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―― 偽り(9)
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「…… 同じクラスの友達……」
彼の言った言葉を、思わずそのまま繰り返した。
「そう…… 友達だろ?」
『友達』なんて言葉、自分で口にするのはずいぶん久しぶりな気がして…… 可笑しくて笑っちゃう。
「…… ふふ、そうだね、友達だね」
「そうだよ。 よろしくな」
彼はそう言って右手を差し出した。 僕がその手をそっと握ると、すぐに強く握り返された。
ふーん、友達ごっこも面白いかもしれないね。
「な、席、こっちだよ」
そう言って彼は、窓際の一番後ろの席へ握ったままの手を引いて連れて行ってくれる。
やっぱり、そこが僕の席だったんだ。
窓際の一番後ろ…… つまらない授業中も、外の景色がよく見えるから退屈じゃないかもしれないな。
「なあ、鈴宮って、下の名前はなんていうんだ?」
彼は、僕の隣の席に腰かけて、身体を乗り出すように僕の方にに向けて訊いてくる。
「…… 伊織…… 鈴宮伊織」
「へえ、伊織っていい名前だな。 じゃあ伊織って呼んでいい?」
僕は、「いいよ」と、応えながら少し口元を緩めた。
「そか! じゃあ伊織、俺のことも下の名前で呼んでよ。 慎矢って」
満面の笑みで彼がそう言うから、僕もにっこりとほほ笑んで返す。
「うん、これからよろしく。 慎矢」
慎矢はすごく嬉しそうにしてる。 屈託のないその笑顔は、きっと真っ直ぐな性格なんだろうなって想像がつく。
学校はつまらないけど、ちょっと面白いゲームを思い付いた気分だった。
君は僕の大事な友達になると思うよ。
そのうち教えてあげる。 ―― 本当の友達なんて、そんなに簡単にできないよ。
窓から差し込む陽射しが僕の机に降り注いでる。 午後から暑くなりそう。
窓の外に目を向けると、ジリジリとグラウンドを照り付ける太陽の下で、体育の準備をする生徒達が見えた。
―― こんな暑い日は、あの中学1年の夏を思い出してしまう。
あの日…… 1学期の終業式の日…… みんなで行った地域のお祭り。 花火大会……。
あの日まで、僕にも友達と思っていた人が何人もいたっけ。
終業式のあのお祭りの夜から、僕の周りは少しずつ何かが変わっていった。 そして夏休みが終わって、2学期が始まると、はっきりと気付かされたことがあった。
この世で信じられるのは、自分と、それから僕を愛してくれる父さんだけなんだと。
―― たとえそれが、歪んだ愛だとしても。
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