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親衛隊隊長の相談内容
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連載「BLOODY TARGET」より
璃空の親衛隊隊長の相談の内容
「…遅い!!今何時だと思ってんの!?」
寮の部屋のインターフォンを押すと、少し経って勢いよくドアが開いて壁にぶつかった。
廊下に高らかと声が響く。
「近所迷惑だ。夜十時回ってるんだから、もっと静かに…」
「あんたが来ないのが悪い!!」
怒りが収まらない様子の郁に、颯都は息を吐いた。
「分かった。取り敢えず部屋に入れてくれ」
そこで好きなだけ怒鳴り散らすと良いさ。
黄色のカーペット。花柄のカーテン。
ベッドには沢山のぬいぐるみ。
黄色で構成された、所々にマスコットのカエルが生息している、女の子のような可愛らしい部屋。
「それで?」
ベッドの縁に腰掛け、腕と脚を組んだ女王様スタイルで先を促す郁。
「あ?」
「何でこんなに遅くなったのか聞いてんの!」
苛立ってベッドを手で叩く。
「何分風紀委員会の仕事がありましたので。どうか気を損ねないで下さい、姫君」
颯都はかなり棒読みで、何の感情も込めずに怒れる姫君を見た。
「誠意が感じられない。やり直し!」
指さしで下った指令に面倒くさそうに無言で横を向く。
「今。面倒くさいって思ったでしょ。あんたがオレの執事だったら即失格だから!
てか、見下ろさないで!」
「もしお前の家の執事だったら、我が儘姫を教育し直せるのにな」
床に座りながら言えば、馬鹿にしたような笑いが返ってくる。
「あんたに教えられる事なんて何もないね!」
「…可愛げねぇ」
「何か言った…!?」
「何でも」
顔を背けてぼそりと呟くと、目敏く睨んできたので颯都はホールドアップした。
ただでさえ仕事疲れで消耗している。
余計な言い争いにエネルギーを使いたくはない。
「…そう言えば、晩飯は食べたのか?」
ふ、と思い出した事を質問すると、郁は先程より強く睨んできた。
「あんたが遅いから、食堂とっくに閉まっちゃったし!!」
それを聞くと颯都はスッと立ち上がり歩き出す。
「どこに行くのさ?」
「キッチン借りる」
「…いいけど…あんた、料理作れんの?」
颯都は立て膝で冷蔵庫を開け、中を確認する。
食材を取り出し、それを持ってキッチンへ向かう。
「多少はな」
食材を置き、棚からフライパンと油を出す颯都に、郁がバサッと何かの布を投げてきた。
颯都は片手で掴んでから広げ、黒地のエプロンを身に着けながら礼を言う。
「サンキュ」
「…別に。さっさと作ってよね!」
少し見とれてしまっていた事に気づいた郁は頬が赤くなり、プイっと横を向いた。
人にお礼を言われるなんて経験がない。
今まで、人の為に何かした事もなかったから。
照れくさいような、胸がこそばゆいような…変な感じがした。
その間に、颯都は野菜をリズミカルに切り、手早く慣れた手つきで調理を行っていた。
その音と、香ってきた美味しそうな匂いに郁は食欲をそそられてお腹が小さく鳴る。
「何作ってんの?」
「ハンバーグと有り合わせで作ったお菜」
「ふーん。お腹ペコペコ~…」
力尽きてベッドに仰向けに倒れ込む。
「待ってろ。もう少しで出来る」
手を休めずに言う颯都を、郁はチラッと見る。
悔しいが、料理する姿は相当様になっている。
郁はカエルのぬいぐるみに顔をうずめ、目だけで颯都を見る。
「(ちょっと、ほんのちょっとなら…カッコいいって言ってたヤツらの気持ち、分かるかも…)」
すると、腕の中のカエルが郁の心の中に話しかけてきた。
《郁、それは恋ゲロか?》
「(恋じゃないし!待ってても来ないし、思い通りにならないし、アイツ嫌い)」
《でも、郁のためにこうしてご飯作ってくれてるゲロ》
「(それは…当たり前でしょ!遅れて来たんだから)」
《相談にも乗ってくれるゲロ。見返りなしで。
今まで郁に寄ってきたヤツらとは違うゲロ》
「(…わかってる。でも、璃空様には及ばないね!)」
《デートできるといいゲロね、郁》
「(うんっ。絶対デートして、璃空様にオレを好きになってもらうんだから!)」
カエルに勇気づけられ意気込んでいると、颯都が両手に皿に盛りつけた料理を運んで来た。
「お待たせ。出来たぜ」
テーブルには、二人分のご飯とハンバーグ、付け合せでブロッコリーのボイルとマッシュポテト、別皿で水菜の和え物、コーンスープ、生野菜のサラダなどが並んだ。
「わぁ」
郁は飛び起きて思わず歓声を上げる。
短時間で作ったとは思えない、美味しそうな仕上がりだ。
お腹を空かせた郁には、料理の数々がキラキラとして見えた。
テーブル付近に座り、いただきまーすと言うと待ちきれないと言わんばかりに食べ始めた。
夢中で食べる郁を尻目に、颯都もいただきます、と手を合わせて食べ始めた。
「あんたって、料理の経験あるの?」
「料理店で一時期働いていた」
「お金に困ってんなら、オレんトコで働かせてやってもいいよ?」
「必要な時に稼ぐだけで良い」
「あ、そ」
そんな会話をしながら、皿の上の料理は綺麗に空になった。
食器を片付け洗っている颯都に、郁は声を投げ掛ける。
「ねぇ、初デートが遊園地ってどう思う?」
「まぁ、良いんじゃねぇか?お前に合ってる」
「そう?やっぱりそう思うでしょ!?前から璃空様と行きたかったんだ~…遊園地」
瞳を輝かせ、両手を握りしめ思いを馳せる姿は、まるで夢見る乙女のよう。
「告白するんだろ?頑張れよ」
励ましの言葉を贈るが、郁は目を吊り上げて颯都にビシッと指を指した。
「あんたには負けないからっ!!絶ッ対璃空様を振り向かせるんだから!!今に見てなよ!?」
「好きにしてくれ」
「何その無関心!もっと関心持って聞きなよ!!」
「俺には関係無い。関わりたくない」
実にあっさりとした返答は、郁の反感を買った。
「はぁ!?何とぼけた事言ってんのさ!!
オレが初めてライバルだと認めてやったんだから、もっとやる気出しなよ!!!」
この手の誤解には、ほとほと迷惑している。
あまり厄介事に関わらずに平穏無事な生活を送りたいのに、何故こんなにも渦中にいるのか。
洗うのが終わり、布巾で伏せた食器を拭きながら颯都は、この際に余計な誤解を解こうとした。
「ライバルも何も、俺は彼奴を嫌いなんだよ」
「嫌い…?そんなのあり得ないし!純血種、世界的大企業の後継ぎ、それに何よりカッコいいなんて…あんなに完璧な人嫌いになるヤツなんているわけ…」
「此処に居る」
郁は驚いたまま、口を開きっぱなし。
「お前の事、応援してる」
無愛想に告げられた颯都の言葉は、郁の胸の中に染み込んだ。
恋の応援なんて…された事ない。
素直に嬉しいと思った。
食器洗いを終え、皿を食器棚に戻している颯都に郁は一枚の紙を差し出す。
上目で颯都を睨み、その顔は赤い。
「ホントに応援してるっていうなら…これ、璃空様に渡して」
期待して思いを託した遊園地の1日チケット。
誰かをこうやって信用するなんて、バカみたい。心のどこかで郁は思った。
けど同時に、信じ始めてもいた。
「断る」
「え?」
受け取ってくれると期待していたが、颯都はそれを一瞥するだけに終わった。
ショックを受けている郁を真っすぐ見る。
「そういうのは自分で遣らなきゃ意味ねぇだろ。だから断る」
「そうだけど…!でもオレ、親衛隊の隊長だし、学校じゃ話しかける機会がないんだ。
風紀委員会だったら、顔合わせる事もあるだろ?」
縋るように見つめられ、ここまで頼まれ断る理由も見当たらない。
「…分かった。今回だけだからな」
それを聞いた郁は、表情を輝かせた。
(あんたいいトコあるんだ。見かけによらず)
(お前は何時も一言多いんだよ)
――――――――――――
郁は連載の中で一番乙女思考なので、脳内もかなりファンシー。
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