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A certain day~桐臥の一日~
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夕時。
桐臥は、胴着を半身脱いだ状態で日課となっている素振りを行っていた。
そこに突如として扉が開き、一つの影が入ってくる。
誰かと思い目を細めれば、それは紺色の袋を肩から下げ、左手に木刀を持った颯都だった。
「藤堂さん。俺と一戦交えてくれねぇか」
桐臥は目を真っ直ぐ見詰め返し、口角を上げる。
「ふ、好戦的だな。聞かずとも始める気じゃないか?」
「あぁ。あの時から手合わせしたいと思ってたんだ」
今にも戦いたくて仕方がない。
そんな颯都の様子を見兼ねて、桐臥は木刀を構える。
「そいつは嬉しいな…。じゃあ俺もその期待に応えるとするか」
何より…自分がこの少年との戦いを望んでいる。
静かな空間の中に潜む闘気が、胸を奮わせる。
沈黙している今この瞬間も、互いが互いを推し量り、いつどこから攻めるか間合いを計っている。
………来る。
桐臥がそう思った刹那、間近まで迫った颯都の木刀を受け止めた。
真剣な力の押し合いの最中にも、闘志がそうさせるのか自然と口元が笑みを浮かべていた。
…やはり、そうか。
剣を合わせる度、桐臥には話をするよりも早く颯都の内面が伝わってきた。
ちょっとやそっとでは揺るがない芯の強さを持っている。
しかし…、鬱憤は相当溜まっているようだな。
ただ力を受け流していた桐臥が、攻めの姿勢も見せ始める。
全神経を注いでも一瞬の隙を作れば負けるかも知れない。
いつの間にか桐臥は加減など出来ない剣の打ち合いに熱中していた。
漸く剣を下ろしたのは、両者汗を掻き息切れが続くようになってからだった。
「…流石藤堂さんだな。武術だけじゃなく剣術にも長けてる」
「…難なく俺の剣に着いてきた者の言う台詞か?」
「いや、お陰で久々に力を出せたんだ。此処まで動ける人間なんて中々居ない」
笑みを携えて讃え合う、ここまでの充実感を得たのはいつ振りだろうか。
颯都から手を差し出し、桐臥もそれを握り返した。
この歳でこれ程素養のある人物に遇うとはな…。
申し分のない精神力と向上心を兼ね備えている。
これから、まだまだ強くなる。
だが……。
去っていくその背中に、最後に声を掛ける。
「道は必ずしも一つじゃない。お前には、幾らでも可能性がある。…それを忘れるな」
瞬間振り返った灰青の目が、僅かに見開かれた。
「…あぁ」
最後に笑って出て行く姿を、桐臥はただ見送っていた。
(何の為に強さを求めるのか)
(…決して、間違えるな)
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