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第三十三話
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颯希は神崎と自分を比べることをやめ、再び今日のことを思い出す。
気になっていることがあったからだ。
それは、伊織が神崎を避けているということ。
神崎の反応から察するに、話しかけただけでも無視を決め込んでいるようだ。
けれど、一人で考え込んでも答えは見つからない。
すっきりとしない気分の中、颯希は静かに目を閉じた。
翌日。
朝起きて、学校へと向かう。
今日は珍しく弓道部と活動時間がずれている。
合唱部の部活動は弓道部が始まる前に終わった。
階段を降りている途中、二階で弓道着に身を包んだ二人の男子生徒を見つける。
颯希のよく知る弓道部員の二人。
伊織と神崎だ。
伊織の腕をぐいぐいと引っ張って神崎が先を歩く。
引っ張られている伊織は顔を俯かせていた。
そんな二人を見かけてしまった颯希はそっと後を追ってみた。
少し歩いて着いた先は、各階に二つずつ置かれている選択教室の一室。
神崎は誰もいない静かな教室へと伊織を押し込むと、自らも中へと入り、ばんっと音を立てドアを閉める。
颯希は二人の入った隣の教室を覗く。
そこには二人が入った部屋同様に誰もいない。
次に、周りの様子を確認。
この学校には階段が二箇所ある。
広い階段と非常用の狭い階段。
人通りの多い広い方の階段とは対照的に、非常用の狭い階段を使用する者は少ない。
それは、非常用の階段が昇降口から離れているからである。
さらに、今日は授業がない。
非常用階段の人通りは本当に少なく、現在も誰もいない。
そして、二人の入った二階の選択教室は非常用階段の前にあるため、人が来る心配はない。
万が一誰かが来たとしても、隣の教室に隠れられると考えた颯希は二人のいる教室のドアの前にしゃがむ。
神崎が勢いよく閉めたドアは、ほんの少しだけ隙間が生まれていた。
颯希はそこから中の様子を伺うことにした。
中を覗くと、先ほどと変わらず、俯いたままの伊織が神崎によって壁際に追い詰められていた。
俯いたまま、神崎と目を合わせようとしない伊織に、神崎が低い声で言う。
「穂積。てめぇ、俺のこと避けてるだろ。」
伊織は何も言わず、俯いたまま。
けれどそれは無言の肯定なのだと、神崎は理解した。
「ちっ。」
神崎が舌打ちをした次の瞬間、ばんっと大きな音が鳴る。
それは神崎が自身の右手で壁を叩いた音だった。
いわゆる壁ドンという状況なのだが、全くもって甘い雰囲気などではない。
それは、神崎の表情が怒りに満ち満ちているからだった。
いつも眠たげで落ち着いている青緑色の瞳が、神崎のいきなりの行動に驚き、丸くなる。
「…なんでだよ。なんで、無視とかすんだよ。」
そう呟いた神崎の表情は、とても悲しく、苦しそうだった。
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