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夏の始まり(3)
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ジリジリと暑い日差しが降り注ぎ、夏休み明けに行われる体育祭の準備が始まった。中間考査を全員無事クリアして、例の階段で起きた事件の被害者(仮)牧野綾斗に会いに行く時が来た。流生は、理人に同行することが決まったあとから口数が減り、言葉に詰まるような場面が増えた。鉄平はあのタイミングで言ってしまったのは不味かったかと思っていたが、それに目ざとく勘づいた理人に、あの時はあれしか言えることがなかった、と言われ多少の罪悪感はあるものの、何も出来ないでいた。
今日も流生は調子が悪く、怜のそばで読書をしている。いつもなら、鉄平や潤、理人達の他愛も無い話に入ってうまい具合に盛り上げている彼が静かだと、自然に教室もサロンも静かになる。鈴蘭が全体的に気まずい雰囲気なのは10人全員が分かっていた。その中でただ1人、自分のペースを全く乱さないのが理人で、彼は机に頬杖をついて教室の窓の外を見ている。
「流生、思ったまま言葉を口に出せ。」
ぼーっとしていると思われた理人が、やはり窓の外を見たままそう言った。サロンの静けさが増す。聖夜はそれを気にせず、ウエストポーチにもしもの時のための守札を入れて準備をしている。
「何も考えるな。感じたこと全てがお前で、それ以外を考えるのは無駄な作業だ。やめろ。」
いつにも増してストレートに放たれた言葉に、聖夜以外、皆驚いた。理人を見ても誰も彼と目が合わない。彼の視線は、太陽が照りつけ運動部が走り回るグラウンドに向けられている。透き通るエメラルドが何を見つめ、考えているのか全く分からない。ただ、流生だけで無く団員全員に言っているのだと言うことは分かった。聖夜が立ち上がり、ウエストポーチのバックルがカチンと音を立てて腰に装着された。
「……行くぞ。」
「はい。」
理人は立ち上がると、何も持たずにサロンを出ていった。
「流生、お前なら大丈夫だ。」
聖夜は流生の横を通り過ぎる時、ポンと肩に手を置いてそう言いながら理人を追う。
「いってらっしゃーい!」
鉄平の呑気な声が響き、流生の表情も柔らかくなる。それに気がついたアリスが、流生に声をかける。
「流生、いってらっしゃい。」
「お土産よろしくね。」
「……お土産って、遊びに行くわけじゃないですよ、鉄平さん。……いってきます。」
「気をつけてね!」
「はい!」
先にサロンを出て教室の前で聖夜と理人は流生を待っていた。
「聖……。」
「昨日決めたじゃん、大丈夫だよ。流生は分かってる。」
「……。」
「言葉がキツかったと思ってる?」
コクンと理人が頷くと、聖夜はよしよしと頭を撫で、目を合わせて微笑んだ。
「きっと上手くいく。初任務はきっと誰だってこんな感じだと思うよ?分からないけど。慧さんだってそう言ってたじゃん。」
「そうだな。」
理人が頷くとタイミング良く、スクールバッグを持った流生がやって来た。
「すみません!」
「よし。忘れ物ないな。」
「俺は大丈夫だよ。」
「俺も多分大丈夫です!……理人さん手ぶらで行くんですか?」
「身軽な方がいい。」
「ふふふっ。いつもそうだもんねー。」
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