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オカマになっちゃう
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夏休みのまさに初日。成田空港の展望デッキに湊太は呆然と座っていた。せっかくの海外旅行なのに湊太の気分は晴れなかった。数時間後には包茎手術を受ける予定だったからだ。
湊太の母親はフィリピン人だ。そしてフィリピンの習慣では、男は全員子供のうちに包茎手術を受ける。今年、湊太も帰省のついでにさせられることになった。どれだけ泣いて拒んでも無駄だった。湊太の母親に言わせれば、包茎手術を受けないのは男を捨てるのと同じことなのだそうだ。だからフィリピンの子供は幼稚園児でも平気で手術を受けるという。だがフィリピンの常識を押し付けられたところで湊太は日本生まれの日本育ち、恐怖が消えるはずもない。
幸い、親友の晴斗が隣にいた。晴斗もフィリピンハーフで、やはり今から手術を受けにフィリピンへ行く。二人の母親は同郷だ。だから帰省中も一緒にいられるし、手術も同じ病院でする予定になっている。
「ねえ晴、ぶっちゃけ泣いたらオカマになるって信じてたことある?」
湊太は小声で晴斗に訊ねた。晴斗は首を横に振った。「包茎手術のとき泣いたらオカマになるっていうやつ?迷信でしょ。それフィリピン人みんなよく言うけど、物心ついてからはさすがに信じたことないよ。まあちっちゃい頃は母さんに『泣いたらおちんちんなくなっちゃうよ』って言われて信じてたけどね」
「じゃあもし俺が泣いちゃってオカマになったら?」
「うーん、別に構わないかな。ていうか湊太が泣くときには俺もうとっくに泣いてるだろうし。て言うかなんで今秘密みたいにして聞くの?(笑)」
「廉にはこういうこと言って心配かけたくないし、和馬に聞かれたらゼッテーからかわれるもん……」
そのとき湊太は背後に気配を感じた。後ろは背の高い花壇なのにと思って振り返ると、その花壇の縁に和馬が立っていた。和馬もフィリピンハーフで、二人の大親友だ。やはり母親が同郷で、今から一緒に手術を受けに行く。
「湊太泣きそうなの?てことはオカマなるんだね!」
和馬は花壇から飛び降りてきた。
「仮定の話だよ!」
湊太がムキになって反論すると、ますます和馬は調子に乗る。こんな状況でまだふざけていられる和馬が内心羨ましくて湊太は舌打ちした。
「じゃあさ、切るとき先泣いた方が負けねw」
「いいよ、てめーのがゼッテー先泣くし」
「いや、泣かねーから!だってさ、切るとき泣いたらダメってだけでしょ?麻酔終われば余裕じゃん」
「いや、麻酔の時点で怖くね?」
「そりゃ怖いよ。けど麻酔のときは泣いてもオカマなんないしw な、晴?」
「そう?なんか都合いいな…」
晴斗は苦笑しながら地味に和馬の背中をさすっていた。和馬も晴斗に身をすり寄せている。
「ま、なんにせよ俺、気づいちゃった。手術ってさ、同時にはやんないから和馬のルールだと先泣くとかないよね。それに麻酔したあと泣き止む前に切られたらアウトだし」湊太が追及すると、和馬は舌打ちした。
「湊太細けーんだよw なんにせよ俺切るときは泣かないからオカマは湊太だけっしょw」
和馬が上目遣いで煽ってくるので湊太は思わず和馬の頭を押さえつけた。可愛すぎてイライラしてしまう。性格はガキそのもののくせに和馬は自分のチャームポイントを知ってやがる。しかもサラサラツヤツヤの髪の毛からはいつもいい匂いがするし、魔性というのはこういうことなのかもしれないとすら思う。
「いや、でもな。俺も切るとき泣いちゃうかも」
廉が現れて言った。廉が現れると一気に空気が華やぐ。
「廉!廉さ、泣いたらオカマになるって話どう思う?」
湊太が聞くと、廉は笑った。「ほんとなら俺ら全員オカマなるんじゃね?」
「つーか全員オカマなっちゃおうぜww 最初からそのつもりなら泣くの我慢しなくていいじゃんね」
和馬が言ったので廉は突っ込んだ。「結局てめー泣きそうなんじゃねーかw」
「ま、湊太もだけどね」
晴斗が廉と顔を見合わせた。廉も湊太たちの仲間である。要するにフィリピンハーフの親友4人組なのだ。全員母親が同郷で、赤ん坊の頃から同じ埼玉県の街に住んでいる。小学校も中学校も同じで部活も同じバスケ部で、たぶん今は家族よりも長時間一緒にいる。そんな4人が仲良くならない方がおかしい。しかも4人とも同世代の美少年が好きで、4人とも母親譲りの端正な顔立ちなのだ。そんな4人がいまからフィリピンに包茎手術を受けに行くのだ。
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