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夏の始まり
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「斎藤竜也は1ヶ月の自宅謹慎処分になった。」
潤がサロンに入ってくるなり、不機嫌さを隠しもせずそう言った。今や学園内は、一昨日起きた事件で話題が持ち切りであるため、情報1つ集めるのに大変な騒ぎになる。生徒会に楽師科Sのクラス長が来たとなれば、いよいよ大事であると噂好きな生徒達が嗅ぎつけ、寄って集って潤に話し掛けたのだろう。潤はいつも八方美人な振る舞いをしているのだが、実は他人との交流があまり好きではない。そのため、囲まれてあれこれ質問攻めにあい大変機嫌が悪くなっている。
「お疲れ様です。随分と厳しい処罰ですね。」
涼介が労りの声を掛けると、幾分か表情が和らいだ。
「ああ、生徒会はここまで厳重な処罰をするつもりは無かったが、何故か学園側が介入してきて、勝手に処分を決めたんだと。」
ドカリとソファに座った潤がそう報告すると、窓の側に立ち外を眺めていた理人がピクリと反応した。
「……学園側も気がついたか。」
「まぁ、全てを斎藤一人に押し付けて解決っては考えてねぇだろうよ。ただ、どうにかしてこの不祥事を揉み消す策を講じるだろうな。」
そうか、と小さく呟いた理人は窓の外から視線を外し、涼介を見た。
「牧野の入院先はどこだ?」
「お前、まさか見舞いに行く気か?」
潤が反応してソファに深く沈めていた体を起こすと、理人は振り返り潤の瞳を真っ直ぐ見つめてた。潤は、見舞いに行って話を聞いても、牧野の都合のいい様に脚色された話しか聞けないと思い、それを知らない理人では無いだろうとその瞳を見つめ返す。
「簡単だ……直接本人を〝見れば〟いいだろう。」
潤の思ったことに答えるような返事が帰ってきて、一瞬驚いたが、それを表に出さず飄々とした様子でなんとか乗り切る。
「ああ、そう言えばお前、人の記憶を見られんだっけか。」
潤はなんとなく、理人は恐ろしい奴だと思った。見た目はこんなにも美しく、儚げなのに持つ力もやることも、非常にえげつない。敵に回してはいけないの代名詞とも言える。
「まぁ、お前に俺達は従うまでだからな。」
そう言うと、理人の口からあまり聞いたことの無い、低い音が漏れた。
「は?……意見は言ってくれるだろう?危険なら、止めてくれるだろう?俺は俊一郎の取り巻きのような能無しは要らない。意志を持った、強い仲間、家族が欲しい。そして、俺はお前達に危害は加えない。」
最後の一言を聞いて、しまったと思った。言葉には出さなくても、理人は思いを感じてしまう。きっと、理人は痛みを感じたに違いない。幸い、まだ番犬聖夜が帰ってきていないため、素直に謝っておく。
「悪ぃそうだったな。心配すんな、俺達は最強の僕になってやるから。」
笑いながらそう言う潤は、先程までの機嫌の悪さが無くなり、いつも通り人好きのする笑を浮かべている。
「だが、1人では行かせられねぇな。最低3人でじゃ無きゃ、クラス長として外出届を担任に提出出来ねぇ。」
「人に心配するなと言っておきながら、潤は俺を心配するのか。」
「あ?あたりめぇだろ。」
「……。」
「んな、不満そうな顔すんなよ。お前が居なきゃ、俺達は何のために生きればいいんだ?主を無くした楽師団はただの化け物集団になっちまう。お前の方がよく知ってんだろ?だからこそ、お前を、俺達は失えない。まぁ、お前じゃ無きゃ俺なんかとっくに逃げてるね。こんな荷物背負ってやるのも、お前がいる楽師団だからだ。自信持てよ、お姫様。」
「チッ……貴様、それは言うなって言っただろう!」
途中まではいいことを言っていたのに、理人の嫌がる単語〝お姫様〟をあえて照れ隠しに使った潤。その様子を見ていた涼介は、苦笑いを浮かべるしかできない。そして、タイミングよく、サロンに鉄平、聖夜、怜、流生が戻って来た。
「おお!珍しくリトがオコだよ!何したの潤?」
「あ?なんで俺だって決めつけてんだよ。」
「え?違うの?」
「いえ、お姫様と、言っていましたよ。」
「ほら!ダメだよ、それ言っちゃ。気にしてるんだから。」
「鉄平、それあまりフォローになってないよ。おいで理人、流生が女子から貰ってきたお菓子食べよう。」
窓際で不機嫌オーラを放っている理人を、聖夜は手招きしてソファに座らせる。
「理人さん!このマカロン、この間テレビで紹介されてから、なかなか手に入らないらしいですよ!」
25個入りのマカロンの箱を封を切りながらローテーブルに置く流生。それを眺めながら、涼介は思ったことを口にする。
「へぇ、流生くんはなぜ、そんな凄いお菓子を頂けるのです?」
「「「タラシだから。」」」
涼介と流生以外、いつの間にか帰ってきていたアリスと香を含めた全員が口を揃えて答えると、二人は一瞬ポカンとした。そして直ぐに涼介は笑いだし、流生は慌ててちがうちがうと両手を顔の前でブンブン振った。
「え!?酷い!俺めっちゃ頑張ってんのに!」
「まぁ!パリジェンヌのマカロンですわ!」
「ほぉ、さすが流生、今度はどこの令嬢をたらしこんだ?」
「んもー!香さんまでーーー!」
久しぶりに、賑やかな笑い声がサロンに響いき、理人は小さく微笑んだ。
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