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⑨
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浅海が教室を後にしようと扉に手をかけると佐和田が浅海を呼び止めた。
「先生オレね、声優は諦めたけど……今は医者を目指してるんだ」
「い、医者……?」
「はい、頑張って勉強して、医者になる。守りたい家族がいるから」
そう言って佐和田は笑った。自信を顔いっぱいに描いて。
「あぁ……頑張れ。応援してる」
浅海は佐和田ににこりと微笑んだ。佐和田はその笑顔に頬を染めていたが、気づかない振りをして教室を出た。
扉を閉めると横から知った声に話しかけられた。
「……本当、目を離すとこれだよ」
知っている、このビロードの声を。その声の持ち主も。
「あ……ぜ、瀬世……いたの」
瀬世はため息をついて浅海の前を通り過ぎて階下に行くために階段に向かう。浅海は急いでその歩調に合わせてついていった。
「瀬世、違う、違うから話を聞いてほしい……」
「……わかってる、先生の意図も、アイツの事情も」
「アイツって……佐和田の両親のこと知って……?」
「……話聞いてたからだいたいわかる。強いやつだよ。だから会わせたくない。意志が強いから、絶対先生のこと諦めない」
階段を下りる瀬世を浅海はシャツをつかんで引き留めた。はぁ、とまたため息が頭上からした。怖くてビクッと肩が震えてしまう。
「……心配したんだ。本当に……ッ」
「瀬世……ごめん、オレ自分勝手で。佐和田のこと、オレがなんとかしないとって思って、だから――」
「……先生のことちゃんと信じた。だからずっと止めずに話を聞いてたんだ。ちゃんと先生だから、オレは邪魔しちゃいけないって……」
瀬世は浅海の腰を抱き寄せるとその肩に顔を埋めた。甘い香りが鼻孔いっぱいに広がる。余りの甘美さに思わず身震いした。
「……良かった、オレを選んでくれて」
瀬世はすり……っ、と額を擦りつけた。
きゅうっと胸が鷲掴みにされたみたいだった。可愛い。可愛い。
瀬世が甘えている……ッ――
いつも堂々として冷静でカッコいい瀬世が、今はとても可愛い。まるで猫みたいだ。
浅海は瀬世の頭を撫でた。つむじさえも愛しい。
「今日、変だぞ……良いけど」
「……心配しすぎて疲れた。たまには癒されたい」
「はは、良いよ。今日、シよ」
瀬世は浅海を見上げるとニヤリと笑って、その喉にかぷりと食いついた。
「……天国見せたげる」
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