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13. and then
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──……。
「…た……きろ…」
「ん……」
体が揺さぶられる感覚がして、奏汰は意識を浮上させた。
「起きるの遅い。早く行く」
起き抜けの奏汰の目に飛び込んできたのは、ムッとした顔でそう話す黒髪の青年だった。
切れ長の目が特徴的な端正な顔立ちをしていて、服装は全身真っ黒。奏汰は記憶の中を片っ端から駆け回って該当する人物を探したが、生憎見つかることは無かった。
「……誰。」
そう呟き訝しげな視線を送ると、黒い青年はバツが悪そうに目をそらし、何か言いたげに口をもごもごさせた。かと思うと再び向き直り、奏汰と目を合わせた。
「それはあと。まずはここから抜け出す」
「何言って…」
青年の言葉が理解できず周りを見渡した奏汰は凍りついた。
「ここ、どこ…」
見覚えのない一面コンクリートの無機質な空間に、奏汰は意識を失う前の記憶を取り戻した。
カチャリ、音がして、自分の手足を拘束する錠に気が付いた奏汰は目を見開いた。
「奏汰、アイツに捕まった」
青年の決定的な一言に、奏汰は益々顔を青くさせた。そしてふと、あることに気づいて一泊遅れて座ったまま後ずさった。
──この青年は、誰か。
この状況で思い浮かぶのは、誘拐犯の仲間、以外にない。
奏汰の警戒心全開の顔を見て青年は一瞬ポカンとした顔をし、しかしすぐ後、ああ、と納得した。
「俺、敵じゃない。奏汰を助ける」
「え…」
青年の現実味のない言葉に、思わず声を漏らした。
そんなことを言われても信じられない。…しかし、誘拐犯の仲間に、対象を逃がしてなんの得があるのだろうか。もし、もしも本当に誘拐犯の手下でないとして、またこいつに誘拐されるかもしれない。
様々な考えが奏汰の頭の中をぐるぐる回った。
「………信じて」
しかし、青年の目があまりにも真っ直ぐで、一瞬信じてしまいそうになった。
…まあ、ここにいても何もできないし。変なことされそうになったら逃げ出せばいい。
心の中でそう呟き自分を納得させた奏汰は、青年に頷いて見せた。
「…わかった」
言うや否や、青年は僅かに顔をほころばせ、うん、と言った。
そうは言ったものの、手錠と足枷が非常に邪魔である。これでは歩こうにも歩けない。
ガチャガチャやっていると、どこから取り出したのか青年が鍵を手にしていた。
「それ、どこから……」
「とってきた。俺、こういうの得意」
…本当に信用していいのだろうか。
手際よく枷を外していく青年に再び訝しげな目を向けた。
「ん、今アイツいない。…逃げる」
「え、わ…!」
枷を外し終えた青年は、そう言うとともに奏汰を抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこの状態で。
「おい!なにする…「しぃー…」
青年の突然の行動に、奏汰は手足をバタつかせたが、それを青年はさして気にした風でもなく、幼い子にするように諌めた。
「少しの間静かにしてて」
怒られるでもなく優しくそう言われてしまっては、奏汰は口を噤むしかなかった。
─────────────
「は…」
大人しくされるがまま運ばれてきた奏汰は、見慣れた路地裏で息をついた。
青年は音も立てずに走り、コンクリートの塊から奏汰を連れ出した。外に出て、青年の腕の中から盗み見たコンクリートの塊は廃工場のような場所だった。黒雲に隠された月の闇に紛れてひっそりと佇むそれは、外壁と色の違う四角い大きなドアが大口を開けて自分を待ち構えて笑っているようで不気味だった。
さっきまでのことを思い出した奏汰は、生まれて初めて体験した恐怖に身震いした。
取り敢えず早く帰らなければ、と腰を上げた奏汰は、はた、と動きを止めた。
──さっきの人いない…
青年にここで降ろされてから膝を抱え込んで顔を埋めていたのもあるとは思うが、いなくなる気配も、立ち去る足音もしなかったから気付かなかった。
(何もされてない…本当に助けてくれただけ?……不思議な人だったな)
あんなに疑ってしまったことに申し訳ないと思いつつ、また会えるだろうかと思いを馳せた。
本当に帰らなきゃ、と一歩を踏み出したところで、チリンと音がした。音のした方を見ると、黒猫がジッとこちらを見ていた。
「ニア…!」
驚いて声を上げると、ニアがにゃあと鳴いて擦り寄ってきた。
自分のことで精一杯ですっかり忘れてしまっていた。
「ごめん…っ」
ニアを抱き上げて頬を寄せ、本当にごめん、ともう1度呟いた。
「…でも、なんで気付かなかったんだろ…」
出会ってから離れた日は一日たりとも無く 傍にいるのが当たり前になっていたニアに、奏汰はいつしか姿が見えないと不安を感じるようになっていた。
…はずなのに、青年と一緒にいたときは全くそういう不安を感じていなかった。
きっと恐怖が大きすぎたのだ、と結論付け、奏汰は無理やり自分を納得させると、ニアを抱きしめ直し今度こそ本当に帰り道を辿り始めた。
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