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9. ふざけるな
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「何が育ててやっただよ…ふざけるな…!」
パサリと音を立てて手紙が机に叩きつけられる
手応えのない感触に、行き場のない怒りや虚しさが募る。何かに当たりたくても、当たるものがなくてはどうにもならない
母からの手紙は無かった
けど、母の事だ
きっと賛成したんだろう
あの人は父さん中心にまわっているから。
結局僕は、会社の跡継ぎのためだけに用意された人間だったって事だ
会社が倒産した今、跡取りは必要ない
必要なくなったから捨てる、ただそれだけ。
実に合理的で、あの人達らしい
自分達が助かるためなら実の息子だろうと売り払うような、最低な奴らのために今まで必死になって頑張って来たのかと思うと、自分が惨めに思えて仕方がなかった。
目が潤み、零れそうになるのを堪え顔をしかめる
泣き叫びたい気持ちを抑え、唇を噛んだ
悲しくはない、寂しさもない
けれど…腹の底に怒りに似た黒いものが溜まって、気持ちが悪い
__今の時刻は5時30分過ぎ
本当に6時に業者が来るなら、もう30分も無い
最初から全て、計画していたのだろう…
そう考えると、校長の表情の意味も分からなくはない
学校を辞めさせることを話していただろうから、何か察する部分があったのかもしれない
「そうだ、クロ…クロは」
家具がない事に意識が持っていかれていたが、ハッとクロのことを思い出し、自室へと急いだ
「クロっ」
急いで3階まで階段を駆け上る
息が上がってしまっているが、気にできるほどの余裕はない
「クロ?クロ…っ?」
いない、どこにもいない
3階の部屋は全部見た、2階だって見た
けど、けど。
「いない……」
見落とした…?
いや、本当なら僕の部屋にいるはずなんだ。
でもなんで…
クロも、あの人達に連れて行かれた…?
「クロ…っ」
全部、失った
朝まではいつもと変わらなかったのに。
無理やり押さえ込んだ涙が、また溢れそうになる
カチ。
ゴーン
ゴーン…
家の中に柱時計の鐘が鳴り響く
「6時…」
このまま闇雲に探しても、きっと見つからない
「くそっ…」
ギリッ、と思わず歯を食いしばる
もしもここに戻ってきたら、とキャットフードをフードボウルにいれる
ここにいてはいずれ業者に見つかるだろう
1度、この家から出なければ…
入ってきた時のまま置きっぱなしになっていた鞄をもう一度持ち直し、業者と対面しないよう裏口へ向かった
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