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荷造り
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呼び出されて行ってみれば、伝えられたのは「魔法を使ってはいけない」という言葉。
理由は説明されることが無く、突然の事に驚くばかりだった
が、2人揃って「今はなんとも言えない」を繰り返すのだから、それ以上聞けなくなってしまった
その後しばらく、魔法を使わない生活が続いたのだが…
こっちに来てから思った以上に魔法を使って生活する事に慣れてしまっていたようで
物を取るだけでも魔法を使いかけてはハッとなるという出来事が何度もあり、それはもう、不便で仕方がなかった_
あれから、3年…
月日が過ぎるのは早いもので、僕ももうすっかり青年らしい顔つきになった
身長も結構伸びたし、声も前よりかは大人っぽくなったはずだ
女の子に間違われるような事も年々減っており、今年に入ってからは1度も起こってない
それでもまだレヴィには追いつかないけど…
レヴィは前にも増して凛々しく、かっこいいと言うよりかは美人と言った方がしっくりくる容姿へと成長していた
父も同様、本当に歳をとったのかと疑ってしまいそうになる。
変わった事といえば、僕の努力のおかげか表情筋がほぐれたのであろう父の、
笑った時の表情がとても分かりやすくなったことだろうか
昔の口角が上がったか上がってないかさえ分からず、目でさえ全く笑っていないように見えた父の笑み
それが日々の会話の積み重ねにより口角はゆるやかにだが上がり、目が細められるようにまでなったのだ。
これは大きな成果ではないだろうか
ただ、出来上がったのがつい男の僕でもドキリとしてしまうような、心臓に悪い微笑みだったのが気になるところではあるが
笑みが見られたこと自体も嬉しかったのだが、その対象が自分だけだと知った時は小さくそして確かな高揚感を覚えた
影から偶然にもそれを見ていた母が、後に仲のいい侍女長に「もう一度恋をした」と熱弁していたのを見て思わず笑ってしまったのは秘密である
…長々と話してしまったが、少しぐらい現実逃避してもバチは当たらないはずだ
なぜなら今日既に、あの日がきてしまったのだから
そう__
学園へと入学しなければならない、8歳の誕生日。
_コンコン
「入れ」
「失礼します」
あれから3年も経てば礼儀作法は一通り覚えられるもので
魔法の練習時間がなくなった分、女性のエスコートの仕方から紅茶の入れ方まで
幅広く教えて貰うことができた。
父には10歳にも満たない少年が…などという考えはないらしい
主に教師役をしてくれたのは父や母のお付きの執事や侍女達だったが、流石は伯爵家と思わせるような優雅で品のある仕草を常々見せられたものだ
はてには…女性式の挨拶の仕方などまで教えてもらいもした。何処で使うかは分からないけど
覚えておいて損は無い、らしい
「…準備は済んだか?」
「…はい」
使用人たちにも手伝ってもらい先程荷造りを終わらせてから書斎を訪れ、今ここにいる。
父の確認に返事をする自分の声が、無意識とはいえどこか暗いものになってしまったのを感じた
少し前から覚悟していたとは言っても、荷物を鞄につめながら感傷深くなってしまうのは仕方がないだろう
正確に言えば誕生日から少しはまだここにいられるのだが、ウィルモールまでの移動時間を考えると本当に数日だけだ
学園では外の者と会うための手続きがとても面倒だと聞いた。
向こうの環境に慣れるまで時間がかかるかもしれないし、今の時点じゃ次いつ会えるかなんて分からない
孤立しないよう努力して生きてきた場所、だけど同時に生まれてからずっと暖かい感情ーー厳しさもだがーーを与えて育ててくれた人達の集まる場所でもある
そこを離れると言うのだから……寂しくない訳がない
この世界での学園の新学期は1月の初めが一般的で、ヴィルモール学園でもそれは同じ
つまり僕の誕生日_12月4日の今日から、約1ヶ月程の1月始めが、丁度入学式となるという事である
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