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第十三話
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家へとたどり着いた颯希は入浴を済ませ、ベッドへと倒れ込む。
その脳内では相変わらず悶々と考え続けていた。
悩めば悩むほど考えが纏まらずにどうしようもない。
こんな時、颯希が頼れる友人はただ一人。
ベッドの隅に置かれたスマホを持ち、軽く操作して悠馬にメールを送る。
「相談を聞いてほしい。電話でもメールでもいいから、時間が空いたら連絡して。」
絵文字など装飾無し、用件のみのシンプルな文章。
冷たい扱いをしているわけではなく、機械類に疎い颯希だからこそである。
少しして颯希のスマホが鳴る。
スマホの文字入力が苦手な颯希のためか、メールを打つのが面倒臭いからか、悠馬から電話がかかってきた。
電話に出ると「どうしたん?」といつもの明るい声が聞こえてきた。
いつもと変わりない元気な悠馬に少しだけ心が楽になるのを感じる。
颯希はゆっくりと悠馬に全てを話す。
神崎のことや伊織の神崎に対する態度、橋本の言った言葉について。
話を一通り聞き終えた悠馬は「なるほどな。」と小さく呟いた。
そして今度は真剣な声で話だす。
「まず神崎についてだけどな。
前に友達から少し話聞いたことあって、自分にも他人にもすげぇ厳しいやつらしい。
勉強も部活も全部手を抜かない的な。
颯希のその様子じゃあんま覚えてないんだろうけど、神崎さ、何度か表彰されてんだぜ。
まぁ、伊織に比べれば少ないけど。
だからなんつーか、神崎が伊織に嫉妬すんのはわかるかな。
けど、神崎が伊織のこと好きかは俺にもわからんけど。」
淡々と話す悠馬。
やはり悠馬に相談してよかったと思う。
「気になんのはその橋本って先輩の話かな。
確かに、嫌いだと思いつづけた相手に向けていたのは実は恋心だったって展開はあんのかもしれねぇけど。」
その言葉を聞いて、意味を理解できない颯希は右手にスマホを握りしめながら首を傾げる。
「どういうこと?」
「ん?あー、お前こういうのすっげぇ疎いもんな。
まあ、嫉妬してるってことは伊織に憧れてもいるわけだ。」
うんうん、と頷きながら続きをきく。
「憧れる気持ちが積もり積もったら、恋心に変わるかもしれねぇってこと。
恋の始まりなんて人それぞれだけどさ、自分にとってすげぇって思ったやつから始まって、そいつと一緒にいたい。そばにいたいって思うことから始まるやつだっているはずだろ。
特にお前はそのタイプなんじゃね?」
確かに。と思った。
もともと颯希が伊織に惹かれていったのは、伊織の素直さに憧れていたから。
何故悠馬が颯希の恋の始まりに気づいたのかはわからないが、それよりも悠馬が中学二年生にしてここまで恋を語れるのが本当に不思議でしょうがない。
颯希が考え込んでいると、悠馬が話を続けた。
「まぁ確かに神崎のこととか考えると悩むかもしんねぇけど、それをお前が考え続けても仕方ないんじゃねぇの?
神崎は神崎。お前はお前だしな。
それに、もし神崎が伊織を好きだとしても、伊織が神崎を好きになるとは俺は思わねぇよ。」
自信たっぷりに告げる悠馬に颯希が「なんでそう思うの?」と返すと悠馬は明るく笑って答える。
「だって、あの伊織だぜ?
好きなら好き。嫌いなら嫌い。はっきりしてるしな。
食べ物でもなんでもその性格が出てっけど、それは特に人間には明る様じゃね?
その証拠に、明らかに俺とお前だけには懐いてるしな。
好きになった相手にはとことん懐くけど、一度嫌った相手には冷たく突き放し続けるってタイプの人間なの、お前もわかってんだろ?」
言われてみれば確かにそうだ。
無関心な状態の人は好かれる可能性もあるけれど、あれだけ敵意を向ける相手を好きになる可能性は伊織の場合、ほぼゼロかもしれない。
少し考えてみればこんなにも簡単なことだったのに、一人で悩んで深みに嵌っていった自分にため息が出る。
「それじゃ、もう大丈夫そーだし、俺寝るわ。おやすみー。」
悠馬が電話越しにも颯希が落ち着いたことがわかり、颯爽と電話をきる。
悠馬へ「ありがとう。おやすみ。」とメールを送る。
スマホを充電器と繋ぎ、ベッドへと沈む。
思い返せばため息だらけの誕生日だったなと思い、本日最後のため息とともに意識を手放した。
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