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いつものようにクレープを食べながら公園のベンチに座っていた
もう何も考えたくない
毎日不安を抱えながら生きている事すら笑える
地面に落ちていた銀杏は雨に打たれ、汚い落ち葉になっていた
今の俺みたい・・・・・・綺麗な時はみんなで写真を撮り、汚くなればただのゴミ
輝きなんてほんの一瞬なんだ
そんな事を考えていると、誰かの視線を感じた
常に視線を気にしているからすぐに気付いた
相手は学生か・・・・・
何の用なんだ?
無視しようとしたけど、気になったから声を掛けた
驚いた事に、クレープを知らなかったらしい
俺の食べている物が知りたかっただけみたいだけど・・・・・・
大きなお腹の音が聞こえたので思わずクスリと笑い、同じ物を買って手渡した
いい笑顔でクレープを食べる姿を見ながら感じた
こいつは俺とは別の場所で生きている人間だと
苦しい事も辛い事も知らずに温かい場所で手間ひまかけて育てられている胡蝶蘭
俺はいつも踏みつけられる道端の雑草
でも、こいつはそんな俺を普通の人間として見てくれていた
まぁ、知り合ったばかりだしそんなものか・・・・俺の事なんかわかるはずも無い
お互い意味の無い自己紹介をしながらクレープを食べていた
話を聞くと、こいつは駅も知らずに歩いていたらしい
駅はここから逆方向
制服から考えて、こいつの住んでいる場所も俺にはわかる
そのまま駅まで送ろうとしたけど気持ちが変わった
何だろうな・・・・
きっと俺は寂しかったのかも知れない
誰にも言えない秘密を抱え込んでいる事に少しだけ疲れてしまったんだろう
でも、その気まぐれが俺の道を大きく分ける事になるなんてね
燕羽の住んでいる所は金持ちしか住めないような豪邸がある待っている場所
小高い丘の上にある感じかな
ここからの夜景は綺麗だけど、ここに住んでいる奴らにはこの輝きが見えていないんだろう
ずっとしがみついている燕羽に声を掛けて、バイクから降りた
マジで震えてるとかこいつは・・・・・・
「綺麗」
「だな」
やはり見えていなかったらしい
毎日身近にあるものには気付かないって事か
そしてしばらく夜景を見て走り出した時、燕羽が気付いた
俺が一番見たくない物にね
坂を曲がった所に見えた物はパトカーの嫌な明かりだった
そのまま通り過ぎようとした時、燕羽が信じられない事を言った
どうやらその家がこいつの家だったらしい
でも、どう見ても事件の匂いしかしない
勘でわかる
だから確かめる必要があった
俺にとっては命取りの行動だけど、こいつを一人には出来なかった
野次馬に紛れて話を聞いて驚愕した
もちろん燕羽にも聞こえていただろう
倒れそうな体を支え、顔が見えないようにパーカーを羽織らせフードをかぶせた
そしてその場から離れる事にした
郊外のホテルに部屋を取り、とりあえず燕羽を休ませる事にした
顔色は悪く、ただ泣いている燕羽
当たり前だよな
親が人を殺して自殺したんだからさ
「大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「少し寝ろ」
「・・・・・・・・・・・・うん」
俺は自分の事で精一杯だった
どうしても気になって、スマホから状況を確認した
「アウト・・・・だな」
既に俺の犯罪は警察に流れていた
捕まるのも時間の問題だ
煙草を吸いながら、空っぽの頭でぼんやり壁に掛かっていた雪景色を見つめていた
何も考えられない
逃げる事すら面倒になっていた
そのあたりから俺の頭に死と言う言葉が見え隠れしていた
「翔・・・・・」
そのとき感じた手の温もり
燕羽が俺の手を握りしめていた
とても温かい手だった
もっと温もりが欲しいと思ってしまう自分を必死に止めていたのに
燕羽も俺と同じだった
今のこいつはもう輝きすら失われていた
お互いの寂しさや不安を埋めあうように俺達は抱きあって狂った
その場限りでもいい
何もかも忘れたい
でも、時間は止まらない
着実に時を進める
疲れ果てて眠る燕羽を置いて出て行こうとも思った
でも・・・・出来なかった
こいつに突然告白された時、正直嬉しかったから
今なら手を伸ばせば届く場所にこいつはいる
でも・・・・・・・・明るい未来は存在しない事もわかっていた
次の日、俺は燕羽の隣に居た
煙草を吸いながら、ぼんやりと考えていた
そして俺は燕羽にずっと一人で抱え込んでいた秘密を打ち明けた
逃げ出すのならそれでもいいと思っていたのに・・・こいつは
その時の俺の中には、自首する事も逃げる事も考えてはいなかった
逃げても毎日不安が募るだけ
自首が一番いい方法なんだろうけど、俺には罪を償っても今の社会には適用できないような気がして
だから・・・・・・答えは最初から決まっていた・・・そう、死のうと考えていたんだ
選択は三つと言いながらね
燕羽に尋ねても仕方が無いけれど、一応尋ねてみた
驚いた事に、こいつは俺と死ぬと言った
さすがにその選択肢までは考えていなかった
でも、決意は固そうだ
こいつにとっての幸せが俺と死ぬ事なら叶えてやりたい
俺の我儘なのにね
昨日までは何も知らずに生きてきた温室育ちの人間
確かに、殺人犯の父親のレッテルを張られて生きて行くのは辛いだろう
「出ようか」
「うん、でもどこに?」
「お前のやりたい事は?」
「ん~、海が見たいかな」
「わかった、後は?」
「遊園地」
「オッケー」
「楽しみだね」
「ああ」
最後の思い出ぐらい作ってもバチはあたらないよね?
こいつには後悔を残して欲しくないと思ったから
そのままホテルを出て、最初に銀行にコンビニに向かいお金を全て下ろした
その足で燕羽の服を買い、着替えさせて適当な電車に乗り海を目差した
「似合う?」
「うん」
「えへへ」
制服はゴミ箱に捨てた
もう必要の無いものだから
海に着いたのは夕方
丁度夕陽が沈みかけているところだった
「綺麗だねー」
「だな」
「前にも見たんだけど、今日みたいに綺麗じゃなかったんだ」
「そっか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?」
「その時、初めてキスをした」
「うん」
「よくわかんなくてこんなものかって・・・・あは」
「好きじゃなかったのか?」
「多分ね・・・・・可愛いとは思ったけどドキドキはしなかった」
「じゃ、今は?」
「・・・・・・・・・・・・・ねっ?」
「うん」
燕羽は俺の手を心臓に当てて照れくさそうに微笑んだ
「俺も同じだよ」
そう言って燕羽を抱きしめて心臓の音を聞かせた
「ホントだ・・・・嬉しいな」
「俺も」
その後、浜辺に座りキスを何度もしながらじゃれ合い、夜になるのを待つ事にした
「夕陽って沈むのがはやすぎ」
「だな」
「どうして楽しい時間はすぐに終わってしまうんだろうね」
「神様のいじわるってやつかもなー」
「え~~!」
「でも、俺達にはまだ時間がある」
「そうだね・・・・うん」
永遠ではない時間を最期の時まで生きようと決めた
煙草に火をつけると燕羽が言った
「あっ!俺死ぬ前に煙草吸いたい」
「ん?」
「吸いたい吸いたい」
「ったく・・・・」
自分の吸っていた煙草を燕羽の口に近付けた
その煙草を何も考えずに思い切り吸い込んで・・・・・むせた
「ゲホッゲホッ・・・・・くるしっ・・・」
「だと思った」
「でも、これでもうやりたい事はやったしね」
「そっか」
「これからどこ行くの?」
「そうだな・・・あそこのホテルに泊まろうか」
「えっ?でも・・・・」
「金ならある・・・・綺麗とは言えないけどね」
「でも、予約しなくても大丈夫かな?」
「そうだな、スマホ貸して?」
「うん」
燕羽にスマホを借りて、ホテルを調べ電話をした
宿泊理由は適当に考えて何とか予約が取れた
「オッケー」
「よかった」
「でも、このままでは怪しまれるからどこかで旅行用のカバンを買って行こう」
「わかった」
小さな商店街に向かい、安い旅行カバンを買いついでに下着や替えの服も買った
それをカバンの中に入れて燕羽に帽子をかぶせた
「ん?」
「お前童顔だし」
「そか」
「一応大学生で予約してあるから」
「わかった」
これで怪しまれる事はないはずだ
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