アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
act2-1.学校祭①
-
【side夏】
なんだかんだで人間ってやつは忘れていく生き物だ。気にしないふりで日々を過ごしているうち、あっという間に学校祭の準備が始まって、慌ただしい時間があの日の記憶を薄れさせていた。
あの後、放課後になって葵がすごくばつの悪そうな顔で「帰ろ……」と声をかけてきたのには笑ったけど、まぁ、変わらない関係を望んだのは俺も同じだ。
「お〜い!夏陽〜!そっち持ってくれって!」
「わ、悪ぃ!ぼーっとしちまってた!」
慌ててバカでかいダンボールの端を持ち上げ、雪岡と2人で運ぶ。これは装飾班の匠たちの手によって看板になるらしい。
クラス会議中に寝ていたら知らないうちに装飾班の雑用係にされていたが、俺の得意なことといえばスポーツくらいしかないし、これくらいが丁度いい。そんなことより問題なのは、当日の役割だ。
「なんで俺がメイド服なんて…………」
俺たちのクラスはベタにメイド執事喫茶だ。これも寝ているうちに決まってしまった。そして、おぞましいことに俺はメイド役に配属されていた。
「いんじゃね?似合うと思うぜ、メイド……ンブッ、フフ…」
「笑ってんじゃねぇよ……雪岡殺す…………」
「ごめんって、フフ、ハハ、アーッハッハッハ!」
「笑いすぎだ!!」
学校祭は2週間後。日ごと盛り上がりを増していくクラスのテンションに反比例するように、俺のテンションはダダ下がりだ。
「倉橋くん、ちょっと」
ダンボールを運び終えたところで葵が俺を呼ぶ。手をちょいちょいと動かし、おいでおいで、とされるとまるで犬扱いされているようでムカつく。雪岡に行ってくるわ〜と一言伝えて、葵の元へ向かう。
「漣興、俺は犬じゃねぇんだけど」
「まぁ倉橋くんよりは犬の方が賢いだろうしね」
「死ね!!殺す!!!」
「ハイハイ、いいから着いてきて〜行きますよ〜ワンちゃん」
「ぜってぇ殺す!!テメェ表出ろコラ!!」
「いつの時代のヤンキーだよ……」
葵の横に並ぶのは死んでも嫌だから、葵の斜め後ろくらいをついて歩く。
(なんか、肩とか思ったよりがっしりしてるんだな……それに、背もまた伸びたか……?)
いつからか葵に背を抜かされ、成績を抜かされ(いやそれは元々だけど)モテモテの葵に対して俺はぱっとしない男だ。
昔いつも俺の後ろをくっついてきてたあの葵はもうどこにもいない。可愛かった葵……もうどこにも……
「悔やまれる……ッ」
「悔やまれるなんて……そんな夏陽にとってどれだけ難しい言葉遣いか……!すごい!夏陽らしくもない!」
「バカにすんな!!殺す!!!……てかよ、どこまで行くんだこれ?お前なに係?」
「俺は衣装係で、今はクラス倉庫に向かってる」
「ゲッ……外じゃねぇか……」
うちの学校では、外にアパートの物置のような、大きなロッカーに似た物置があって、それをクラスにひとつずつ割り振ってクラス倉庫として自由に使うことを許されている。学校の裏にあるので結構歩くのだ。
「衣装係には荷物担当がいなくてさぁ」
「俺は力仕事のために呼ばれたのかよ」
「当たり前じゃんそれしか出来ないんだから」
「いちいちウゼェ言い方しかしねぇなお前は!殺す!!!葵殺す!!!!」
「夏陽は馬鹿みたいな言い方しかしないね、殺すしか言えないの?」
「うぐぐ……!!」
「はい俺の勝ち」
「死ね!!!」
なんてウザイやつ。なんてムカつくやつ。胸の底から湧き上がるどうしようもない衝動に似たむかむかは、怒り、なんだろうか。なんか違う気がするけど、でも、まぁ。
「なんか、良いなぁ」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
20 / 22