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⑤
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その日の夜、浅海は何かを決心したのか吹っ切れた顔をしていた。
玄関で浅海を迎え入れた娘はその顔を見て、それなりに判別がつくようになった頭でその固い決心に気がつく。
浅海は玄関に当然のようにある妻の靴を確認すると、迷わずリビングに押し入った。
ドアを開け、迷いのない浅海の顔を見た妻はぽかんと口を開けて浅海を凝視する。
「あなた……? どうしたの、早いわね」
そう言って、座っていたソファーから立ち上がろうとするところに、浅海はその前に置かれている机に『紙切れ』を叩きつけた。
それは――
「あ……え、あ……なんで……?」
離婚届けであった。
浅海の妻はその紙を見てわなわなと震えていた。
「あなた……私、私、なんで、どうして……っ!」
「すまない……。もう、無理になった」
浅海は物静かな表情でじっと妻を見つめた。しかし、その瞳には一切妻は映っていなかった。
こんな時ですら自分を見てくれないことに、浅海の妻は嘆くしかなかった。それでも、諦めるしかなかった。
「全部、知ってるんでしょう……?」
浅海の妻は悲しげな面持ちで浅海を見つめた。微かな微笑は最後の虚勢なのだろうか。
「あの子、あなたの教え子でしょう? 知ってるのよ。あなたに忘れ物を届けた時、学校で見かけたもの。だからついていったの」
「だから……ってなんだ」
浅海の顔つきが変わったことに妻は驚きつつ、その理由が瀬世であることにただただ嫉妬した。
「だってあの子――ずっとあなたのこと見てたから」
どくん、と心臓が高鳴った。
思わず顔が綻びそうになる。
本当にもう、身体も心も瀬世に侵食されてしまったのだろうか。
「あなたのことが聞きたいって言ってね。私も聞いてみたかったし。利害の一致ってことね」
「でも、違う男とホテルに……」
「そうね……悪いことしたわ。話してたら気が参っちゃったのかしら」
すると、浅海の妻は目を細めて冷たい目で笑った。
「それとも……そう――誘導されたのかしらね」
その瞬間、部屋の空気がピリッと張り詰めた。
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