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【前章】とある青年の自分語り(痘痕姫)
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姫様は十三才の美しい少女でした。
西の出なのか、柔らかな亜麻色の髪はフワフワと波打ち、先端に行くにつれてクルクルと螺旋を描いて巻いています。美しい紫色の瞳は零れ落ちそうなほど大きく、常に泣いているように潤んでおります。肌は見たことがないくらい白く、小柄ながら肉厚な体からは幼い色気が匂い立つように立ち上っていました。
姫様の名前はなく、痘痕姫と呼ばれておりました。何故ならば、姫様の顔の右半分は無惨にも焼けただれていたからです。
とある貴族の献上品であった姫様は、何処かの国から拐われた少女でした。帝に一目で気に入られた姫様は、処女を暴かれそうになりました。しかし、姫様はそれを拒絶し、寝所に置かれていたランプに顔を突っ込み、自らの顔を焼いたのです。
ランプの油と炎によって美しい顔は焼かれ、みるみる醜くなりました。醜くなった姫様に帝の興味はなくなりましたが、一度帝と一晩を共にした女性は後宮に居なければならない決まりです。こうして、哀れな姫は故郷から遠く離れた後宮に咲く華になってしまったのです。
姫様は無言の方でした。自分の名前さえ言わない姫様は、帝から痘痕姫の名前をつけられました。
自分を拒絶した姫様に帝は怒っておりましたが、流石に幼い少女には慈悲をお掛けになられ、姫様は凄惨な罰を逃れました。その変わり、姫様には最下級の扱いを後宮で受けるように命じました。
姫様は、後宮にいる美女達の中でも最下級の娼婦以下の存在になりました。最下級の姫には最下級の宦官が相応しい。そのような理屈で、私は姫様専属の宦官になりました。
姫様は無表情なお方でした。
小さな物寂しい室内の中、窓際に置いた椅子に座りながら何時も外を眺めておりました。紗の薄衣だけを着た姿では外を見つめる姫様の体には、沢山の痣がありました。これは、姫様の全身全霊をかけた拒絶に腹をたてた帝が殴打した傷跡です。
私は毎朝、姫様の食事を用意し、傷を手当て致しました。本来ならばこのような仕事は女官が行うのですが、姫様につけられた侍従は私だけでしたので、全て私が行いました。
牛蛙が痘痕姫の侍従になったと、後宮ではある意味有名になっておりました。化物主従化物主従と呼ばれましたが、一応は主付きの宦官ですので、以前のような暴力は無くなりました。その一方で陰口は更に酷くなりましたが、私はそんな事よりも姫様が気になりました。
後宮にいらっしゃる方々は、野望と自信に満ち溢れた方々です。しかし、姫様は違いました。帝を拒絶するという大それた事を行いながら、この少女は気弱で怯えているように見えました。
ただの下踐な宦官である私が室内に入ると、姫様は無表情ながら体を強張らせます。私が姫様のお体を湯で清めますと、姫様は叫びそうになるのを唇を噛んで耐えます。
何時しか理解しました。ああ、姫様は私を男だと思っているのだと。確かに、私は宦官には見えませんし、本当なら有り得ない事ですが、帝の不興をかった少女に男の世話役を与えられる事はありそうです。
何時もの癖で喋らず無言でいる事も、今の状況では威圧感を与えてしまうでしょう。外見だけならば、私は傷だらけの逞しい男なのですから。
「ご安心下さい。私は宦官です」
何時も話さない私が言葉を発した事に、姫様は驚いたようでした。私も、久し振りに話した事に大変緊張しており、姫様の傷の手当てを終えると、そそくさと退室致しました。
この後の私は、不快な事を言ってないか?叱られないか?打たれないか?と不安で胸がいっぱいでした。大きな体をしているくせに、小さな少女に何を怯えているのだと思われるでしょうが、何時も誰かに殴られていた私にとっては当然の不安でした。寮に帰った時は、ああ、あんな事をしなければよかったと後悔しました。
次の日、憂鬱な気分で姫様の部屋に入ると、姫様の様子が何時もとは違っておりました。何時もは私が部屋に入っても気にせず、無表情に窓の外を見つめるだけです。なのに、その日は私が部屋に入った事に気付くと、此方を見つめてきたのです。
私は怯えました。
後宮の者は私達を居ないものとして扱います。そんな中、私達に視線を合わせる時は折檻する時と決まっております。
怯える私を見つめた姫様は一言、言葉を発しました。
「【かんがん】って何ですか?」
姫様の声はまるで鈴のように可愛いらしいものでした。しかし、姫様の言葉に私は困ってしまいました。婪国では宦官とは当たり前の存在で、説明するまでもない存在です。
「後宮におわします、高貴な方々にお仕えする者の事です」
「そう……」
姫様は私の言葉に満足したのか、一度頷くと黙ってしまいました。
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