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嘘の鏡合わせ(6)
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寮に戻ると、理人はすぐにシャワーを浴びに行った。聖夜は着替えとタオルを脱衣場のバスケットに入れて、キッチンで軽い食事を準備する。この何気ない時間が、聖夜は1番幸せだった。別に特別なことは何もないけれど、今日も無事に理人が生きているのだと実感できるから。
しばらくすると、髪からぽたぽたと水を垂らしたまま理人が戻ってきた。
「聖、つぎ。」
「こら、髪から水が垂れてるよ。こっちおいで、拭いてあげるから。」
「・・・いい、自分でやる。」
「そう?髪拭いたら、これ先に食べててね。」
「分かった。」
頷く理人にいい子だねと、笑いかけシャワーを浴びに行った。きっと彼は、食事をせずに聖夜が戻るのを待っているだろう。今までの一度も、聖夜を待たずに食事をしたことが無いから、簡単に想像できる。前にそれとなくなぜ待つのか聞いてみた時彼は、「いつも独りだから、聖夜といる時ぐらいは一緒に食べたい。」と言っていた。彼の実家がとても複雑な環境なのは、よく知っている。誰だってあんなに窮屈な家で過ごしたくないだろうに、理人はそれを強制されているのだから、離れていられる時だけでも、心健やかに過ごして欲しいと思う。そのために聖夜ができることは、彼に気を使わせず、思う存分甘えさせることくらいだ。しかし、聖夜はこれが自分の欲をも満たしていることに気がついていた。彼が自分に依存し、長く離れることを怖がる姿がとても愛おしく、心が不思議な感覚で満たされる。
「お待たせ〜、さぁ食べようか。」
今日はカニ缶を使ってカニ雑炊を作った。理人は柔らかい米が好きらしい。前に味噌あじのおじやを作った時は、とても嬉しそうだったし、珍しく少しだがおかわりもしていた。
「ね、理人、お米好き?」
「急にどうした?まあ、好きだが。」
「そっか!あのね、朝日奈の家に行く途中にチェリーランドってあるじゃん?あそこのジェラート屋さんにお米のジェラートがあるんだよ。」
理人の目が輝いて見えるのは、多分気の所為ではない。スプーンを持つ手に少し力が入っている。
「今度、寄ってみない?」
「寄る。」
「ふふっ楽しみだねー。」
食事を終え、聖夜が明日の朝食の準備をしている間に、寝る支度を整えた理人はソファで船を漕いでいた。ようやく聖夜が戻ってきて声をかける頃にはすっかり寝付いたのか、静かに呼吸をしているだけになっていた。
「あーあ。」
苦笑いしつつ、起こしたら可愛そうだなと思いとりあえず寝室までの扉を全て開けてきた。それから、そっと理人を抱き上げる。するりと理人が聖夜の胸に頬を寄せ、安心しきったようにまた寝息を立て始めた。ゆっくりベッドまで運んで下ろすと、ぐいっと手を引っ張られそのまま聖夜は理人に覆いかぶさった。
「びっくりしたー起きちゃったの?」
「・・・。」
これは完全に寝ぼけている理人だ。ギューッと抱きついたかと思うと徐々に身体から力が抜けていき、また寝息を立て始めた。今日は相当疲れたらしい。それもそうかと思いつつ、理人の前髪をよけて額に触る。あの男のどこに触れ、何を話したのか、知りたいけれどその勇気がない。はぁとため息を吐いて理人の唇に親指を当てると、彼が擦り寄って来た。自然と口角が上がる。そっと額にキスをして、そのまま聖夜も横になった。
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