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【前章】とある青年の自分語り(痘痕姫)肆
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正妃や側妃以外の女性で、帝の子を孕まなかった女性は、三十を超えたら後宮から暇を出され、国の官僚や軍人の側妻や正妻として下賜されます。
つまり、一度後宮に入ったら、一生後宮から出られないか誰かの妻になるしかないのです。しかし、何事にも例外は御座います。後宮内で犯罪を犯した者、帝から不興を買った者。後宮にいるのには相応しくないと判断された者は、後宮から追い出されてしまいます。これを落宮と呼びます。
落宮は不名誉な事です。その瞬間、追い出された女性は生家からは縁を切られ、天涯孤独の身になってしまいます。そんな女性達を待ち受けるのは地獄の日々です。
落宮すなわち、帝やそれに連なる者に無礼を働いた罪人。しかも、その罪人は美しく高貴な女性なのです。
一般市民のみならず、人買い、楼閣の主、様々な者が落宮した女性に群がります。ある者は自分の肉欲を満足させる性奴隷にしようと、ある者は自分の店の高級妓女として働かせようと、最悪な場合は生薬の材料として、高貴な娘の生肝や性器を手に入れようと……。
泣こうが喚こうが誰も助けてくれません。なにせ罪人ですから、美しい女性達は家畜にも劣る扱いを受け、発狂して死んでいきます。落宮されるぐらいならば、自殺した方が幸せだと言えましょう。
帝は姫様を許しておりませんでした。自分を拒絶した少女に、最も残酷な方法で苦しめるおつもりです。すぐに姫様を落宮しなかったのは、恐怖や苦痛を姫様に与え続けてから落宮させようとお思いなのでしょう。
今まで落宮させられた女性達の絶叫が、脳裏に浮かび上がりました。町中で男達に犯される少女、人買いに拐われる女性、生きながら体を切り刻まれる妃。
後宮の門の隙間から見つめた、落宮させられた女性達の末路と姫様の姿が重なります。
私は恐怖しました。
同時に決意致しました。
帝の本意が姫様を落宮させる事ならば、姫様が虐め殺される可能性は少ないでしょう。ならば、私が此処にいなくても、少なくとも姫様のお命は保証されます。
「姫様……お話が御座います」
姫様が落宮させられるまで、あと半年となった日、私は姫様に全てを話しました。
落宮の事、落宮させられた女性達の末路、そして、私が何をするかということ。姫様には酷な事だと分かっております。姫様は泣いて嫌がりましたが、最後には頷かれました。
それから、私は毒を飲みました。それは体に害は少ないですが、全身が爛れて醜くなる毒です。それと同時に、私はとあるお方の宮に入り浸るように致しました。そのお方は側妃の一人ですが、性病に掛かり臥せっているお方です。
私の体が爛れ始めると、後宮では私が性病に掛かったと噂がたちました。すると、宦官達は私の体を調べる事なく、すぐさま私を捕らえて後宮の扉から放り出しました。
病に倒れた宦官は、無慈悲に後宮から捨てられる。それは後宮の法です。
着の身着のままで放り出された私は、久しぶりに外の世界を見つめました。きらびやかな後宮と比べて、外の世界は煤けて、みすぼらしくて、生き生きしていて、活気に満ち溢れていた光景は、遥か昔に見つめた光景と同じで、何だか嬉しくて涙がでました。
私は痛む体を起こし、立ち上がりました。害が少ない毒といえども、毒は毒です。体を動かす度に鋭い痛みが体を走ります。しかし、私には休む暇は御座いません。
半年後に落宮させられる姫様を救う為、救った後の姫様の生活を保証する為、私は町へ歩き出しました。
しかし、後宮育ちで体が弱り、住む場所がない私がまともに働ける訳がありませんでした。コジキのような生活を余儀なくされ、それでも仕事を探していた所、人買いに襲われて死にかけてしまいました。
そんな中、親切な貴殿方に救って頂いたのです。貴方達の親切につけこむ形だと分かっておりますが、お願い致します。私を此処で雇って下さい。私は体も頑丈で、先ほど告げましたように、武芸を修めておりますので護衛もできます。後宮武術は舞にも通じますので、見世物を演じる事が出来ると思います。
ですからどうか、私を貴方達の一座に入れて下さい。私を働かせて下さい。お願い致します。
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