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授業が終わり教室を出ようとすると、「先生」と呼び止められた。その声はまるでヴィオラのように美しい微低音だった。
聞き馴染みがなくて振り返ると、佐和田が立っていた。あの貼り付けたような笑みを浮かべながら。
「な、なんだ……?」
「先生の名前わからなくって。教えて欲しいと思ったんですけど」
佐和田はまた首を傾げた。癖なのだろうか。
浅海はおずおずと口を開いた。
「あ、浅海だ。ほら、ここにも書いてあるだろう」
浅海は首にかけてあるカードを示した。『国語 浅海幸一』と書いてある。
「浅海幸一先生……素敵ですね」
そう言ってにこりと笑うと、佐和田はあの獲物を見る目で浅海をしっかりと捕らえた。
その目に浅海はびくりと身体を震わせる。金縛りにあったかのように動くことが出来ない。その瞳から目が離せない。そらしたら今にも食べられそうだ。
「少し先生が気になってきました。また話しましょ」
佐和田はそのまま浅海をその場に残して自分の席に戻って行った。
一見普通の生徒のように見える。しかし、あの瞳の奥には身も凍るほど恐ろしい殺意が蔓延っているのだ。
しかし、一体なんだというのだ。何故彼は自分をあんな目で見る。何故あんな言葉を呟く。一目見ただけで自分を獲物の認識したというのか、本当に獣だとでもいうのか。
佐和田夏輝。一体何を企んでいるんだ――
あの綺麗な顔の下にはきっとどす黒い顔が卑猥な笑みを浮かべているに違いない。
「……瀬世」
浅海は足早にその場を立ち去り担任にである三組に向かった。瀬世に会うために。会ってその胸に顔を埋めるために。
会って安心したかった。この恐怖を一瞬でも良いから忘れたかった。
三組にたどり着き扉を勢いよく開けると「瀬世……!」と叫んだ。
教室中の視線を一心に受ける。
瀬世は驚いた表情を浮かべると、浅海の様子を見て一瞬にして険しい顔つきになった。すぐさま浅海の元に駆け寄る。
「……外、出ようか」
「あ、あぁ……」
二人は廊下に出ると誰も来ないように階段まで向かった。五組から一番遠い階段に。
「……それで、どうしたの。死にそうな顔して」
瀬世は浅海の頬を優しく撫でた。
それだけで浅海の中からは暖かい何かがじんわりと広がっていく。安心する。
「瀬世……オレ、怖くて」
「……何が」
瀬世は苛立ちを隠せないようだった。浅海をここまで怯えさせるのは何だ、誰だ。浅海をぐちゃぐちゃにかき回して良いのは自分だけだというのに。
浅海は瀬世の胸に顔を埋めると、ゆっくりと口を開いた。
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