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④
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「きょ、今日から転校してきた生徒がいて……その子が、授業中に口パクで、『かわいいね』って……」
「……『かわいいね』? なにそれ」
瀬世は浅海をぎゅっと抱き締めた。しかし、苦しくなるくらい強く締め付けてきた。
「ちょ、ちょっ……かはっ、苦しいっ。瀬世ぇ……」
「……先生が可愛いのなんて当たり前。だけど――」力を弛めて浅海を熱く見つめる。「そんなこと知ってるのは、オレだけで良いんだ」
瀬世の瞳は浅海だけをしっかりと見据えていた。瞳の奥は汚れもない純情が。一途な恋心が見える。
「……先生がどれだけ可愛いか、みんなはちゃんと知らないけれど、オレは知ってる。でも、誰にも教えるつもりもないし、見せるつもりもない。オレだけのなんだ。先生は、オレのなんだ」
珍しく饒舌に語る瀬世の表情は驚くほど憂えていて、ひどく優しかった。
多分、心配なのだろう。土に埋もれていた宝玉をせっかく手に入れたのに、その価値に気づいたどこぞの野郎に横取りされちゃたまったものじゃない。
浅海は確かに瀬世を好いてはいる。しかし、きっかけは強引なものだった。それがまた不安にさせる。また、流されてしまうのではないか――と。
「……先生はオレが守るから。オレが先生が死ぬまでずっと、守るから」
あぁ、なんて嬉しいことを――
自分が死ぬまで側にいてくれると確約してくれるというのか。本当に永遠の愛を誓ってくれるというのか。
嬉しい。嬉しいけど怖い。裏切られるのが、捨てられるのが。瀬世を信用していないわけじゃない、大好きだ。手放したくない。
けれど、一回りも二回りも歳が離れているのに、この関係がずっと続くのだろうか。いつの間にか二人の間に溝が出来ているのではないだろうか。そんなことを考えれば考えるほど、自分は余計に怖くなって瀬世にしがみついて放せないのだ。
「本当……? ずっと、守ってくれるのか?」
「……うん、約束。何があっても絶対守る。先生に手を出すやつがいたら――殺すから」
そう言って苦笑いする瀬世に浅海は複雑な思いを抱きながらも何も言えないでいた。
「へぇ……"所有物"だったか」
階段の影で佐和田は二人の様子をじっと伺っていた。その目は嫉妬の炎が渦巻き、卑しく笑っていた。
「残念だなぁ。でもまぁ……奪えばいいし」
そう呟いてにやりと笑うと、自分の教室に戻っていく。
足音もなく、静かに、去っていったのだった。
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