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―― 偽り(3)
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「…… 放して」
そう言って、僕の腕を掴んでいる先生の手を振り解いた。
「何でもないって事ないだろう? その手首の痕…… まるで……」
「まるで…… 何だって言うの?」
その先を言わさないように、僕は先生を睨み付けながら、言葉を被せて遮った。
「僕が 何でもないって言ってるんだから、何でもないんだよ。 アンタには関係ない」
「関係なくなんてないだろ? 俺は担任として、君の事を心配して……」
(―― 担任として…… だって? 僕の事を心配してだって?)
思わずクスッと笑い声を漏らしてしまう。
「何が可笑しいんだ?」
笑われた事がそんなに気に入らないのか、先生は表情を硬くして低い声でそう言った。
大人はいつだってそう。 僕みたいな子供に馬鹿にされるのが我慢できないんだ。
「―― ッくく…… すみません、つい…… アハハ…… ハハ……」
一応謝ろうとしたけれど堪えきれなくなって、つい声を上げて笑ってしまった。
だって、他人の為に本気で心配する人間なんて、いないでしょう?
皆、見せかけだけの同情をして、すぐに『心配』って言葉を口にするんだ。
それは 大人も子供も同じ。
ただ、問題が起きてしまったら、担任は責任を取らないといけなくなるのが怖いだけ。
見て見ぬふりをしたと言われない為に、ありきたりの言葉を無遠慮にぶつけてくるんだ。
「鈴宮くん、俺は、ただ…… 君が何かに困っていたり、苦しんでいるのなら、力になりたいと……」
「……ふ……、ホントにお節介だね、先生」
僕は、床に足を下ろして立ち上がり、至近距離で先生を見上げた。
「そういうの、本当に迷惑なんだ。 もう帰ってくれませんか」
そう言って、先生の身体を入口の方へ押しやっていく。
先生は押されるまま抵抗すらせずに、ドアが背中にぶつかったところで、僕の肩を両手で掴んで言った。
「じゃあ、お父さんと話をさせてくれないかな」
「父は、仕事で暫く帰りません」
「…… でも、連絡ぐらいつくだろう?」
連絡なんて…… 出来るんだったら、僕がとっくにしてる。
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