樹は、のろのろと足を止めた。この教師は授業中に絡んでくるのはもちろん、用もないのに話しかけてくることが多い。夏樹は市川を苦手に思っているのに、向こうは夏樹を気に入っているようだった。それもまた迷惑な話だ。
「お前、服装が乱れてるぞ。ちゃんとここで直していけよ」
「……はあ」
軽く溜息をつき、夏樹は緩んでいた制服のネクタイを締め直して、はみ出していたシャツを中にしまった。まったく、この程度のことで呼び止めないで欲しい。
「よしよし、ちゃんと直したな。やっぱりそうやってピシッと着こなしていた方がかっこよく見えるぞ」
「……別に俺は、制服をかっこよく着こなそうなんて思ってないですけど」
「でも、だらしないよりはいいだろ? ホラ、服装の乱れは心の乱れって言うし」
「何が心の乱れですか。先生の方がよっぽど乱れてるくせに」
「そりゃあこれが俺の仕事着だからな。スーツ姿で体育の授業はできないだろ」
「そういう意味じゃないです。先生、他の生徒とトイレで……」
「あん? 何の話だ?」
「……なんでもないです。失礼します」
余計なことを口走りそうになって、夏樹はその場から去った。これ以上話していたらもっと話が長くなる。わざわざ苦手な人と話し続けることはない。関わらないのが一番だ。
そう自分に言い聞かせ、足早に教室に向かった。
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