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第二十五話
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放課後。
伊織を含めた他の生徒たちも各々の部活動へと向かう。
教室には悠馬と颯希だけが残った。
もう何度目かになるこの状況に慣れてきた颯希は、神崎からの宣戦布告について悠馬に話す。
「…というわけで、色々考え込んじゃってさ。」
話し終えた颯希は悠馬に力なく笑ってみせた。
悠馬はそんな颯希を見て、真剣な表情を浮かべ、口を開く。
「颯希。お前まさか、伊織を諦めようとしてねぇよな?」
颯希は下唇を噛み、その辛そうな表情を隠すように顔を俯かせた。
「俺、自信がない。
神崎は、俺とは違う。積極的に自分の気持ちを表せる。
俺なんかより、神崎の方がいいんじゃないかって。そう思えて、悔しい。」
颯希の黒にも似た、濃い灰色の瞳が潤み、透明な雫がぽろぽろと零れ落ちる。
「颯希…。」
悠馬はかける言葉を失い、ただ颯希の名前を呼んだ。
「俺は臆病で、弱い。いろんなことが怖くて、自分の気持ちを伝えることすらできない。
そんな俺が、どうして神崎に勝てると思う?」
流れる涙を拭き取りもせず、悲しそうな笑顔を悠馬に向ける。
「颯希。確かにお前と神崎は違う。」
真顔で告げる悠馬に颯希は下唇を噛む力を少しだけ強めた。
「神崎はお前よりも積極的なのかもしれない。」
目を瞑り、涙を零し続ける颯希に、悠馬ははっきりと告げる。
「でもさ、その逆もあるだろ。
颯希は一途に伊織のことを考えていられる。
伊織を想って、優しくも、厳しくも接してやれる。」
「でも…。」そう呟くと、悠馬は呆れたように口を開いた。
「お前は、自分にもっと自信を持てよ。
いつもいつも伊織を支えてんのはお前だ。
誰よりも二人を見てきた俺が言うんだから、間違いない。」
「そうだろ?」と躑躅色の瞳を颯希に向ける。
顔を上げた颯希の瞳はまだ潤んでいて、その睫毛も濡れている。
相変わらずぽろぽろと涙が溢れているが、それでも悠馬をしっかりと見た。
噛んだ下唇がヒリヒリと痛むが、それよりも、親友が笑顔で「諦めんなよ。絶対にな。」と告げてきたことが心にしみた。
「…ありがとう。悠馬。いつも、ごめんね。」
颯希が涙を拭きながらそう言うと、悠馬はまた笑った。
「親友なんだから、頼って当然!」
そう返された颯希は嬉しそうに笑った。
帰りの電車の中。
窓に映る自分を見て、颯希はため息をついた。
(自分に自信を持つ…か。)
それは颯希にとって難しいことだった。
目を瞑り、今までの自分を考えて見ても自分のマイナスなところばかりが浮かんでしまうからだ。
伊織の前で弱音も吐くし、泣いたりもした。
生活リズムが不安定な伊織にいつも文句ばかり言っていたけれど、それが迷惑だったかもしれない。
悠馬に頼ってばっかりで、自分からは「好きだ。」の三文字すら怖くて言えない。
一方、神崎は積極的だ。
寝ている伊織にキスしたり、思ったことを素直に伝える。
きっと、告白する日も近いだろう。
颯希と神崎はこんなにも違う。
だからせめて、友人でいいから、伊織の側にいたかった。
そんなことを考えていた自分が嫌いだ。情けなさすぎる。
今、そう思えるのはやはり悠馬のおかげだ。
今日もまた、親友への大きな感謝を感じた。
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