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昼食を済ませ、昼からの授業のために担当教室に向かう。掛け持っているクラスは担任である三組と五組、また他学年一クラスである。これから向かうのは五組であった。
そういえば、今日から転校生が来ていたな――
夏休みまで数週間前だというのに転校生とは珍しい。卒業まで数ヶ月なのに転校生というくらい珍しい。
授業まで後五分、いつも通り余裕を持って教室に着くことが出来た。
教室の扉を開けると奥の窓際の角に人だかり――ほとんどが女子だが――が出来ていた。転校初日はよくあることである。しかし、女子があの様子だと多分相当な男前なのであろう。
浅海の予想は当たった。
チャイムが鳴り、人だかりが消えるとそこからは色素の薄い栗色の髪をした美少年が現れた。薄い唇、形の良い鼻梁、そして――こちらを捕らえて離さない瞳。
ぞくりと悪寒を覚えて身構えると、美少年は首を傾げてにこりと笑った。
確か名前は――佐和田夏輝だったか。
「さぁ、授業始めるぞ」
疑念を振り払うように、浅海は授業を始めた。それは自らを鼓舞するためである。授業に入ると自分でもおかしいくらいに集中出来るのだった。
――それなのに。
なんだ、息が苦しい。
どうして、いつもはこんなこと……――
視られてる。一心に視られてる。ずっと、ずっとずっとたった一人に視られてる。
なんだ、誰だ、誰だこんな――今にも喰ってやろうって殺意のある視線を投げるのは。
ゆっくり振り返ると、一人の男の視線とぶつかった。佐和田であった。
佐和田はまた首を傾げてにこりと笑う。すると、浅海に向かって口を動かし始めた。不思議に思ってその動きで言葉を読み取る。
読み終えた言葉に浅海はごくりと喉を鳴らすほど恐怖した。
『――かわいいね』
浅海はひっと誰にも聞こえないくらい小さな悲鳴をあげるとそちらに背を向けた。
なんだ、なんだっていうんだ。
もちろん自意識過剰なわけではない。女子生徒にだって、時々だが男子生徒にだって冗談混じりに言われてきた言葉だ。
それなのに、どうしてこんなに冷や汗が出てくるんだ。
「ぜ……瀬世……」
小さな声で、しかし確かに瀬世の名前を呼んだ。無意識に助けを求めていたのだった。
怖い。怖い怖い。
生徒にこんなにも恐怖を感じることは初めてであった。しかし、覚えるのは身の危険。肉食獣に狙われる小鹿の気分である。
浅海はゆっくりと深呼吸をして、生徒たちになるべく悟られぬように授業を進めていった。
その様子を佐和田はじぃっと、獲物を見るような目でただ見つめていた。
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